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2025.12.02
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カテゴリ: Business

・海老原嗣生の『静かな退職という働き方』は、近年世界的に注目される“ Quiet Quitting (静かな退職) を、日本の労働市場・雇用慣行の文脈に即して解析した一冊である。「静かな退職」とは、職務記述書以上の仕事をあえて引き受けず、過剰な熱量を組織に注がない働き方の潮流を指す。海老原はこの現象を単なる 若者の怠惰 として片づけず、日本の雇用制度が生み出した必然的な結果として読み解く。

・本書が描く中心テーマは、「なぜ静かな退職が広がるのか」という問いである。海老原は、以下の日本固有の構造要因が背景にあると指摘する。

メンバーシップ型雇用  ——  職務範囲をあえて曖昧にし、社員を 総合力で動員 する日本の雇用慣行。

同質的な昇進ルート  ——  年功序列や横並び評価によって、成果へのインセンティブが弱い構造。
過剰な 善意の奉仕 を当たり前とする職場文化  ——  残業、サービス精神、過度な献身が評価の暗黙的基準になる。

これらの結果、従業員は「頑張っても報われない」心理状態に陥り、組織への過剰投資から距離を置くために“静かな退職”という防衛反応を選ぶ。本書は、この選択を「合理的で健全な働き方のリセット」と位置づける。

・静かな退職を理解する 3 つのレイヤー

1.  個人心理のレイヤー

海老原は、静かな退職とは「燃え尽きの前に防衛線を引く行為」であり、職務範囲の線引きを明確にすることで心身の消耗を抑える戦略だとする。 日本型企業は 役割の境界線が曖昧 なため、働き手が自ら線を引かない限り仕事量が制御できない。

2.  組織文化のレイヤー

本書では、日本企業の「期待の非明文化」こそ最大の問題だとしている。 評価基準が曖昧で、上司の主観によって負荷と報酬が一致しないため、優秀な社員が静かに熱量を下げていく。

3.  社会構造のレイヤー

少子高齢化・成熟市場・賃金伸び悩みといった環境下で、組織に過度な忠誠を求めるモデルが破綻している。 海老原は、静かな退職の潮流を 時代の構造変化の正しい帰結 として位置づける。

・本書が提案する処方箋

「職務型への部分移行」

全社員をメンバーシップ型で運用するのではなく、専門業務や裁量業務についてはジョブディスクリプション(職務記述書)を導入し、役割と期待値を明確化する。

「評価の透明化」

成果や貢献の基準を言語化し、暗黙知で運用される“空気の評価”をなくす。

「過剰な善意依存のマネジメントの脱却」

“頑張りで吸収する”職場文化を終わらせ、適正な人員配置・業務設計に軸足を移す。

これらの施策は企業側の視点だが、本書は働き手に対しても“静かな退職”という選択を戦略的に使う方法を提示する。仕事の優先順位を整理し、職務範囲を明確化し、余力を自己投資に振り向ける――この姿勢が長期的なキャリア形成の安定剤となる。

・キャリアの中盤に差し掛かる世代にとって、「静かな退職」は逃避ではなく、働き方の再設計のチャンスになる。海老原は、組織へ盲目的に尽くす時代は終わり、“仕事を選び、熱量を管理する能力”がキャリアの核心になると見る。静かな退職は、情熱を捨てることではない。 情熱を投じる対象を 自分で選べる状態 をつくることだ。本書は、個人と組織の双方が疲弊する日本的働き方をアップデートするための、冷静かつ構造的な視座を提示している。


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Last updated  2025.12.02 00:00:14


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