BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

思い出の少女


思い出の少女 [act.1]



 宇宙船[アクエリアス]は、宇宙ステーション[オズ]を目指して全速で航行していた。
ここは地球から400光年ほど離れた宇宙空間。


宇宙船アクエリアスは、この空域に浮かぶ宇宙ステーションからの救助要請を受けて遠方からやって来た。
宇宙ステーション内部にはまだ生存者がいる様子だ。SOS信号はそこから発信されていた。しかし確かな事は行って見なければわからない。













 宇宙ステーション[オズ]は突如としてその付近の空域に現れた「ブラックホールに似た正体不明のワームホール」に吸い寄せられつつあった。
その為、宇宙船アクエリアスは宇宙ステーションの生存者を救う為、ここに急行して来たのだ。そして視認距離に入ったステーションに接舷しようと試みたが……、
ステーションは目の前で、「まるで映画の中の宇宙船がブラックホールに飲み込まれるように」ワームホールに吸い込まれて行った。最後には、船体が糸のように細くなった。そして、ワームホールの奥深くへ沈んで行った。






 ステーションが消滅したので、アクエリアスの乗組員は船をこの危険エリアから遠ざけようとした。

その乗組員の内の1人が”裕二”だった。
年齢22歳。宇宙飛行士としてはかなり若い方だった。




アクエリアスはワームホールのはるか手前、「ワームホールの引力と船の周回運動による遠心力とのバランス上」にいた。

しかし、ワームホールに吸い込まれて行く小型の隕石がアクエリアスに接触して、船体をホンの少し押し流してしまった。
このわずかな隕石衝突が船に重大な危機をもたらした。
アクエリアスは脱出を試みてスラスターを噴射させたが、時既に遅く、船はゆっくりワームホールの”腕”の中へ引き寄せられて行った。

アクエリアスは隕石によって船体表面の一部を破損しており、姿勢制御が十分出来ない状態だった。すでにジンバルロックが起こりつつあった。

このままでは船がコントロール出来なくなる。
そこでアクエリアスの乗組員が3人が船外に出て、姿勢制御ノズルの修理を行う事になった。
そしてエアロックから宇宙空間に出たが、さらなる細かい隕石群の衝突で、3人とも吹き飛ばされ、ワームホールの方向へ流された。
再度の隕石衝突によって、船体片側の姿勢制御ノズルの大部分が駄目になり、さらに脱出は困難な状況になった。

3名を失って、アクエリアスの乗組員は今や裕二ただ1人。





裕二 「(地球へ帰りたい……。)」





彼は特殊なワープ通信システムを用いて地球とリアルタイム交信を試みた。
今度はアクエリアスがSOS発信する番だった。
だが、SOS発信するだけが精一杯。
ここは他の船が存在する空域よりあまりに遠く離れていた。

ワームホールは深いブルーの色合いを見せ、それが漆黒の宇宙に「まるでコーヒーに垂らしたクリームのように」柔らかく渦を巻いて広がっていた。
「自分があの穴に落ちて命を失う事になるとは想像できない。」そんな美しさだった……。

だが、裕二は諦めずにいろんな脱出方法を試みた。
ここで諦めては船外活動で死んでいった仲間達に申し訳がない。
再度、船の軌道修正を試みたが、アクエリアスは元の軌道に復帰しなかった。





 それでも裕二は努力を続けたが……、願い空しく、船体はワームホールの方向にズリズリと滑り落ちて行く。

船のコントロールシステムの操作パネル上から取れる手段はもう全て取った。どうやら奇跡でも起こらない限り、脱出は不可能だった。







思い出の少女 [act.2]



 裕二は船内ユニフォームの胸ポケットから2つ折のサイフを取り出した。
そこに船内のキーカードと合わせて、”大切な人の写真”が入っている筈である。
中を開けて見たが…、おかしな事に”白い印画紙”が入っているだけで、そこに画像は写っていなかった。





裕二 「おかしい……?」





幻覚でも見ているのだろうか?
確かに死を目前にした極度の緊張状態にあるが…。

しかし……、

裕二 「いったい、誰の写真が入っていたんだろう?」

裕二は突然、そこに写っていた人の事を忘れてしまった。
思い出そうとしたが、気持ちが高ぶっているせいか思い出せない。

その写真の裏側を見るためにサイフから引き抜いたが……、裏側にも何も書かれていなかった。
しかし、それとは別に、そこに[女性から送られたようなかわいいデザインの便箋]が1枚入っているのを見つけた。

裕二 「この便箋はなんだ?自分で入れたような気もするが……」

思い出せなかった。それにその便箋の中には何も書かれていなかった。

裕二はしばらく気を落ち着かせるように努めた。


裕二 「……………………。」








 裕二はこれまでずっと忙しい毎日を過ごして来た。
高校・大学に進学し、そこで航空宇宙学をはじめとする宇宙に関する学問を学んだ。宇宙飛行士になりたくて猛勉強をしていた。
彼がアメリカの大学を卒業したのは16歳。
アメリカにはこういうスキップ可能な進学制度があった。
彼は優秀だったので、とんとん拍子に進学して行けたのだ。

卒業後、すぐに宇宙飛行士になるために宇宙協会に登録し、猛訓練を受けた。
そして実習船に同乗。
その後”訓練生”を卒業するために、実際の船に研修員として同乗した。
それが今回の宇宙船アクエリアスだったのだ。
彼の最初の任務が、不運にもこの「二重遭難」だった。



 裕二は船内ユニフォームを脱いで、宇宙服に着替えた。そして宇宙ヘルメットを被った。
いつこの船が分解するかわからない。宇宙服を着けていれば、万が一宇宙空間に放り出されても助かる。
だが……、もちろん今回はそれも気休めに過ぎない。
どうあがこうが、ワームホールからは脱出できないのだ。






 着替え終わって更衣室を出て、長い通路上に戻ると……、 
そこに1人の少女らしき姿が立っているのが見えた。
ずっと先の通路の真ん中に辺りに。

その少女は地球にいるような服装をしていた。
小学校の制服のような紺色のスカートと白いカッターシャツ。
それに運動靴と白いソックス。




裕二 「(幻か…?)」




裕二は自分の目を疑った。

裕二 「誰だ?君は?」

裕二はその少女に声をかけた。
宇宙ヘルメットからマイクで声が発せられた。




しかし、
その少女は裕二の方を見ずに、通路の奥へと去ってしまう。
そして、その姿は見えなくなった。




裕二 「なんだったんだ?今のは?」








思い出の少女 [act.3]


 船内モニターで乗船記録などの各種記録簿を検索しても、そんな少女は乗っていなかった。
仕方ないので、少女の事はいったん置いといて、船の緊急事態に対応する作業に戻った。
再びブリッジに入り、必死に今の状況と戦う。



裕二 「ヤバイな。そうとう…。」



船は周回しながら、だんだんその軌道をワームホール側にねじり始めた。
船の前方視界にはワームホールの渦が広がって見えていた。
それは大きく口を開けているような印象を受けた。





? 「なにしてるの?」





突然、女の声がヘルメットのスピーカーを通して聞こえて来た。

振り返ると、ブリッジ内に少女が立っていた。
服装からしてさっき見た少女のようである。
でも幽霊ではないようだ。透けてない。


しかし……、


少しぼやけて見える。そう、ピンボケの画像のような感じで……。
顔がはっきりわからない。




少女「なにを慌てているの?ドアに行かないの?」

裕二 「ドア?ドアだって?」

少女「そう、”ドア”よ!」

少女は慌てていない。
裕二と話しているという緊張感は少しあるようだが、基本的に穏やかだ。

その時、船体が大きく震動した。
少女がよろめいた。

裕二 「危ない!」

裕二が少女の腕をつかんだ。温かい。彼女は幽霊ではない。
そして、これは夢ではない……。



少女 「さあ、早くドアに行きましょう!」



そう言って少女は先に駆け出して、ブリッジのドアの所に行った。そこから裕二に手招きした。

もう、ここから脱出出来る手立ては何も残されていない。
それで裕二はその少女について行く事にした。

少女は小学生か中学生ぐらいの年齢。
親しげな口調で話しかけて来たが……、裕二はその少女が誰なのか知らなかった。
顔は「見た事があるような無いような」感じだった……。
それ以上は思い出せない……。





いつも見慣れた船の通路をその少女について行った。
しかし、なぜかいつもと違って、そこは迷路のように感じた。
実際、アクエリアスに乗船し始めた頃は、ここの船内通路は複雑なため、よく迷ったものだが……。





 少女はある扉に着いた。この扉の奥は格納庫になっていた。そこには緊急脱出用の船も置いてあった。

裕二 「(なんだ……。”ドア”とはここの事か?
やはり脱出艇に乗るという事なのか?
だが、アクエリアスの推力で足りないのに、脱出艇の推進力でワームホールから離脱できる筈がない!)」



少女は入力キーを叩いて、そこのエアロックを開いた…、









そこは……、









眩いばかりの光に包まれていた。








裕二「眩しい!前が見えない!」








けっして不愉快な光ではないが、目が慣れるまですいぶん眩しかった。
そして、光の強さに目が慣れた頃、周囲の様子がわかった。








そこは……、








田舎の学校のような場所だった。








裕二 「(なっ、なんだここは?!格納庫じゃないのか?!)」







思い出の少女 [act.4]


 木で出来きた木造の校舎。
そこの広い廊下に裕二は1人で立っていた。
さっきの少女の姿はここからは見当たらない。

廊下は向こうの方まで延々と続き、そこに面してかなりの数の教室があるように見えた。
ちょうどここは日影のようになっていて、しっとりとした雰囲気があった。
廊下は暗いが蛍光灯は点いていない。外は明るいので、まだお昼頃のようだ。

今の季節は夏なのか、セミがわんわん鳴いていた。それは宇宙ヘルメットのスピーカーを通して聞こえて来た。かなり大きな音だ。窓が開いているせいか、それはよく聞こえた。
でもヘルメットからの音声は少しこもっていた。

裕二 「(もし、今このヘルメットを取ると……、あの大きなセミの声が直に聞けるだろう。
それはきっと素晴らしい音色だろう。)」

長い間宇宙船ばかりに乗ってきた裕二は、その音色を直に聞いて見たい気分になった。
そこで、校舎の窓から外を見た。見えた景色は青い空と大きな入道雲だった。

裕二のいる所は建物の2階のようだ。それぐらいの高さがあった。
そこから見える景色は…、目の前には校庭が広がっていた。古ぼけた野球のバックネット。サッカーゴール。そしてセミが居そうな背の高い木がいくつも植えられていた。








 ここの廊下は木造の板張り。ニスが深く染み込んでいる感じだ。
どこかにきしみがあるのか、歩くたびにギシギシと音が鳴った。

「(ここはどこかの田舎だろうか?)」

ヘルメットのバイザー越しに見える古い校舎内。どこか異様な光景だった。



その時、どこかで女の子の「きゃあきゃあ!」という楽しそうな叫び声が聞こえた。
どうやら下の階からしているようだ。
そこで裕二は階段を降りて行った。

古びた幅の広い階段。手すりも木製だった。それは使い込まれた艶があった。
階段の滑り止めのゴムが所々剥がれていた。
壁にはコルクの掲示板があり、そこに安物の金属製の虫ピンでいろいろな掲示物が貼られていた。
それは連絡事項あり、絵あり、学級新聞あり……。

裕二 「(ここはどこだ?とても懐かしい感じがする。)」

でも、不思議とそこに書かれている文字は読めなかった。どうしてもぼやけて読む事は出来ない。
学級新聞の大きな見出しもみんなぼやけているのだ。

裕二 「(どうして読めないんだろう……?)」

頭の中で、文字が判別できない。夢の中にいるような感覚だった………。








 下の階に着くと、そこにも同じような教室がいくつもあった。
中を覗いてみたい衝動にかられたので中に入る事にした。

裕二 「(たぶん机がいっぱい並んだあの懐かしい光景が見られるのだろう。)」

中に入ると確かにその通りだった。
ノスタルジックな光景がそこに広がっていた。なにか胸の奥が締め付けられるほどの哀愁が漂う風景……。

でも、裕二が教室の中へ入った瞬間、奥の別の扉から”誰か”が外に出たように見えた。
それはチラリとしか見えなかったが、女の子のスカートの端っこ、髪の毛の端っこが見えたような気がした。
だが人物の姿までは見えなかった。

裕二 「(誰だろう?さっきの少女かな?)」

裕二はその”誰か”が消えた扉の所に行ったが……、誰もいなかった。
そこから頭を突き出して廊下側を見ても誰もいない。


裕二は隣の教室に入ってみた。
すると、また同じように、向こうの扉から外に出る人物がいた。

それは何回か繰り返された。さらに別の教室に入ったら、やはりそこから出る人物がいた。

それの繰り返し。何度追いつこうとしても追いつけない。

その後、裕二は少し疲れて教室の中に立ち尽くした。






裕二 「(ここは思い出の中の空間だろうか?)」









思い出の少女 [act.5]

 だが裕二が実際少年時代に勉強した教室はコンクリート製の校舎で、ここよりもはるかに近代的だった。
それよりも、ここはもう少し時代が古いようだった。
年代物のような”消しゴム付きの黄色い鉛筆”が机の上に転がっていた。
ふと、その机の表面を見ると、そこにはラクガキがいっぱいされていた。

裕二 「(あれはたぶんコンパスの針で掘られたものだろう…。)」

中には深々と掘られた物もあり、そこに汚れが溜まって黒くなっていた。
字も彫られていた。



そこには、

『夏休み一番の思い出は?』と書かれていた。





裕二 「(読めた!初めて文字が読めた!)」

すると……、他のラクガキも読めるようになった。






『宿題多すぎ!』


『漢字書き取り試験、ムカツク!』


『カブトムシ、雄一匹350円!誰かいらんか?!』


『美奈代は徹の事が好き!』








 字が読めたので、裕二はあの読めなかった手紙の事を思い出した。
そこで宇宙服のポケットを開けた。
そしてチャック付きのビニール袋に入れた”あの写真と手紙”を取り出した。

何も写っていない筈のあの写真、
しかし、今は……、
そこには学校の校舎が映っていた。
それは木造の赤い屋根の古い校舎だった。

教室の窓から外に目を移した……。そこに見えた別校舎は赤い屋根だった。

裕二 「(ここか?ここの校舎が写っているのか?)」

そして、さらにその写真の中には、校舎の前に1人の少女が立っている様子が写っていた。
それはやはり”制服を着たあの少女”で、ニッコリ笑って写っていた。
写真はピンボケで少女の顔は鮮明ではない。
でも、やさしそうに無邪気に笑っているのはなんとなくわかった。




便箋の方には……、文字が書かれてあった。

裕二 「(前に見た時は何も書かれていなかったのに……。)」

しかし、中の文字は読めない。読もうとしても文字がぼやける。
どうしてもその文字を判別して読む事が出来ないのだ。

裕二 「(さっきのラクガキは読めるようになったのに……。)」

そして裕二は頭が痛くなり、手で押さえた。手はヘルメットのバイザーに当って本当の頭に届かなかった…。

裕二 「(ヘルメット?!そうだ、僕は……、)」

その時、チラリとアクエリアスの姿が脳裏に浮かんだ。

宇宙空間。巨大な宇宙船の姿が見えた。
その外壁はボロボロに傷んでいた。いくつもの隕石の衝突を受けて傷んでいた。
かわいそうな船。それはどこかに引き込まれて行くようだ……。

しかし、裕二にはそれがどうして引き込まれて行くのかわからなくなって来た。

そう、あれが自分が乗ってきた船だという事もだんだんわからなくなっていた。




裕二 「(なんだ?今、脳裏に浮かんだイメージは…………?)」








思い出の少女 [act.6]



 裕二はヘルメットを被っているのが急に嫌になった。

「(なぜ、俺はこんな物を被っているんだ?)」

ひどくそれに息苦しさを覚えた。無我夢中でヘルメットを脱ぐ。
いくつかのレーバーを引いてから、時計と反対方向に回せばそれは外れた。


裕二 「ふーーーーーーーーーーーー!!!」


深呼吸した。新鮮な空気だった。




ミンミンミンミーーーーーーーーーーーーーーーーン!

大きなセミの鳴き声が聞こえた。



ここの空気はうまかった。
窓のカーテンがそよめく。外から風が入って来た。冷たくて心地よい風だ。


裕二 「ふう!生き返った!」


気分が晴れやかになった。





 すると、裕二の真後ろで、床板のギシギシという音が聞こえた。

振り返ると、あの制服の少女が立っていた。
今度はピンボケでは無い。はっきり見えた。
その美しく幼い顔が鮮やかに見えた。


少女「ようこそ。この学校へ。歓迎します。」


少女はそう言って、手を差し出して来た。
握手をしろという事だろうか?
相変わらず少女は前から裕二の事を知っているような、親しげな喋り方だった。
だが、驚きの方が先にたって、その手を握り返せなかった。

少女「大丈夫!もう何も心配いらないわ。あなたは学校へ戻って来たんだもの。」

裕二 「え?学校?どこの学校?”戻って来た”っていったい何の事?」

少女「ほら、あなたが小学生の時に行った林間学校よ。」




裕二 「林間学校!」




その瞬間、裕二は頭の中に閃光が走ったかのように全てが思い出された。







 この校舎は老朽化して、すでに林間学校としてしか使われていなかった。
そうとう古くなっていたのだ。それにここにもともと存在した学校は、隣町の大きな学校に併合された。生徒数が数人しかいなかったから。

裕二は林間学校でこの校舎に宿泊しに来た事がある。そう、あれは小学校の夏休みの事だった。

すごく楽しかった。
地元の学校の生徒達ともいっしょになった。
その時、ずっといっしょに遊んだ少女がいた。

よくこの学校の教室で鬼ごっこをした。
ここは学校としてはもう使っていないので自由に出入りが出来た。
裕二が彼女を追って教室に入ると、彼女はすかさず別の扉から外に逃げた。

少女「こっち!こっちよ!」


少女の名前は…………、思い出せない。







裕二はまた頭が痛くなってきた。





宇宙空間の映像が浮かぶ。そして美しいミルキーウェイの銀河も見えた。
船のような長い物体も見えたが、裕二にはそれが何かわからなかった。
その姿がすぐに消えてしまったから。
それは流れ星のように細くなって、どこかに吸い込まれて行った…。








思い出の少女 [act.7]


 その次に浮かんだ映像は……、
綺麗な星空。
そして田舎町。

裕二は少女といっしょに夜に花火をした事を思い出した。
それは安物の線香花火だった。駄菓子屋に置いてある花火の中で一番安かった。
でも、一番綺麗だった。

少女は淡い空色の浴衣を着ていて、それがよく似合っていた。
2人で線香花火を囲んで見ていた。


ジュ~~~~~パチパチパチ。


本当に綺麗だった。
涙が出るくらい。線香花火の最後の光が切なく見えた。

少女 「あーーーー!!裕二君、泣いてるーーーー!!」

裕二 「ばか!花火の煙が目に入っただけだよ!」




裕二はあの便箋の事を思い出した。それでポケットに手を入れた。
いつのまにか、裕二は半ズボンを履いていた。

裕二 「あれ?」

さっきまで何か別の物を着ていた気がするが……、わからない。

取り出した便箋には綺麗な文字が書かれていた。
一目見て、それは女の子が書いた物だと分かった。

そう、おそらくこのやさしく清楚な文字の書き方は……、目の前いるこの少女が書いた物だ。

裕二 「(そうだ、あの時、僕はこの子の名前を聞き忘れていた。
いや、どうしても聞けなかった。恥ずかしくて……。)」





そして便箋の文字が読めた。そこにはこう書かれていた。



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結婚の申し込みありがとう。

返事はOKです。

大人になったら結婚しましょう。



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これは裕二がこの少女に送ったラブレターの返事だ。
裕二はノートの切れ端に書いて送ったのに、彼女はキチンと便箋に書いて返してくれた。
それがとても少女っぽくて素敵だった。

少女はまた笑いながら手を差し出した。

少女 「こっちの世界が”現実”よ。
私が貴方を助けたの。
私が貴方を向こうの世界から救い出したの!」

裕二 「”現実”?現実って、なんの事?」

少女「わからないなら、それでいいわ。
でも、約束は守ってね!」

裕二 「”約束”?」

裕二がそう言うと、少女はほっぺたを膨らまして怒った。
それで、裕二はまた彼女からの返事を見た。




裕二 「あーーーー!これね。大人になったらね。」




そう言って裕二は彼女の手を握った。

彼女は頬を赤らめ、クスクスと笑っていた。







窓からはまたいい風が吹いて来た。

耳を澄ませば、遠くの方に波の音がしていた。

そして、校庭からは幸せそうに遊ぶ子供達の声が聞こえていた。












THE END






入れ替わり。
現実と幻想の入れ替わりを物語にしてみました。

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