書評日記  パペッティア通信

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Mar 7, 2006
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カテゴリ: 経済



「井戸に落ちた犬に石を投げよ」とばかりの狂想曲に、いささかうんざりさせられている人もいるのではないでしょうか。そんな今こそ、読書の出番でしょう。本日、ご紹介するのは、江戸時代の豪商たちの華麗な生態を描いた古典的な概説書。これが、今の「ヒルズ族」と重なってみえる所もあって、なかなか面白いものがあるのです。

章立ては、以下の通り

1 近世の豪商

3 神屋寿貞と宗湛
4 末吉勘兵衛と孫左衛門
5 淀屋常安と个庵
6 鴻池新六と宗利
7 住友政友と蘇我理右衛門
8 住友友以と友芳
9 三井殊法と高利・高平
10 河村瑞賢
11 紀伊国屋文左衛門
12 近江屋長兵衛
13 奈良屋茂左衛門


いずれ劣らぬ著名な人物ばかり。
とはいえ、一攫千金のサクセス・ストーリー、『プレジデント』『ダイヤモンド』などで特集されるような、チンケな経営指南書ではありません。なによりも、当時の豪商の論理、日本の商業事情がさりげなく描かれているのが喜ばしい。

やはり 近世初期の豪商は、御用商人・冒険商人が主流 だったようだ。西国の大名や京・堺・長崎・江戸の商人によって担われた南洋への朱印船貿易は、船主に対して、資金の共同出資をおこない、リスクも高いので年利3~5割のリターンを要求するものだったらしい。銀山経営やロウの専売をおこなった神屋家、分割投資によるリスク分散を家訓で説いた島井家や末吉家も、そんな時代の申し子。戦国大名などへの投資などを欠かさず行っていたらしい。やがて徐々にかわりはじめるのが、後に「闕所」となったことで有名な淀屋あたりから。淀屋は、やがて米・魚価格の独占的決定権を幕府から得て台頭したという。鴻池家は、清酒酒屋から海運業へと進出して、両替商になり、いわゆる大名貸を始めたことは商人の「あがり」が、今の銀行にあたる両替商であったことを改めて確認させてくれます。一方、住友家は、銅山事業・「銅吹き屋」から家を興して台頭。その「業祖」にあたる蘇我理右衛門は、西洋人から「南蛮吹き」と呼ばれる技法を盗んだという。その技法とは、銅・銀が雑じっている銅鉱石を亜鉛をまぜて融解、温度を325度以上にあげて、「銅」と「銀亜鉛」の合金に分離して、その合金を灰炉の中に静かに「溶かし吹き」をおこない、「 灰吹銀 」を抽出する方法らしい。なかなか大儲けしたようだ。

ところが、 近世中期になると、豪商は材木商


むろん、豆知識も豊富で楽しいものがあります。河村瑞賢は、新井白石など、学問のオーナーとして振る舞っていたという。意外や、 大阪の有名商人には、淀屋を始めとして武士身分あがり のものが多いらしい。住友家を苦しめた、幕府の鉱山への課税。その統制の元締めにあたる「銅座」は、住友の別子銅山のほとんどの荒銅を買い上げ、銅吹き屋に渡して棹銅に精錬して、輸入代金として外国商人に手渡すべく、長崎に回送していらたらしい。他にも、戦国期に石見・生野の銀山がでるまで、対馬が銀産地であったにすぎず、 西国は銀使い経済ではなかった というから驚くではないか。

なによりも、 現代日本の淵源を改めて確認させてくれる のが嬉しい。江戸時代も大店となると、番頭・手代・丁稚の役割分担が定められ組織的運営がおこなわれるばかりか、「店」と「奥」(家族)が分離していく。そこでは、「奥」が「店」に出資をする形をとり、主人は俸給生活者のようになっていくという。今の株主と株式会社の関係が想起されるであろう。また、江戸時代の商人にとっての理想像は、 45歳まで蓄積して、それ以降は引退 することにあったという。土地や家屋を購入して家賃収入で生活する「仕舞うた屋」(営業をやめた人)になり、遊楽三昧で暮らす夢を追いかけた商人たち。現代アメリカ人ビジネスマンの価値観を見ているみたいで、たいへん微笑ましい。

とはいえ、 江戸期を通しての豪商 は、淀屋といい、河村瑞賢といい、奈良茂といい、たいていが 土木工事・木材商などの戦時成金・御用商人 である、という実相はたいへん情けない。実は、「土建屋政治」「列島改造」などのゼネコン利権は、江戸時代からあったというのだから恐れ入る。かの高名な紀伊国屋文左衛門も、実はミカンというよりも、材木商になることで金を稼いでいたという。そして 豪商が御用商人 であることの多さ。かの三井高利も、牧野備後守成貞の引きで、公金取扱をおこなえるようになったのだという。

江戸時代から400年、今や平成の世の中。時代は変われど、日本で豪商・大金持ちになりたいなら、所詮、権力と結託するしか方法がないのか。前回の総選挙において、ホリエモンと自民党の共闘、トヨタの総力をあげての自民党支援、などをみると、江戸時代からあまり変化していないことがわかってしまい、あいも変わらぬ「開発独裁」には、ゲンなりさせられてしまう。


ご存じ、超優良企業「武田製薬」の創設者。

宣伝・広告などが考えられもしない。そして得意先を奪うことが商業道徳上許されなかった時代。そこで、薬問屋から始めて、長崎から薬を仕入れ、地道に得意先を回りご用聞きを行い、一歩一歩拡大させ、やがては世界企業に………一服の清涼剤になっていて、感動的ですらある。こんな豪商をもっともっと出してくれれば、ずっと面白かった…逆に『中堅商列伝』になってしまったかもしれないが。

海外貿易の従事者でさえケチケチを重ね、茄子の皮やヘタまで節約して金をためた豪商たち。今こそ、そんなユニークで面白い豪商たちの生き様を学ぶべきでしょう。ほとんどの図書館には入っているでしょうし、これをお読みの皆様は、ぜひご一読していただきたい。


評価 ★★★
価格: ¥945 (税込)




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Last updated  May 16, 2006 03:07:33 PM
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