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「理路整然と間違ったことを言う始末の悪い男」
戦前・戦中を通し頑固に自由主義の論陣を張った経済ジャーナリスト、石橋湛山(たんざん・戦後、首相)は、世間からそうあきれられた。
1921(大正10)年の「一切を棄つるの覚悟」は、今読んでも驚かされる。時に36歳。経済雑誌「東洋経済新報」の社説欄に書いた匿名の独創的主張である。
日清・日露・第一次大戦に勝った日本は、軍備も領土もさらなる拡張をめざした。シベリアに兵を出し、ロシアの次は米国を仮想敵国に見立て、艦隊増強に乗り出す。世論もこれを支持した。100年余り前の日本が、何やら現在の中国と重なって見える。
同年度予算は、歳出総額の実に半分を軍事費が占めた。尾崎行雄が国会に出した縮減案は、賛成38票・反対285票で否決。政党は軍閥にびくついていた。
すかさず米国が外交攻勢に出る。日英仏伊4力国に、軍縮と極東・太平洋問題を話し合うワシントン会議を呼びかけたのだ。
うろたえ慌てる日本政府と国民に、湛山は「ざまを見ろ」と言い放ち、奇想天外な策を説く。
先手を取られた日本は、列国を驚かす大覚悟で臨まなければ失敗する。植民地の朝鮮、台湾、樺太(サハリン)を棄てよ。中国、旧満州(現中国東北部)、シベリアから兵を引け。明治以来の日本が勝ち得た何もかも棄ててかかれば、奪われるものはない。
世評はこれを空想的平和主義の空論と冷笑するか。されば、と翌週より3回「大日本主義の幻想」と題して、その普遍性と経済合理性を、得意の経済データをあげて詳しく論証した。
わが軍備は脅威ではない、侵略しないというが、いつの世もそれで軍拡競争は起きる。植民地経営に実利はない。民族自立は歴史の流れ。世界に先んじて本土だけの国に戻り、世界中から信頼される貿易立国として繁栄しよう。
それでもあざけり、ののしり、黙殺した政府と国民が20年後、太平洋戦争を始める。死者310万人、沖縄戦、本土空襲、原爆投下の末に「一切を棄つる」日本となって、湛山が予言した経済大国を実現したのは周知の通り。
湛山なら今、何を書くか。
軍拡増税反対、ウクライナ即時停戦、日朝国交正常化、中国首脳訪日、天皇訪韓、日露平和条約締結。
八方から怒声を浴びること必定。
今年、湛山没後50年。再読をお勧めします。
(専門編集委員)
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