2021/07/07
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​ 〝社会的挫折感〟と対峙 自信と警戒の間で揺れる中国共産党  =後節=​
= WEDGE REPORT 《世界潮流を読む》 2021年07月01日 加茂具樹 (慶應義塾大学総合政策学部教授)


『変革期社会の政治秩序』は、「近代性が安定を生み出し、近代化が不安定を生む」というパラドックスを検証し、その因果関係の説明を試みた。これが「ハンチントン・パラドックス」である。発展途上国はこのパラドックスに陥りやすい。ハンチントンは、経済発展と政治的不安定の関係を下表に示すように三つの段階で説明していた。これが「ギャップ仮説」と言われる。



 第一の段階は、経済発展が都市化や教育水準の上昇、マスメディアの発展を生み、これによって(人々の)新しい要求が生まれる(これが社会的流動化)が、経済発展は社会的流動化よりも遅い速度でしか増加しないため、要求の増大と要求の充足との間にギャップが進展し、これが社会的挫折を生み出す、というものである。

 第二の段階は、社会的挫折感と政治参加の関係である。農村から都市への移動や都市内部での職業的および所得上の移動といった移動の機会に人々は恵まれると、社会的挫折感は解消される。しかし、移動の機会を得られない場合、人々は政治参加によって要求実現を目指そうとする。

 そして第三の段階は、政治参加の要求が高まっても、それに応じて政治的制度化が進んでいれば、政治の安定性は維持される。しかし、そうではない場合、政治参加の高まりに政府は適応できず、政治不安を生み出す。これが、発展途上国において経済発展に伴って政治的不安定化が深刻化することを説明する有力な考え方である。

 歴代の指導部は、このハンチントンの考え方を熟知している。習指導部のなかで中央政治局常務委員会委員である王滬寧(おうこねい)は、1980年代にハンチントンのこの考え方を踏まえた論文を書いていた。だからこそ指導部は、「二つの奇跡」を実現したであるとか、「ハンチントン・パラドックス」を克服したという言説をつうじて、共産党による一党支配の優位性の物語を国内に向けて訴えるのである。

「全過程民主」を提起しつつ 治安強化政策を推進
 ただし、一党支配体制が「二つの奇跡」を実現したかどうかは疑わしい。少なくとも言えることは「これまでのところ」である。

 習指導部は、ギャップ仮説で示される「社会的挫折感」が中国社会において高まっていることを理解している。近年、指導部は「人々の満足感、幸福感、安全感を満たさなければならない」と繰り返し確認してきた。これまでの指導部は、中国社会の主要な矛盾を「人々の日々増大する物質的、文化的な需要と遅れた社会生産の間の矛盾」と定義してきたが、習はこれを「人々の日々増大する素晴らしい生活への需要と、発展の不均衡、不十分との矛盾」と言い換えた。人々の欲求は量から質へと変化したと捉えている。



 中国経済が高度成長の段階を終えたこと、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響によって、中国において「社会的挫折感」が増大し、最終的には「政治的不安定性」の増大を生む条件は整っている。指導部は、この問題に向き合っている。

 近年、習指導部は「全過程民主」という概念を提起し、例えば重要な課題に関わる立法の過程においてパブリックコメントの重要性を訴えている。増大する政治参加の要求に応えようとする「政治的制度化」の取り組みと言っても良い。もちろん政治参加の機会は増大しても決定権は共産党が独占したままという構図に変わりなく、また社会が発する多様な要求を有効に集約できるかどうかは分からない。「政治的不安定性」が克服されるかどうかは未知数である。

 習指導部は、一方で科学技術イノベーションを重視する。デジタルインフラ建設の推進を通じて人々の「質の高い社会」を実現したいという要求に応えるためであり、また経済発展によって多様化した社会の要求を的確に把握する能力の向上のためでもある。他方で「総体国家安全観」の提唱をつうじて、国内治安の強化という政策を推進している。

「一国二制度」の「一国」に力点を置いた「愛国者による香港統治」という対香港政策も、「戦狼外交」と揶揄されるように中国外交が「民意に拉致される」のも、中国社会が直面している「社会的挫折感」増大への警戒の反応という側面もある。また、「構造的パワー」の拡大を追求する中国外交もまた、こうした国内要因に突き動かされているといってもよい。

 日本は中国といかに向き合うのか。国内政治の文脈で捉えると、今後、中国共産党が言うところの結党100年のタイミングもあることから、中国外交は、より一層に自己主張を強め、強硬な政策を選択する条件は整っているようにみえる。ただし、その動機は経済成長による国力の増大に支えられた「自信」というよりも、国内の不安定要因に突き動かされた「警戒」にあるようにみえる。

 そうした理解を踏まえれば、海洋秩序をめぐって力で自己主張する中国に対して日本は力で毅然と対抗するべきである。またWTOといった国際経済秩序を形作るルール形成の分野において、中国がルールを逸脱して自己主張するのであれば、日本は、その都度、的確にルールに則って中国の行動を押し返す必要がある。中国の国内情勢の動向を見抜いて、隣国・日本だからこそ可能な多様な中国外交を展開する空間は大いにある。それは日中の安定化のみならず、国際秩序の安定化に向けた大国日本の責務とも言えるだろう。

なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く / 加茂具樹 (慶應義塾大学総合政策学部教授) ​ https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21723 ​



古都 老翁がいた。 翁は愛犬を愛で朝夕の散歩に伴う。 翁は大壺を持ち、夕刻 酒を片手に壺に躍り入る。 くぐもる声で語る傾国の世辞は反響し、翁の安息を妨げ、翁はなす術も無く自笑。 眠りに落ちた。 
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Last updated  2021/07/07 05:50:05 AM
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