K/Night

K/Night

―Halloween costume―未完



―――カタン
何処からか、音が漏れた。
―――ぴちゃん
其処からは液体が散乱していた。
―――ゴトン
暗闇の中の影が動く。
挑戦状を受けとって。

旧校舎へと赴くのは水城の役目だ。
ここで、後からくる蒼麻とも待ち合わせている。
「梓蘭」
旧校舎に入るやいなや、呼びかける水城。
呼び声に応じて、フワリと現れる白い影。
それが、梓蘭だ。
「分ったか?」
前々から頼んでいた情報を、今水城は得ようとする。
えぇ、と頷いて、それから柔らかく梓蘭は微笑む。
「蒼麻さんが来る前に、まずここの見取り図を図書室から持ってきましょう。その方が案内がし易いですし」

校内見回り、を兼ねての証拠探し。
無論真っ先に向かうのは事件の起こった理科室だった。
其処に、ハロウィン用のべっこう飴を作る理科部の部員もいるはずだ。
「しかし・・・・あんな事があった場所の中がもう開放されるとは、な」
まぁそれで自由に動けるけど、と付け足して竜也は言う。
「理科室が現場ではないからな。被害者はその外で殺されているのだし、その場所からは証拠の痕跡も無かった。しかも授業で使う場所だ。何も無いなら開放せざる負えなかったのだろう」
苦笑して水生は返答する。啓がその事の愚痴を零していたのはつい昨晩の事だ。
「警察が捜して無かったと、言っても俺達なら探せる可能性がある。良い条件じゃん、理科室の開放っていうのはさ」
ニタリと笑う竜矢はこれから悪戯をする子供そのものだ。
3人は長い廊下を歩く。
甘い匂いが誘う様に漂ってくる。
「ハロウィン、出来たら良いね」
口癖になってしまったその言葉を、竜矢は今日も口にする。
「そうだな」
その返答もお決まりの物だ。
竜矢が理科室の戸を開ける。
空気が流れて甘い匂いが廊下へ逃げ出した。
「便利屋か」
真っ先に気付いたのは理科部の部長だ。
「大分出来たぞ?後はイベントの日まで冷蔵庫で保存しておけば良い」
「助かります」
軽く頭を下げつつ水生は礼を述べる。
部長は眼鏡を上げて笑った。
「いや、こちらも力になれて嬉しいよ」
「良い人だな」
その様子に後ろで控えていた竜也が竜矢に囁いた。
「うん。俺が急に頼んでも快く引き受けてくれたし」
部員から貰ったのであろうべっこう飴を嬉しそうに竜矢は舐める。
「では、こちらから家庭科の担当教師に許可を取っておきます」
「あぁ、宜しく頼むよ」
話しを進める水生と部長。
その後ろ姿を見遣りながら竜矢は片眉を上げた。
水生と親しそうに話すのは誰だって嫌だ。
と、そんな事を言ったら水生にどんな顔をされるか分からないので内心で秘めて決して言葉には出さない。
「おぃ、あんま不機嫌な顔するなよ」
隣の竜也が小さな声で囁く。
ムッとしながら振り返って、竜矢は顔を顰めた。
「・・・・なんだ?」
同じく眉を寄せて竜也が尋ねる。
すると竜矢は唇に人差し指を当てて部員に聞こえないように声を落とした。
「匂い」
「は?」
「血の匂いがする」
「・・・・・・・・」
「部長ー!!」
2人のやり取りは突如上がった部員の声に遮られた。
水生と話していた部長は呼んだ部員に首を向ける。
「どうした?」
「ビーカーが足りませんー!棚に全然ありませんよ?」
「誰か使っているんじゃないのか?」
「使ってませんよ?片付けし始めてますし」
「使う前に確認しなかったのか?」
棚に歩みよりながら部長は確認を取っていく。
1人になった水生を竜矢は引き寄せた。
「・・・・どうした?」
「血の匂い」
「……何処からだ」
「分からない。散漫してる。極僅かな匂いだけど」
真剣な表情に水生は小さく舌打ちすると、竜矢を引き寄せて耳元で、
「探れ。不自然にならないように」
命令した。
にやりと笑うその表情に、竜矢も唇を上げる。水生からの命令は、嫌いではない。否、むしろ竜矢は好きだ。
「了解」
竜也に合図を送って散る2人を見送って、水生は話し合いをする部長のもとへと近寄った。
「どうかしたんですか?」
「あぁ・・・・いや・・・・」
言いにくそうに口篭もる部長に対してにこやかに微笑み、問題があるなら相談してくださいと話すよう促す。
「ビーカーがな、足りないんだ」
申し訳なさそうに頭を掻く部長に、水生は棚に視線を移す。
確かに、何度か見た事のある棚の中にはあるはずのビーカーが無くなったいた。
「初めは気付かなかったんだ。ここに来た時、机の上にビーカーが幾つか散乱していたし」
「授業で使って片付けてないと思ったんです。だからそれを洗って他のを出して作業をしていたんですけど・・・・」
「・・・・そうですか」
話しを聞きながら、水生は見逃さなかった。
見えない様に笑い、それから部長に微笑む。
「分かりました。足りないビーカーは教師に相談して補充してもらえるように頼みましょう」
「そうしてもらえるとありがたい」
「では、今から家庭科の教師に許可を取ってきますので、出来あがり次第飴の方を宜しくお願いします」
「あぁ、分かった」
水生は頭を下げると竜矢と竜也を呼んで理科室を出た。
扉を閉めて廊下を歩く。
「どうだった?」
理科室から離れて初めて水生は声をかける。
竜也は竜矢と視線を合わせてから口を開く。
「つい最近動かした跡のある棚を発見した」
「血の匂い、其処が一番強く匂ったよ」
「そうか」
「水生は?」
「ビーカーの置かれていた棚の隙間に壊れたガラスの破片を見付けた」
ニヤリと、口角を上げる。
紐の先端を見つけた。
後は手繰り寄せるだけだ。
「蒼麻と水城の所へ行こう。行動は、それからだ」

家庭科の担当教師に連絡をして、蒼麻は旧校舎へと向かっていた。
その他の事務は適当に済ませた。
家に持ち帰ってでも出来る物だ。
蒼麻は自身が発てる足音を気にせずに軋む廊下を進んで行く。
「っと、水城は確か図書室だったな」
携帯を取り出してメールの確認。
項目別に並べられた受信欄は、竜也、水生、竜矢、水城の個々のボックスがある。
水城の受信ボックスを開いてつい先程来たメールを開いた。
『図書室で待つ』
たった一言。
余分な物はなにもない。
それが水城らしいといえば水城らしい。
小さく笑って、携帯を閉じようとすると、手にある携帯はバイブを鳴らし始めた。
「ん?」
メール受信の表示。
見ると竜也から。
メールを開いてみると、
『家庭科教師への連絡は了解した。今から俺達もそっちへ向かう』
との事だ。
返信項目を押してから蒼麻は、
『了解した。だが、先に表面上だけでも見回りはしておく事。こっちは図書室で待っている』
素早く書き上げると送信項目を押した。
ここは電波があまり届かないらしい。
電波が1本、辛うじて立っている。
窓側に立って電波を確保して無事送信し終えるのを待った。
「・・・良し」
完了したのを見届けて、蒼麻は見えてきた階段を駆け上った。

「あー・・・?っとあと足らない図面ってこれか?」
「それです。良かった、見つかって」
「・・・っとになんでこうも散らかってるんだか」
ブツブツと文句を言いながらも校舎の見取り図を集め終わった水城は、埃臭く薄暗い図書室の中に存在している、古い木のテーブルにそれらを置いた。
誰かがここで肝試しでもしたのか、何処ぞの心霊スポットのような廃屋にある落書きこそないが、そこらじゅうは本で埋め尽くされ、殆どの棚に本は入っていなかった。
以前、竜也と水生が来た時もこのような状態だったのだろうか。
それともこのような状態にしたのがあの2人なのか。
後で文句の1つでも言ってやろう・・・
密かに思って水城は図面を広げる。
同時に図書室の扉が開いて、
「遅くなった」
蒼麻が入ってきた。
「遅いぞ」
「だから悪かったって」
こんな陰気臭い場所に梓蘭がいたとはいえ、放り込まれた―――と言っても自らもそこに向かったのだが―――水城は不機嫌を全開に蒼麻を睨む。
後で何か奢ってやると言ったら、
「俺は竜矢じゃねぇ」
と返されたが、少しは機嫌は良くなったようだ。
蒼麻はテーブルまで来ると広げられた図面を覗き見る。
「随分黄ばんで、ボロボロだな。見え辛い」
「仕方ないだろ。保存もくそもなかったんだからな」
「まぁ良いだろう。取り敢えずは枠組みは確認出来そうだ」
そう言って蒼麻は胸ポケットからペンライトを取り出すと図面を照らし始めた。
図面に掛かっている埃を時折払いながら旧校舎の枠組みを確認していく。
「そういや、水生達は?」
それを隣で覗きながら、まだ見えない3人を案じてか水城は問う。
「見回りが終わり次第ここに来るだろう。さっきメールが来たからな。何か・・・見つけたかな?」
「そう書いてあったのか?」
「いや、勘」
「あ、そう」
期待した自分が馬鹿のように思えて眉間に皺を刻む水城に、蒼麻は図面から顔を上げた。
「3人が何か見つけられなくても、俺達の方に情報はあるだろう?」
そして梓蘭を見た。
目の前で床より少し上で浮かんで立つ梓蘭は、その言葉ににっこりと微笑む。
「何を見つけたか、教えてくれ。梓蘭」
蒼麻が差し出すペンを取り、梓蘭は図面に近づいた。
「ある部屋を見つけたんです」
「部屋?」
「えぇ、表面上では誰も気づかない部屋です」
「まさか・・・」
目を見開き思わず蒼麻の顔を見る水城。
蒼麻も同じ考えのようだ。
梓蘭をに先の話を促す。
しかし梓蘭はにっこりと微笑んで首を振った。
「水生さんと、竜也さん、竜矢さんが来たらお話します」
もうすぐ来ますよ、梓蘭が扉に視線を向けると、
「遅れた」
竜也を先頭に3人が図書室に入って来た。

「と、いう事は、ここに隠し通路があるって事か?」
水城が持つペンライトに照らされた旧校舎の見取り図に描かれた新たな線に、蒼麻は驚きを隠せなかった。
そこには確かに、梓蘭の手によって、本来なら壁しかない場所に通路が描かれている。
「えぇ、随分昔に作られた物らしいんですが・・・何に使われていたのかは分かりません」
そしてまた線を描いていく。
「ここを抜けると部屋が出てきます。申し訳ないんですけど、私にはそこには入れませんでした」
「何故だ?」
同じく図面を覗く水生が難しい表情で問う。
部屋にいる誰もが同じ疑問を持っていた。
「それが・・・お札、みたいなのが貼られていたんです」
「お札?お札ってあの、神社とかで売ってる魔を退ける・・・」
「えぇ、それです」
竜矢の言葉に悔しそうに顔を歪める梓蘭。
「でも、そのお札、新しい物だったんです。多分、誰かが最近貼った物だと思います」
「・・・その部屋、どの方面に続いていたか分かるか?」
「どういう事だ?竜也」
「あぁ・・・」
ライトで図面を照らしながら、顔だけを竜也に向けて水城は眉を寄せた。
竜也は水生に目配せしてから、竜矢が持っていた筒をもらう。
「これは俺達の校舎の見取り図だ」
「・・・これ、普通は持ち出し禁・・・」
「まぁ、それは企業秘密だ」
にんまりと笑う水生。
傍らの竜矢は苦笑気味。
あぁ、そういうわけか・・・
水城は即時に理解した。
こいつ等だけは敵に回さないようにしよう。
「で、これが何か・・・もしかしてあそこで何か見つけたのか?」
「ビンゴ!蒼麻」
勘の鋭い蒼麻を流石と褒める竜矢。
水生はポケットから小さな欠片を取り出してライトで照らした。
欠片は理科室で水生が見つけたビーカーの破片だ。
そんな事を知らない蒼麻と水城は勿論のように顔を顰める。
「それがどうかしたのか?」
「理科室にある棚の隙間に落ちていたビーカーの破片だ。もちろん、あの事件の時には無かった代物。因みに理科室からビーカーが幾つも無くなっているという話を今しがた聞いてきたばかりだ」
「それともう1つ。理科室に血の匂いが漂っていた。それと極最近動かした形跡のある棚もね。匂いの出所は其処からだよ」
水生と竜矢、それぞれが状況説明をしていく。
即座に理解した蒼麻は机に広げられた現校舎と旧校舎の見取り図を見合わせた。
軽く梓蘭に目配せすると、梓蘭はフワリとその場から消える。
「蒼麻?」
不振に思った水生が首を傾げると、蒼麻は後で分かる、と言った。
そしてまた見取り図へと視線を戻すのだった。

「蒼麻さん」
声が聞こえると同時に、梓蘭が初めにいた場所と同じ場所に現れる。
「お帰り、梓蘭。どうだった?」
見取り図から顔を上げ、蒼麻は笑みを浮かべつつ梓蘭に尋ねた。
梓蘭は釣られるように微笑む。
「蒼麻さんが考えた通りでした。繋がっていましたよ、理科室からの通路と、あの、私が入れなかった部屋まで」
「―――?!」
多少なりの想像はついていたのだろうが、やはり驚きを隠せない4人に、蒼麻は見ていた見取り図を見えるように向ける。
「もしかしたらと思ったんだ。梓蘭から、旧校舎から伸びる通路と部屋の位置を教えてもらってここに書き込んで見たのが正解だった」
そして指で描いた通路を指す。
「通路は校舎に向かっている。勿論、部屋もな。そしてさっきの竜矢の情報だ。理科室は旧校舎側に面している。棚のどの位置に通路があっても問題はない。むしろ、そこまでの情報があって通路が無い、または部屋に繋がっていない方がおかしいと思うがな」
「・・・そうか」
納得したように竜也が頷くと、蒼麻も同じく頷く。
「部屋はきっと、旧校舎と理科室に繋がっている筈だ・・・明日、調べてみよう」

―――カタン・・・
ソレは辺りを窺った。

「疲れたー・・・」
暗い廊下を歩きながら大きく伸びをする竜矢は、隣に立つ水生の顔を覗き込む。
「水生は疲れてない?」
「そうだな、少し疲れたな」
そうは言いつつも、そんな素振りを少しも見せない水生に、竜矢は自分だけが体力が無いんじゃないかと頬を膨らませる。
「なんだ?どうかしたか?」
その様子に今度は水生が竜矢の顔を覗くが、竜矢は何でもないと首を振るだけだった。
好きな人に情けない姿は見せたくない。
その心境を分かるのだろう、水城と竜也は小さく笑う。
気づいた竜矢は非難めいた目を向けるが、それが効果がないと知っている為、すぐに視線を戻した。
それから、はたと何かを思い出したように目を開く。
「あー…!」
「どうかしたのか?」
「課題のノート…教室に忘れてきた」
顔を顰めて頭を掻く竜矢は、小さくため息を吐いて荷物を竜也に持たせた。
「これ持って先に昇降口に行ってて。ノート取ってすぐに戻ってくるから。蒼麻が先に来ても置いてくなよ?」
「一人じゃ危ないぞ」
「大丈夫大丈夫、直ぐそこだしさ?時間そんなに掛からないし」
だから水生も二人と一緒に待ってて、と竜矢は一方的に告げると、早足に来た道を戻っていく。
「おいっ…」
水生が止めようとしたが、直ぐに姿の見えなくなったのを知って、小さくため息を吐いた。
「大丈夫かな」
「まぁ…直ぐなんだから大丈夫なんじゃないか?」
「…そうだな」
それでも、心配な事には変わりない。落ち着きを無くしてきた水生の様子に、仕方がないとばかりに竜也は水城に目配せする。その視線の意味に気付いた水城は、一瞬あからさまに嫌な顔をしたが、やはり同じように仕方ないとばかりに、視線を返す。
妹のためなら仕方がない。
水城は水生の肩を叩き、竜矢の消えた方向に数歩進む。
「ほら、行くぞ?アイツは大丈夫だって言ったけど、一人にさせたなんて蒼麻にバレたら、俺達まで怒られるんだから」
「…水城」
「何だよ、行かないなら、俺が先に行くからな」
フと、水生を取り巻く空気が変わったのを感じ、水城は照れ隠しに背中を向けて先に歩いていく。
「ほら、水生行くぞ」
その照れ隠しを見て、笑うのを堪えながら竜也が再度水生を誘う。
「…あぁ」
そうして一歩踏み出した瞬間、その、声は聞こえた。

最初の異変は、匂いだった。微かに何かが臭ったのだ。しかし、それが何だか思い出せない。思い出せないまま深く考えずに、竜矢は教室へと入った。
「えぇっと、あった…」
自分の机を覗くと、忘れていった課題のノートはしっかりとそこに残っていた。課題なんてやりたくはないが、成績に係わる問題だ。無造作にノートを引っつかむと、竜矢は教室を出る。広がるのは、真っ暗な廊下と、銀色の細い線――。
「……っ!?」
背中にゾワリと寒気が走る。本能的に今いる場所から飛びのくと、ガツンと銀色の線が廊下に当たった。否、その先端が刺さっていた。
「ほ……うちょう?」
カタカタ。
突然の出来事に、放心したように竜矢が呟く。それに答えたのは、オレンジ色の物体が発した音だった。
「かぼちゃ……!」
カタカタ。
ソレは楽しそうに動く。廊下に突き刺した包丁をゆっくり引き上げると、ゆらり、と傾いた。
「――っ!」
慌てて竜矢はカボチャとの距離を取る。次の瞬間、包丁が竜矢が元居た首の高さを薙いだ。冷や汗が、背中に出てくる。
逃げなくては……逃げろ、逃げなくてはならない。
脳が警告すると同時に、竜矢の体は動いていた。カボチャの脇を抜け、昇降口へと走り出す。
視界の隅に、かぼちゃがこちらを向いて、包丁を薙ぐのが見えた。
「マジかよっ……!」
まさか、こんなに警戒している段階でまたも出るとは思っても見なかった。信じられない反面自己嫌悪する。警戒している段階だからこそ、もっと慎重にならなければならなかったのに。
「くそっ……」
奥歯を噛み締め、ひたすらに廊下を走る。かぼちゃはその頭を揺らしながら、追いかけてくる。
逃げなくては。
逃げなくては。
逃げなくては。
……一体何処へ?
「……!!」
答えを出す前に、竜矢は止まった。その行動に驚いたのか、表情こそ分からないが走るのを歩みに変えたかぼちゃは、手の中で包丁の柄をくるりくるりと回しながら一歩一歩確実に近づいてくる。
駄目だ。逃げちゃ駄目だ。この先には、この先には……。
昇降口には向かってはならない。守れ、それが俺の。
「水生に対する誓いだ」
グッと足に力を入れる。ここから叫べば、昇降口にいる3人に聞こえるかもしれない。けれどそれは、3人を、水生を危険に晒すことになる。それだけはなんとしても避けたかった。
何がなんでも守り抜いてやる――。
ゆらり。
かぼちゃが包丁を持ち直す。
来る――!
振り上げられた包丁の切っ先をギリギリのところでかわし、頭上に上がった手を包丁ごと両手で掴む。攻撃を避けられた反動でかぼちゃが体勢を崩したのを利用し、足をかけて両手を一気に振り下ろす。かぼちゃの被り物とその体が床に叩きつけられた音が周りに響く。
「ぐっ……っ」
被り物の中からくぐもった声が漏れた。攻撃が効いているのを確信し、かぼちゃの手ごと掴んでいた包丁をそのままもぎ取ってすぐには届かない所に力一杯投げる。
「……これで、お前も終わりだ」
何の感情も込められていない、冷淡な声をかぼちゃに降らせる。かぼちゃの、包丁を持っていた手が、両手を持っていた竜矢の片手に収まりきれずにぺタリと床に落ちた。
水生に害を及ぼす可能性のある因子は、何であろうと許しはしない。
カタカタ。
かぼちゃが揺れる。それが最後の抵抗なのか、笑っているのか、そんなことはもう竜矢には興味無かった。
「とっととブタ箱にでも入って、惨めに泣けば良い」
水生を、危険に犯した罰だ。
かぼちゃを見下ろす竜矢に、歪んだ笑みが浮かぶ。

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