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案内人はアリさん。笑顔を絶やさず巨大な腹を左右に振って歩く姿に、「有名な社長?」と道行く人がスマホを向ける。
2020年東京五輪を控え、浅草寺周辺でもホテルの建設が進む。その現場を、多くのクルド人作業員が担っているという。山と低地を季節ごとに移動しながら牧畜を営む民族にとって、建てたり壊したりはお手のものらしい。
仲見世通り脇の更地になった建設用地の前で立ち止まり、アリさんは解説する。 「半世紀前に建てられた建物を解体し、地面の基礎部分を掘る。すると、われわれが目にするのは昔の日本人の骨や墓石だ」
実際、浅草寺から国際通りを挟んだ西側の一帯には江戸時代、寺町が広がっていた。 明治に入って凌雲閣をはじめ西欧を模した開発が進み、大正の震災で崩れ、昭和の戦争で焼けた。 その過程で、大半の寺が郊外へ移転。 人骨や墓、棺おけが多く置き去りにされた。
「発注元に報告すると、『その処分は元請けが考えるから』と言われて終わり。その後どうなったかは知らない」。土産物屋の並ぶ通りを練り歩く参加者に配られたイヤホン越しに、穏やかな声が届いた。
3日目、参加者たちはクルド民族の歴史をさらに深くさかのぼった。
東京芸大(台東区)の教室で、4力国のクルド人が集まってギリシャ悲劇を朗読したのだ。題材は、世界最古の「難民」を扱った悲劇である紀元前の詩人アイスキュロスの「嘆願する女たち」。
ギリシャ文明は、メソポタミア文明を参考に築いたという説がある。 メソポタミアは現在、クルドが暮らす地域でもある。ギリシャ悲劇は主に、西欧のオペラの形式で現代まで伝わるが、原初の悲劇には、クルドの響きも含まれていたとの仮説に基づいたワークショップだ。
「この国のほかに、いったいどこの土地が快く迎え入れてくれようか」。ソホラブさんがペルシャ語で、ジャブさんがクルド語で、「日本クルド文化協会」事務局長のチョーラク・ワッカスさん(36)がトルコ語で、順に読み上げる。PortB主宰の高山明さん(49)は「どの発音やリズムを詩として生かし、どの部分を散文化するかで劇の意味は変わる。西欧でオペラが発展する中で忘れられた、それぞれの文化固有の音楽性をよみがえらせたい」と語る。
チョーラクさんは言語学者で、トルコ大使館(渋谷区)で在外投票の選挙委員も務める。2015年の総選挙時には、大使館前でクルド人とトルコ人の乱闘騒ぎがあった。「クルドを巡って語られるのは、紛争の話ばかりだった。今回は日本の人々にわれわれの文化を知ってもらえた」とうれしそうだった。
ツアーの行程は「旅のしおり」としてネットで公開している。足跡を残し、誰でもしおりを参考に旅程をたどれる可能性をとどめておくことで、ツアーを「モニュメント(記念碑)を持てないタルト民族のモニュメントにしたい」(高山さん)との思いからだ。
戦争の犠牲者を悼み、日本の文化を愛し、日本人も知らない歴史の一端を証言する。そうしたクルド人の姿に3日間を通じて接した国際基督教大四年の小田部恵流川(えりか)さん(21)は、「私たちとクルドの人はつながっていると肌で感じた。たくさんのことを教えてもらったし、これからもお互いに学べることがきっとある」と振り返った。
<デスクメモ>
見慣れた日本の風景がクルドの人々には、まったく異なって見えていることに驚く。彼らの視線は、日本のマスコミが触れたがらない部分まで容赦なく及ぶため、真にジャーナリスティックとも言える。そんな視線から再発見した日本の実像から、未来へのヒントを考えてみたい。(典)
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