わんこでちゅ

3 ヤマダくんの奇跡の聖夜














ここ毎日、俺の奮闘むなしく、なくなる患者が多い。最善の手をつくしたにもかかわらず、自分の無力さを感ぜずにはいられない。動物ずきは、こういう職業につくべきではないのか、、。商売として割り切ってやらなければ、精神的にかなり落ち込みがきて、やりきれないよ。そんなことを考えながら、さきほど亡くなった子猫を探してきたきれいな小さなお菓子の箱に、そっと入れた。あとはみかちゃんが心ばかりのわずかな金額であるが、このこのために花を買いにでているので、もどってきたら入れてあげるつもりだ。

その時である、電話の呼び出し音がきこえた。みかちゃんがいないので、あわてて俺がでる。なんとカーク君の飼い主からだった、、。受話器からは緊迫した飼い主の声がきこえる。俺はすぐにつれてくるように指示した。そのすぐ後にみかちゃんが三軒となりの花屋からもどってきた。箱に一輪パステルカラーのデイジーをいれると、がりがりにやせ細った、みすぼらしいあわれな黒い子供の捨て猫も、少し穏やかな可愛い顔に見えた気がした。そしてさすがにいつも明るいみかちゃんも、すんと鼻をならしながら、そっと、そっと安らかな眠りをさまたげないよう蓋をしめた。

カーク君の飼い主は真っ青な顔をしていた。

「先生!二度とこういうことがないように、注意してたんです。なのに、なのに~~。うっうっうっ。」

俺は無言でカーク君を診察台にあげ、様子をうかがった。今なにかいえば、後悔におろおろしている飼い主をただただせめることにもなりかねない。それよりもカーク君の的確な診察が今一番重要なことなのだ。

「みかちゃん、カーク君のカルテと、以前とったレントゲン写真、大至急もってきて。」

以前撮ったカーク君のレントゲン写真を照明にすかしてみる。何度も何度もじっとみる。すると飼い主もよってきて、じっとみつめる。肩がふれるほど近くに俺と飼い主はよりそい、じっとみつめる。

再度カーク君のところにいって、腹部等を触診する。今のところ元気そうにみえるが、今度はレントゲン写真には、うつりづらいはずだ。俺は飼い主さんの顔をみた。どうしたものか、今後の処置に悩んでいるのだ。飼い主も俺の顔をみている。お互いがお互いの瞳をじっと見つめあい、その目の色から相手がいいたいことを推察しようとしていた。それは実際は一分にも満たない時間だったが、実に長い時間のように感じた。若くも美しくも可愛くもない中年女と、こんなにじっと見つめあったのは、うまれてはじめてだ。

「先生!」

すがるような声で飼い主はいった。

「かけてみましょう。様子をみて、症状がかわったらすぐつれてきてください。」

飼い主さんは、またまた毎度のことながら、肩を落とし、なきながらかえっていった。どうかあの聖夜の日におこった奇跡よ。もう一度!!おれは願わずにはいられなかった。

飼い主の姿がみえなくなると、にやにや笑いながら、つつつーーっと俺によってきてみかちゃんがきいた。

「せ~んせい、なに二人して、だまってみつめあっちゃってんですかぁ?あーあのおばさんがすきになっちゃったのかなぁ。ぐふふふふっ」

あっ、この女、もうすでに子猫のことから回復している。立ち直りはやいなぁ。いやいやこういうタフな精神じゃないと、この仕事はやっていられないのかも。俺もみならうべきか?あきれてどっと疲れがでて、俺は力なく返事をした。

「どーして、若くて、ハンサムで、女の子よりどりみどりの俺が、そんな気になるっていうんだ。よっぽど狂ってなきゃ、相手にしないよ、、。」

「ぎゃーーーはははははっ、そうですよねぇ。」

ひときわ甲高いみかちゃんの笑い声が、俺のかんにさわった。しかし、大丈夫かカーク君??











カーク絵
カーク似顔絵

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