紫色の月光

紫色の月光

第五話「友情のダブルノックダウン」





 あれは多分、悪い夢だったんだ。

 何度も何度もカイトはそう思いたかったが、現実はそう甘くは無い。どんな嫌な事があっても本当の事ならそれは問答無用で現実なのだ。

 一年前、彼はシャドウミラーの大ボス。ヴィンデルと死闘を繰り広げた。そしてその勝敗を決する手段としてカイトがとった行動は、自爆だった。

 普通の転移を何度も繰り返せるヴィンデルのツヴァイザーゲインを倒す手段は、完全に取り付いて自爆する。それしか考え付かなかったのだ。

 自爆した瞬間、カイトは愛機であるヒュッケバインに別れを告げた。共に様々な困難に立ち向い、打ち勝ってきた最大の友に永遠の別れを告げたのだ。それで全てが終わると思っていたから出来た事である。

 自爆カウントがゼロになった瞬間、カイトの視界は真っ白な光に包まれていった。次に意識が戻った時は、仲間達が隣に居ると言う事を信じて。もしくは己の死になるかとも考えたのだが、その考えは後ろ向きなので考えないで置いた。



 しかし気がつけばそこには薬の嫌なニオイが充満していた。どうもこういうニオイは鼻を刺激して身体に良くないような気がする。特に鼻がいいカイトにとってはかなりきつかった。

 朦朧としていた意識はどんどんと回復していき、視界はドンドン良好になる。

 異変に気付いたのはそれから数十秒してからだった。自分の見慣れた右手の皮膚が無いのだ。正確に言えば、それは何時の間にか機械の腕と化していた。

 正直に言えばカイトは恐かった。自分が知らない間に右腕は機械となり、今、自分が居るこの場所が何処なのかもわからない。親に取り残された子供とはこういう気持ちなのだろう。

 この場所が連邦のJ1コロニーだと彼が知ったのはそれから2ヵ月後の事だった。そしてそれを知った瞬間、カイトの脳裏に一つの言葉が浮かび上がった。

(ああ、俺は連邦に捕まったんだ)

 でも、何故?

 流石にそこまでは分からなかった。アンセスターとの戦いでは連邦所属だった身なのだから余計に分からない。そもそも捕まえて何をしようというのか。

 そんな考えもそれから一週間もしない内に考えなくなった。

 そして彼は訳のわからないうちに、自分と同じように連邦に捕まった二人の少年少女と出会った。
 一人は紫色の髪の少年で、もう一人は銀のロングヘアの少女だった。

 同じ部屋に入れられた(と言うか、牢獄に入れられた)カイトは二人から話を聞いてみると、彼らは名前が無いのだと告白した。それは人として生きていくうえでは必要不可欠なものであるので、カイトはこの二人に名前をつけてやることにした。

 少年にはスバル、少女にはユイと名付けた。

 この二人は本当によくカイトに懐いていた。そんな二人が好きだったカイトは二人にこう言った。

『いいか、俺がお前等の家族だ。困った事や相談したい時があったら遠慮なく言え』

 こうして、彼らは家族となった。しかし流石に3歳しか違わないカイトを「お父さん」と呼ぶのは気が引けたので、スバルとユイはカイトを「兄」と呼んだ。

 カイトは初めてそんな風に呼ばれたため、思わず吹き出しそうになってしまったが、

(まあ、こんなんも悪くは無いな)

 それは長年忘れていた家族の安らぎだった。流石に捕らえられていると言う事であまり浮かれられなかったが、その時間は確かに幸せだった。

 甘えたい時に甘えられなかった経験があるなら尚更この二人には構ってやらないといけない、と彼は思ったのだ。それはカイト自身が経験した事があるから良く分かる。


 カイトが捕まってから4ヶ月が過ぎた。

 流石に慣れているとはいえ、4ヶ月もこんなコロニーに閉じ込められて、訳のわからない実験体となっていれば精神的に参ってしまう。

 拷問等の経験があるカイトはまだしも、スバルとユイはそうはいかなかった。彼らはもう精神的に限界だった。それを察したカイトは二人の事も考えてある計画を立てた。

『逃げよう。三人で』




「―――――――は!?」

 カイトは飛び上がるようにして布団から起き上がった。眠たそうな目は一瞬にして冴え、横においてある時計を視界に入れる。

「……朝の4時……早いけど起きるか」

 普段なら寝ている時間なのだが、目が冴えてしまったんだから眠れない。ならば今起きるだけだ。

(……また、あの夢を見るのか)

 カイトは頭を抱えながら部屋から出る。




「あ、今日は早いじゃないか。カイト」

 居間に着いた瞬間にカイトに話し掛けた金髪の長髪の男の名前はリオンヘクト・ノックバーン。この家の住人の一人で、教師をして働いている青年である。

「リオンヘクト? 何でお前こんな時間に?」

「そろそろ期末テストの時期だからな。こうして早起きして内容を考えないといけないんだよ」

「でもそれ普通は学校でやるもんじゃないのか?」

「まあ、そうなんだがな。考えるだけなら家の方が落ち着く物さ。モーニングコーヒー飲むか?」

「ああ、頼む」

 カイトは椅子に座ると、かなり早い朝をどう過ごすか考えた。昨日は結局ガレッドが帰ってこなかったので、そのまま皆寝てしまった。

(やっぱ探すかな)

 そう考えたカイトの目の前にコーヒーカップが置かれた。リオンヘクトが入れてくれたものである。こんな早くからモーニングコーヒーを飲むのは初めてなのだが、それでも快適な朝を迎える為には必要不可欠だ。




 コーヒーを飲んでからカイトは外に出る。コロニーの中の街は本当に平和そのものだった。これも戦争が無いからだろう。

(でも、それは本当に平和?)

 カイトは自問してみる。答えはNOだ。連邦による支配活動がある今、この世界は何時シャドウミラーと同じ道を歩むか分からない。

 元々シャドウミラーの世界は戦争が無い世界だった。しかし連邦は次第に内部から腐敗していき、同時に良くない世界へと進んでいったと言う。

 それを解決する為にヴィンデルが取った手段が「永遠に終わらない戦争」だった。戦争が無くなったら人類は根元から腐っていき、逆に戦争があれば人類はよりよき文化を気付いていくだろうという理屈である。

 しかしそれは否定された。

(あいつ等の世界にも……俺達にも)

 そう、彼らのやり方をカイトは確かに否定した。だから彼らと同じ道を辿る事は拒否する。

 ふとカイトは我が家の方を見る。その視線の先にはアクセルとエリオットの部屋がある。

(アクセルがいるのはちょいとやりにくいけど……感謝しないとな。あいつが居るから俺はシャドウミラーのやり方を否定できる)

 それは勝利した者として、彼らを否定した者として彼らと同じ道は踏まないという決意の現れである。たまに感情に流されそうになるが、アクセルが居るから何とか逆らう事が出来る。

 少しだけ清々しい気分になった時である。カイトの視界にジャージ姿の女子が走っている姿が目に映った。どうやら早朝のランニングをしているようである。

 問題はその女子をまるで見守るかのようにじっと見つめている、電柱の後ろに隠れている赤髪の少年である。心なしか彼からはドス黒いオーラの様な物が放たれているような気がする。はっきり言って妙に怪しい。

 しかしその赤髪の少年をカイトは知っていた。

 カイトは少年に気付かれないように、まるで忍者のように忍び足で後ろから近づいていく。その距離はみるみるうちに詰まっていき、やがてゼロになる。

 そこでカイトは後ろから少年の肩をポンっと叩きながら言った。

「何をしている、ガレッド」

「ぬおあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 背後から突然声をかけられたせいか、赤髪の少年――――ガレッド・バスタードは驚きの声をあげながらひっくり返るようにしてその場に倒れた。

「あ、あれぇ!? 何でリーダーが俺の背後に居るんですか!? つーかもしかして俺をストーキング!?」

「黙れ。誰もそんな異質な趣味はしていない」

 カイトは慌てながら言葉を出してくるガレッドにクールな言葉を浴びせた。

「先ず、貴様は先ほどから何をしている? つーか何してたこの馬鹿猿」

「うわ、現在進行形から過去形に移行しましたか!? つーかヒド!」

「喧しい。とりあえず早いところ俺の質問に答えろ」

「………敢えて訊かないという選択肢は出ないでしょうか!?」

「無理だ」

 カイトは即答した。その返答スピードはガレッドに言い訳を許さない。

「ええと………実はあの女の子なんですけど」

 ガレッドはランニングしているジャージ姿の女子を指差す。するとカイトは、

「まさか貴様、あの女がアンチジーンの一人だと……」

「いや、違いますよ! そういう物騒な考えはなるべく控えてください!」

「そいつは無理だ、ガレッド。何故なら俺達は常に狙われている身なのだ。連邦の連中がここを嗅ぎつけてきたら一発で残りのアンチジーンを全員送り込んでくるぞ」

 その光景を考えると思わずぞっとする。凶悪な能力を持つアンチジーンが9人もこの場にやってきたら全員無事で居られるか分からないからだ。

「まあそれは分かりますよ。でも、俺が言いたいのはそうじゃないんです」

「ああ、分かった。分かったから少しだけ落ち着け」

 ガレッドは明らかに興奮している。話をスムーズに進めるためにもここは彼をリラックスさせる必要がある。

「よーし、ガレッド。深呼吸だ。はい、息を吸ってー………」

 ガレッドはその言葉に従って息を大きく吸う。

「はい、そこでストップ!」

 しかし、何故か突然止められる。ガレッドは何故かよく分からないのだが、とりあえず言うとおりにしてみる。

「そのまま5時間!」

「死ぬわ!」

 ガレッドは結局、突っ込みを入れた。




「で? 結局何をやってたんだ? お前は」

 カイトとガレッドは早朝の公園のベンチに座り込んで話をしていた。話題はやっぱりガレッドの先ほどの行動についてである。

「いやぁ、実は先ほどまでいた女の子なんですけどね?」

 ガレッドは何故か顔を赤らめながら言う。因みに、もうその女の子は自分の家に帰っている。

「俺、あの娘に惚れたんです」

「馬鹿かお前」

 その余りにもストレートな言葉に思わずカイトは言いたい事を言ってしまった。

 確かに、女に興味がないカイトから見たらこのガレッドの気持ちがさっぱり分からないだろう。それはそれで問題があるような気がするのだが。

「つまりお前はあの女をストーキングしていたということだろう?」

「それは違います。俺はあの娘の後ろについていってさり気無くお近づきの機会を得たいだけです」

 それをストーカーと言うんじゃないのか、とカイトは思ったのだが、よく分からなくなってきたのでそれは考えない事にした。

「詰まり、お前はあの娘が好きなんだな?」

「YES! YES! YES!」

 ガレッドはまたしても興奮してきたようだ。これでは埒があかない。

 カイトが思わず溜息をつきそうになった時だった。何か引っかかる。さっきのあの女を何処かで見たような気がするのだ。

「………ああ、そういえばトリガーもあの娘が好きだとか言って無かったけか」

「………へ?」





 今回の問題を簡単に説明すればこうなる。

 リオンヘクトが担任を務めている2年A組の女子高生。高橋・真紀をめぐる争いである。

 事の発端はカイトとトリガーが2ヶ月前にリオンヘクトの忘れ物を届けに彼の教室内に入った事から始まった。

 教室内にはリオンヘクトの姿はなかった。そこで、クラスの委員長を務めているという真紀にトリガーが忘れ物を預けたのだが………どういうわけかトリガー・マークレイドは彼女に一目惚れをしてしまったようである。

 カイトからしたら全く不思議な話なのだが、リオンヘクトに話して見たら「ああ、成る程な」と一発で理解してくれた。

 そもそも真紀は結構可愛いのだ。学校内でも圧倒的な人気を誇っており、ミスコンでも堂々の一位になれる。

 そこまで可愛い彼女に惚れてしまったトリガーは健全な男の子と言える。逆にいえば何も感じなかったカイトはやっぱり変人なのだろう。

 そこまでは何の問題もなかった。事情を知っているカイトとリオンヘクトも「まあ、頑張れ」程度で済ませられるレベルだったのだ。

 しかし何と言う偶然か、近々になってガレッドのバイト先で彼女が働き始め、彼も健全な男の子の為、見事なまでにキューピットの矢でハートを射抜かれてしまったのだ。そしてストーカー行為と言う危ない行動までしているのである。

 流石に誰もこんな形で三角関係が出来ているとは思わなかったのだ。世の中は何時だって何が起こるのかわからない。

「で、どうするよ。リオンヘクト」

 家に帰ったカイトとガレッドだったが、カイトは真っ先にリオンヘクトの元へと向かっていっていた。

「こちらに振られても困るな。こっちではどうしようもない」

「全く、何時の間にか面白い展開になってるんだな、これが」

 ここで何故か知っている口調の、やけに明るく軽そうな声が聞こえてくる。アクセル・アルマーである。

「何でお前がここで出て来るんだよ」

「そりゃあ、ガレッドに相談されたからなんだな」

「相談?」

「んー。何でも、好きな女が出来たとか」

 成る程、ガレッドはこの男に相談したわけだ、とカイトは思った。

「ほう、ついでに何と言ったのだ?」

「ああ、『そういうときは常にチャンスを逃さないように相手の近くにいるべきだ』って――――」

『己が原因か!』

 次の瞬間、カイトとリオンヘクトの鉄拳がアクセルの頭にめり込んだ。ストーカー行動はアクセルの助言を少々間違えてとったようである。

「ところで、トリガーは? 今、あいつをガレッドと合わせると非常に厄介だ」

 カイトの言う事も最もだ。これからトリガーとガレッドには協力してもらわなければならないと言うのに、こんな状態ではいがみ合いが起きて何もかもがうまくいかなくなる可能性がある。

「そういえば、見てないな。もう朝の11時だから起きているはずだが……」

 因みに今日は日曜日。学校はお休みの日なのだ。ついでにトリガーとガレッドはバイトの休日でもある。

「た、大変だよ、お兄ちゃん!」

 そこに、かなり慌てた様子のユイが乱入してきた。彼女はかなり取り乱しており、カイト達が居る部屋に入ったと同時、テレビのコンセントに足を引っ掛けて転んでしまった。

「おい、大丈夫か?」

 半ば呆れながらカイトはユイを起こす。

「う、うん。大丈夫………って、それどころじゃないんだよ!」

「鼻血出てるぞ」

「あ、ホントだ………って、そっちじゃなくって!」

 彼女は慌てて鼻血を拭いながら言った。

「ガレッドがトリガーに果たし状を送りつけたんだよ!」

「……………は?」

 その言葉を聞いたカイト、リオンヘクト、アクセルは目が点になった。



 正直、甘く見ていたと思う。ガレッドがトリガーに突っかかるのは時間の問題だとは思っていたが、まさかこんなに早く行動してくるとは思わなかった。

「おい、居たか!?」

 カイトは正午のコロニー内を駆けていた。片手の携帯はユイと繋がっており、手分けしてコロニー内を探しているのだ。

 ガレッドとトリガーはお互いに本気なのだ。ここで頭に血が昇ってナイフで相手をグサリ、何て事もありえる。それだけは何としても阻止したかった。

『駄目、こっちはまだ見つかんないよ!』

「そうか、それじゃあもう少しそっちを探しておいてくれ!」

 カイトはそれだけ言うと携帯の電源を切った。この広いコロニー内でたった二人の限られた少年を探すとなるとかなり時間がかかる。

 しかし急いで二人を見つけ出さなければならない。何故なら、頭に血が昇って相手をナイフでぐさり、なんて展開だけはどうしても避けたいからだ。


 走っていると、カイトは朝にガレッドと共に来た公園に辿り着いた。すると、そこには先客が居た。アクセルである。

「おい、何をやってるんだ。お前」

「あれ」

 アクセルが指差した場所に視線を送ってみると、そこには見知った二人が居た。赤髪の少年、ガレッド・バスタードとエメラルドグリーンの髪の少年、トリガー・マークレイドの二人である。

 二人の姿はボロボロだった。顔中に痣が出来上がっており、鼻血も出ている。かなり殴りあったのだろう。

「おい、何でお前は見てるだけなんだ?」

「いや、見てると結構面白いんだな。これが」

 何でも、アクセルが公園に辿り着いた時に二人は殴り合いを始めたそうだ。お互いに一歩も引かない一撃は繰り出すごとに勢いを増していき、何時の間にか喧嘩ではなく、純粋な勝負の世界に陥ってしまったらしい。

「……何処の昼ドラだよ」

「まあ、確かにありがちな展開なんだな。こういう時は背景に太陽が映し出される物なんだな」

「今は正午だ。そんなドラマみたいに夕日があってたまるか」

 現実的な言葉である。ムードの一欠片もないとはこの男のことを言うのだろう。

「………む?」

 そこで気付いた。ガレッドがトリガーの顔面に右ストレートを叩き込んでおり、トリガーの左ストレートがガレッドの顔面に叩きこめられていた。

 同士討ちと言う奴だ。

 二人は力なくその場に倒れこみ、公園内は静寂が支配する。

「ぐっ……! やるじゃねぇか、トリガー。中々利いたぜ」

「くくく……! こっちも同じだよ。ガレッド。君、強いな」

 何故か青春ドラマの如くの笑みが二人の表情からこぼれた。

(こんなんでいいのか?)

 カイトはそう思ったのだが、そこら辺は二人が笑って済むのだからOKなんだろうと思った。

 しかしそこでカイトは公園の奥の方に知っている顔がいるのに気付いた。今回の件の発端の原因でもある高橋・真紀である。

 しかも何故か若い男と一緒に居る。それも二人とも偉く幸せそうな顔をしている。

(この展開はもしや……?)

 流石に此処まできたら恋愛に鈍感なカイトでも分かる。高橋・真紀には恋人が居たのだ。

 よくよく考えたら、彼女に恋人が居るのかどうか位、調べるべきだったのだ。最初からいないと決め付けて喧嘩していた二人が救われない。

 案の定、この光景に気付いた救われない二人はそのまま泣き始めてしまった。正午の公園には男二人の虚しい泣き声が響いていく。

 世の中は何時だって何が起きるのかわからない。

「頑張れ、ガレッド、トリガー! 君達には明日があるんだな!」

 そしてアクセルはハンカチで涙を拭いながら二人を応援していた。普通そういう役は幼馴染の女の子が担当する物なのだが、不幸な事にそういうキャラは居なかった。

「まあ、これであの二人の気まずい関係はなくなった………んだよな?」

 カイトは自問する。しかし、今地面に倒れて泣いている二人を見ていると、これから大丈夫なのか、と不安になるのであった。



 結局、二人をあのまま公園に置いていってカイトとアクセルは家に帰ってきた。時間を見てみるともう昼過ぎである。

「もうこんな時間か。飯にするか」

「俺はカツ丼希望なんだな、これが!」

 アクセルは妙にハイテンションだ。カイトはこの午前に起きた事だけを思い出しただけでもついつい溜息が出てしまうというのに、大したものだ。単にそういう性格だからとかはカイトは敢えて考えておかないで置く。

『リーダー!』

 すると、そこに扉を激しく「バタン」と開けたトリガーとガレッドがやってきた。二人は顔に泣いた跡がくっきりと残っており、それは二人の悲しみを表している。

 二人は肩を組み合いながらカイトに言った。

「我々もカツ丼お願いします!」

「オッス!」

 しかし男達はこのショックを逆に血肉と化し、更に強固な友情を得たのである。

「……あ、ああ」

 この二人の妙な迫力は流石のカイトも圧倒されてしまい、朝の残りの野菜炒めで済まそうかと思っていた彼は仕方がなくカツ丼を作ったのである。




第六話「ダークネス・アイ」

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