地球人スピリット・ジャーナル1.0

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2007.03.08
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「慟哭」 小説・林郁夫裁判 
佐木隆三 2004/2 講談社


私に家族や、縁のある人たちがいるように、高橋さん、菱沼さんにも、家族や縁のある人たちがおられる。どうして亡くなったかというと、私がまいたサリンを片付けて、電車を走らせようと・・・・。私のために亡くなった。私は医師で、そもそも人を助ける職業でありながら・・・。
(ここで林郁夫は慟哭して、坐っていられなくなり、身体を折り曲げてしゃがみこみ、証言台に上半身をもぐりこませたが、どうにも止まらない。そこで裁判長が10分間の休廷を宣したが、ようやく30分後に再開する)
p266

 この「小説」のタイトルとなっている象徴的部分である。小説となってはいるが、「ことさらフィクション化していないけれども、第一章がそうであるように、事実経過そのものがドラマチックで、小説的な手法を取らざるを得ない」p310とのことである。自称「裁判傍聴業」の佐木の30年間において、「これまでいちばん印象的だった裁判」は、この林郁夫裁判であるという。

 1998年6月9日、林郁夫の「無期懲役」が確定した。その 後に、98年9月に林の
「オウムと私」 が出ている。全文は2000枚を超えるそうだ。林は、村上春樹の 「アンダーグラウンド」 を獄中において三回読んだという。公判で林は答えている

---読んでどういうことを感じましたか。
「私は加害者ですから、すごく意志が要りました。傷害を受けられて、いろいろな肉体的、精神的に苦しんでおられる。私のことはどうでもいいんですが、息苦しくなったり、不整脈が出たりしました」
---それでも3回も読んだのは、なぜですか。
「あの本には、いろいろな思いと意味があると思いますが、私が読まなければならないということ。なぜなら、事件を起こした本人だからです」
---心のなかに刻み込みたいのですか。
「かなり重いということです」
---自分の罪との関係で、何を感じましたか。
「インタビューに応じなかった方もいて、応じた方のなかにもいろんな気持ちがあることがわかりました。多くの方は、何が起きたのかもわからなかった。やっぱり地下鉄は、生活の場だったのです。いろいろな人の被害状況だけではなく、一人一人の生活がよく表されている。それに比べて、、私たちの当時の思いというのは、現実から離れたものでした。それについて、いろんなことを思います」
---読むほどに自分の罪の深さを感じるわけですね。
「どうしようもないということです。理不尽なことというか、やってはいけないことだった、とハッキリわかります」
p275

 「オウムと私」を読んで、私は随分はやい「早い」反省だなぁ、と思っていたが実は、実行犯としての林はすでに大きく「揺れていた」のであり、すでに早い時点で反省をくりかえしていたのだった。一部が雑誌にでていたとしても、すでに判決の結果がでたあとに林の「オウムと私」がでたのである。早川紀代 秀も
「私にとってオウムとは何だったのか」 2005 /3のなかで、逮捕後、獄中で2年ほどで7~800冊の本を読んだ、ということだから、それぞれに逮捕直後の彼らに、どんなことが起こっていたか、自然と想像ができてきた。

 林の本を読んでだいたいのことはわかったつもりでいたが、やはりこの「慟哭」を読まないとわからないこともあった。例えば、出家前に、林が妻に「暴力」をふるっていたこと。妻はそれが「恐怖」だったこと。あるいは、一般病院の医師だったとき、新人の看護婦と男女の関係になっていたこと。この辺は「オウムと私」には書いていなかった(私が読み落としていたかも知れない)。ただ、周辺の人々にとっては、この辺の事実が大きく左右しているのであり、林にまつわるこの二人も出家している。あるいは、林夫婦の二人の子どもたちも出家しており、当時は、麻原の妻が「育てていた」という。

 この、林 についての表と裏からの検証で、次第にその人間性がわかってきたが、例えば
「さよなら、サイレント・ネイビー」 に書かれた豊田亨などとは、その人間性の違いがくっきりと現れているようでもある。量刑がどうのと 、第三者を裁くことは私にはできないが、もし豊田らが死刑でありながら、林が無期懲役になったのには、それなりに理由があると思う。あるいは、豊田にも「自首」を認め、せめて「無期懲役」に、という伊東乾たちの思いもわからないでもないが、専門家ならざる身としては確たることは言えないが、やはり、それはほぼ難しいこともわかる。しかしながら、豊田も、早川のような本を書くことは許されてしかるべきだろう。たしかに、最後まで、「サイレント・ネービー」で、いいのか、という伊東の気持ちはもっともだと思う。

 麻原は3年、林は12年、阿含宗に属 していたとのことである。確か、そのことについて
桐山靖雄 のコメントもあったはずだが、もういちど確認しておく 必要もあるかもしれない。なお、林の裁判は、私選弁護士がひとりで、無給ならぬかなりの持ち出しで担当したようである。すでに4億円を超えているといわれる麻原本人の12人の国選弁護士達の経費を考える時、複雑な気持ちにならざるを得ない。





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Last updated  2009.02.10 18:03:25
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