2021/01/09
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​ 今のアメリカは「真ん中」が抜け落ちた社会の行きつく先に (第3回:2/2)​
= NewsWeek_Column 2020年12月30日(水) 金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載≪アステイオン:鋭く感じ、柔らかく考える、1986年創刊の論壇誌。公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会編。≫


東欧からの古い移民と、メキシコからの今日の移民とは米国に対する態度には深刻な違いがあるのだ。(略)私たちは新旧の移民の違い、以前と今日の米国の違いを理解する必要がある。(略)メキシコ人は他の文化から来るだけでなく、多くは人種も異なる。歴史と経験が示す通り、異なる人種の同化ははるかに難しい。
アフリカやアジアから来た大勢がいまだにアメリカ社会に完全に参加していない一方で、先祖がドイツから来た600万人のアメリカ人は完全に同化している。(略)乗船した時点で祖国に永遠の別れを告げた古い移民と異なり、メキシコ人の母国はすぐ隣だ。
多くは英語を学びたいとも、アメリカ市民になりたいとも願っていない。(略)彼らは国家の中の別の国家になろうとしている。(Patrick J.Buchanan, "The Death of the West: How Dying Populations and Immigrant Invasions Imperil Our Country and Civilization" page 124-126)

「文化戦争」とは、宗教や人種、エスニシティーの面でさらなる多様化を受け入れるか、否か、という争いとも言えそうだ。今の民主党には「多様性は力だ」とのコンセンサスがある。2020年大統領選の民主党候補バイデンは、副大統領候補に黒人女性の上院議員カマラ・ハリスを選んだ。父はジャマイカ、母はインドからの移民で、主要政党の正副大統領候補として初の黒人女性、アジア系となる。

一方、トランプ以降の共和党では「多様性は国家の分裂を招く」という懸念が吹き出しているように見える。以前には党の支持基盤の多様化をめざす動きがあり、2013年には当時の党の有力上院議員(マケイン、グラハム、ルビオら)が、不法滞在者に永住権の道を開くことと、国境管理の厳格化を両立させる超党派の法案を模索したが、ルビオは2016年大統領選で「裏切り者」と猛反発を受けて敗退した。
移民問題で現実的な妥協を模索することが、共和党政治家にとって後のキャリアの地雷になることを示すかのような展開だった。最近は歴史認識の争いも激しく、トランプは「キャンセル・カルチャー」という言葉で、従来の歴史観や文化が「左派ファシスト」に「消し去られそうだ」と危機感を煽っている。文化戦争が激しくなれば、ますます妥協は困難になる。「妥協の不在」である。

相手党は「脅威」、36%が認定
異なる意見を持つ人と出会う機会が少ない「他者の不在」、公共への投資が滞る「パブリックの不在」、文化戦争が激しくなる「妥協の不在」。今のアメリカでは「真ん中」が抜け落ちている。

その結果がルールなき闘争ではないだろうか。「裏切り者」「非国民」「反逆者」など、相手の政治家に向ける言葉は過激になり、2008年大統領選では、民主党オバマが「反米主義者」「テロリスト」と呼ばれた。2016年大統領選では、「ヒラリーを牢屋に送り込め」がトランプ集会で定番スローガンのように連呼され、クリントンの顔写真に銃の照準を合わせた、暗殺をほのめかすかのような図柄のシャツまで出回った。相手を単なるライバルではなく、「敵視」する風潮だ。



この風潮は党派間の意識にも出ている。ピュー・リサーチ・センターは、両党の支持層が相手の党は「国家への脅威になっている」とする「脅威」認識を調べた。2014年時点で、共和党支持層の36%が「民主党は米国への脅威」と考えていた。同様に民主党支持層の27%が「共和党は脅威」と捉えていたという。党派間で、相手を「脅威」と見なすようになっているのだ。

今のアメリカの姿は「真ん中」が抜け落ちた社会の行き着く先ではないだろうか。大統領トランプが「私たち」と言うときに、「そこに自分は含まれていない」と感じる、様々なマイノリティーがいる。

アメリカ社会には無数の断層が走っている。多様な人種、宗教、文化、考え方の人々が暮らしているので当然だろう。放っておけば摩擦が起きるが、歴代の指導者は何とか共通の理念や歴史を語り、結束を試みてきた。それでも断層はうっすら見えている。そんなことは、ほとんどのアメリカ人は知っているが、多くは、「私とあなたには違いもあるけど、共有している部分の方が多いはずだから共存しましょう」という姿勢で暮らしてきた。

ところがトランプは、その断層を広げようとしてきた。できた隙間に指先をひっかけ、別の断層も見つけ出しては、よじ登ろうとしてきた。これまでは失敗ばかりだったが、「100年に一度の危機」と言われた2008年の金融危機を経て、貧富の差への絶望、中流層から転落しそうだという不安が、普通のアメリカ人を襲った。人種や宗教の多様化が進み、「かつてのアメリカがなくなる」という不安や不満は、特に中高年の白人にマグマのように蓄積していた。

トランプは、それらを刺激し、怒らせようとしてきた。すると、断層の隙間に指先が入るようになり、つま先を突っ込めそうな足場も見つかった。それを繰り返しているうちに、「アメリカ大統領選」という、おそらく最も困難な壁の一つをよじ登った。
この局面で、民主党は大統領候補として、「ザ・真ん中」と呼べそうな穏健派ジョセフ・バイデンを選んだ。「真ん中」であるが故だろう、トランプや上院議員サンダースのように支持者に熱狂は生み出せていない。

それでも次の指導者が、国家としての「連帯感」を語らなければ、新しい「アメリカの世紀」の実現も難しいだろう。今のように虚実ない交ぜの不毛な闘争にエネルギーを奪われれば、国力も国際的な指導力も下がるばかりだろう。
急速に多様化する国家で「私たち」の修復は可能なのか。アメリカの挑戦を注視していきたい。



古都 老翁がいた。 翁は愛犬を愛で朝夕の散歩に伴う。 翁は大壺を持ち、夕刻 酒を片手に壺に躍り入る。 くぐもる声で語る傾国の世辞は反響し、翁の安息を妨げ、翁はなす術も無く自笑。 眠りに落ちた。 
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Last updated  2021/01/09 05:50:04 AM
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