・荒木博行の『世界失敗製品図鑑』は、歴史に名を残した“失敗したプロダクト”を素材に、イノベーションの本質と組織が陥る思考の罠を読み解く一冊である。著者は、華々しい成功物語ではなく、“市場で受け入れられなかった試み”にこそ、ビジネスの構造的な学びが凝縮されていると捉える。本書は、失敗を笑うための図鑑ではない。失敗を「意思決定の副産物」として逆照射し、プロダクトが市場でこけるとき、その裏側で何が動いていたのかを冷静に分解する試みだ。
・本書には、世界のあらゆる分野から選ばれた“見事に転んだ製品”が登場する。例として、以下のようなプロダクトが扱われる。
* ニュートン( Apple の PDA ) —— 早すぎた技術、未熟な手書き認識、想定顧客の不在。
* Google グラス —— 世界観は先行していたが、文化受容とプライバシー課題を読み誤った。
* コカ・コーラの C2 —— 低カロリーなのに中途半端で、誰のニーズにも刺さらなかった。
* ダウニーの “ しわ伸ばしスプレー ” —— 消費者行動を楽観視したマーケティングの敗北。
荒木は、失敗した製品たちを単に「機能が悪かった」「時代が早かった」で片付けない。 そこに潜むのは、組織の思い込み、顧客理解のズレ、技術中心の独りよがり、意思決定のバイアスだと指摘する。
1. 失敗は “ 技術 ” ではなく “ 認知 ” から生まれる
技術が優れていても、顧客の行動様式・文化的受容・価値判断を誤ればプロダクトは滑る。 市場の「本当の課題」を見極める前に開発が突き進むことで、製品は迷子になる。
2. 組織は成功体験の “ 亡霊 ” に引きずられる
多くの失敗には、過去の成功モデルに固執する心理が見え隠れする。 「次も同じロジックで勝てるはずだ」という慢心が、新市場のルールを見誤らせる。
3. 失敗は “ ゼロ ” ではなく、 “ 情報の資産 ”
荒木は、プロダクトの失敗そのものを“知的財産”と捉える。 市場の拒絶は、顧客が何を重視しないかという情報を精確に教えてくれる。 つまり、失敗の中にこそ次の成功の素材が眠っている。
・ 30 〜 40 代の読者にとって、本書の価値は「思考の癖を可視化する」点にある。中堅として意思決定の一部を担い始める年代にとって、失敗製品に潜むバイアスの構造はそのまま自分たちの現場に重なる。
- 顧客の “ 本音 ” を確認せずに企画を進めていないか
- 技術や手法に酔って、本質課題を見落としていないか
- 過去の成功体験にしがみついていないか
失敗は、成功の対極ではなく、成功の条件をあぶり出すプロセスだ。
『世界失敗製品図鑑』は、華やかな勝者の物語では学べない “
”
を集めた教材であり、イノベーションを扱うすべてのビジネスパーソンに、冷静な視座を突きつける。失敗を恐れず、しかし軽んじない。そのバランス感覚こそ、変化の激しい時代を生き抜くための実務的な武器となる。
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