《櫻井ジャーナル》

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2016.03.05
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 トルコの新聞、ザマンの経営権を政府が握った。昨年11月26日にはジュムフリイェト紙の編集長を含むふたりのジャーナリストが逮捕され、3月25日から裁判が始まる。トルコ政府は言論弾圧に拍車をかけていると言えるだろう。

 ジュムフリイェト紙の場合、トルコからシリアの反政府軍、つまりアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)へ供給するための武器を満載したトラックを憲兵隊が昨年1月に摘発した出来事を写真とビデオ付きで5月に報道、その報復だと見られている。

 報復は新聞社にとどまらず、レジェップ・タイイップ・エルドアン政権はウブラフム・アイドゥン憲兵少将、ハムザ・ジェレポグル憲兵中将、ブルハネトゥン・ジュハングログル憲兵大佐を昨年11月28日に逮捕した。シリアへ侵攻している武装集団を支える兵站線がトルコからシリアへ延び、それをトルコの軍や情報機関MITが守っている「国家機密」を明らかにすることは許さないということだ。

 もっとも、この「国家機密」は「公然の秘密」でもある。例えば、2014年10月19日に 「自動車事故」で死亡したイランのテレビ局、プレスTVの記者だったセレナ・シムは死の前日、MITからスパイ扱いを受けたと言われている。その直前、彼女はトルコからシリアへ戦闘員を運び込むためにWFP(世界食糧計画)やNGOのトラックが利用されている事実をつかみ、それを裏付ける映像を入手したと言われている。

 ジョー・バイデン米副大統領は2014年10月2日にハーバード大学で講演した際、シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。 この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ 」と述べ、あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにダーイッシュを増強させてしまったことをトルコのエルドアン大統領は後悔していたとも語っている。勿論、「後悔」などしていないが、トルコの責任は指摘している。

 ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もCNNの番組で、 アメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと語っている が、友好国や同盟国にサウジアラビア、イスラエル、そしてトルコが含まれている可能性は高い。

 また、2014年11月にはドイツのメディアDWも トルコからシリアへ食糧、衣類、武器、戦闘員などの物資がトラックで運び込まれ、その大半の行き先はダーイッシュだと見られている

 アメリカ政府の場合、遅くとも2012年8月にトルコとアル・カイダ系武装集団との関係は知っていた。アメリカ軍の情報機関DIAが作成した報告書の中で、 シリアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、AQI であり、反シリア政府軍を西側(アメリカ/NATO)、湾岸諸国、そしてトルコが支援しているとしている。

 アメリカ政府はシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すため、「穏健派」を支援するとしてきたが、事実上、「穏健派」はシリアの反政府勢力に存在しない。反シリア政府軍を支援すると言うことはアル・カイダ系武装集団を助けることを意味し、現在の状況は予想されていたのだ。文書が作成されたときに DIA局長だったマイケル・フリン中将は文書が本物だと認めた上で、そうした勢力をDIAの警告を無視して支援してきたのは政府の決定だとしている

昨年10月7日から8日までの期間、エルドアン大統領は日本に滞在 していた。ロシア軍機の撃墜を決める直前ということになる。その直前に「難民危機」が起こっているが、これはトルコ政府が演出したもの。EUへの脅しに使っている。この「危機」で日本はトルコを支援すると確約したらしい。

 日本でアメリカ側の誰かと接触していた可能性もあるだろう。 11月13日にはトルコのイスタンブールで安倍晋三首相はエルドアン大統領と首脳会談 、その11日後にロシア軍機を撃墜した。トルコで両首脳は日本とトルコが共同で制作した映画「海難1890」を見たらしい。この当時、日本政府もトルコとダーイッシュなどとの連携を知っていたはずだ。

 この公然の秘密をトルコ人が口にすることをトルコ政府は禁止したがっている。そのひとつの結果がメディアに対する攻撃だ。今回、エルドアン政権に乗っ取られたザマンは与党を支持していた新聞なのだが、独裁色を強める政府を批判するようになり、報復されたわけである。この乗っ取りに抗議する人びとに対し、警察隊は放水や催涙弾で鎮圧を図った。

 現在、トルコ政府はサウジアラビア王室と共同でシリアを軍事侵攻する姿勢を見せて威圧、トルコ領内にある核兵器を盗み出す可能性が指摘されているほか、サウジアラビアは数年前に核兵器をパキスタンから購入したと間接的に表明している。

 当初、トルコ政府は自分たちがNATO加盟国だという立場を利用、ロシアはNATO軍との衝突を避けるはずだという思い込みで強硬策を打ち出してきた。その思い込みは9月30日にロシア軍がシリアで空爆を始めた段階で崩れたのだが、それに気づかず、ロシア軍を追い払うために 10月10日にロシア軍機の撃墜を計画

 詳細は不明だが、11月17日にはロシアの旅客機がシナイ半島で撃墜され、11月24日にはロシア軍のSu-24をトルコ軍のF-16が撃墜している。トルコ政府はロシア軍機が領空を侵犯したと主張しているが、説得力がないことは本ブログで何度も書いた。11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍の幹部と討議した事実との関連性が話題になっている。

 NATO軍の内部には、ロシア軍が反撃に出たら攻撃しようと構えていたグループもいそうだが、ロシアは別の手段を講じて反撃した。即座にミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムであるS-400を配備し、戦闘機を増派してシリア北部の制空権を握ったのである。それ以降、シリアの領空を侵犯したら撃墜するという意思表示だ。さらに、対戦車ミサイルTOWに対抗できるロシア製のT-90戦車も増やし、シリア沖にいる世界で最も静かだという潜水艦がミサイルを発射してダーイッシュを攻撃したとも伝えられている。西側は沿岸に近づけない状態だという。

Erdogan

 トルコのエルドアン政権はNATOを利用して自分たちの軍事的な野望を実現しようとしたが、思惑通りには進んでいないようだ。最大の理由はロシアが軍事的な脅しに屈せず、挑発に乗ってこないことにある。苦境に陥ったエルドアン政権は言論弾圧で乗り切ろうとしている。「日米同盟」を利用して自らの軍事的な野望を実現しようと目論み、自分たちにとって不都合な事実を隠すために「秘密保護法」を導入、言論の弾圧を強化する安倍政権とよく似ているが、両国のメディア自体は全く似ていない。トルコでは言論弾圧に抵抗する人びとがいるが、日本のマスコミは政府の政策に疑問を持つことさえなくなったように見える。勿論、そうした日本のマスコミを批判するためにアメリカの有力メディアを持ち出すことは、さらに救いがたい。彼らこそが偽情報を流す震源地であり、「嘘の帝国」を支える柱のひとつだ。





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最終更新日  2016.03.06 06:24:48


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