キャロルはわんちゃんのパラダイス写真館
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学生時代のバイトの中で今も強く心に残るシーンがある。当時、学生服の小売店で配達の
仕事をさせてもらっていた。学校指定の店なので入学シーズン前になると殺人的な忙しさにな
る。制服が仕上がる度に原付バイクでお客様の自宅まで届け、代金を頂戴する。ある日、店
主からセーラー服の配達を頼まれ届けることになった。私は伝票の住所を見て少しばかり顔
が曇った。嫌な胸騒ぎがした。バイクを飛ばして15分。目的地まで行くのに道は入り乱れ、狭
く、バイクが通るのが精一杯である。ここは大阪でもかなり貧しい人が肩を寄せ合い生活して
いる所で、まさに地図に乗っていないところなのだ。路上でオヤジが酒を飲んで寝ている・・・。
夫婦なのか路上に胡坐をかきおそらくホルモン焼きか、美味しそうに食べている。このあたり
の家、アパートは皆、多少なりとも傾いている。目の錯覚ではない。家が斜めに傾いているの
だ。配達先の家はアパートである。やはり傾いていた。入り口のドアーも窓も看板も・・・。アパ
ートの前で女の子が、なにやら此方を見ながら「制服屋の兄ちゃん!、もってきてくれたん・・・」
女の子は毀れるような笑顔で問いかけてくる。お世辞にもいい服を着ているとは言えない。「2
階にお父ちゃんとお母ちゃんいてる・・。」女の子は私の届けた制服の箱を大事そうに抱えなが
ら自分の部屋へ走っていった。建物が傾いているせいか此方がめまいを起こしそうな錯覚に
陥る。傾いた階段を恐る恐る登ると、4畳半ぐらいの大きさか、かなり散らかった少し異様な匂
いがする部屋に。真ん中に父親が厳つい顔をしながらタバコをふかして私の姿を見たのか「兄
ちゃん・・・まぁ中へ入り・・」母親もうまそうにタバコを吸っている。即座に貧しいことがわかる。
父親は能書きを並べだした。俺は病気や、だから働けない、明日に生活保護費が出る、だか
ら私に何をしろと言うのだ・・。要は今は金が無い。商品だけ置いて行け。と言うことらしい。代
金を頂かないと店主に怒られることをいくら叫んでみたところで、金ができたら払う。の一点張
りである。商品は持ち帰りますとはさすがに言えず、もはや彼女は箱から制服を取り出して嬉
しそうに体に合わせて母親と喋っており、今更奪い返して持って帰るわけにも行かない。しかし
彼女は本当に幸せ一杯の笑顔を振りまいている。今までほしいものも買ってもらえず辛抱して
きたのであろう。そんな彼女の過去を考えていると目頭が熱くなり、涙もろい自分に情けなくな
る。涙を必死に押さえ、商品を奪い返すこともできず、店主が怒るであろう店におめおめと戻っ
たのである。事情は説明し、謝った。「解った・・。ご苦労さん」店主はそれだけ言って又、作業
場へと消えていった。なぜか遣る瀬無い気持ちが襲ってきた。その後お金を払ったかどうかは
私には判らない。ただあの時の笑顔の彼女が今どんな風に暮らしているのかすこし知ってみ
たい気がする。
