空飛ぶトンボ

空飛ぶトンボ


無声映画の中へ放り込まれたようだ。
見上げると空は赤く、雲が流れているが、
風の音と、匂いがない。
近くに流れている小川のせせらぎも聞こえない。
ふとデジカメを取り出した。
今目の前に見えている光景は、果たして存在するのか?
音のない光景の前に、耳を傾ける。すこし手が震えている。
 小高い山間のある一角に人影が見える。
男が一人弓を引いているようだ。
シャッターを切ろうとも、指が硬直して動かない。
男は獲物を追う素振りを見せて、立ち止まりこちらを見た。視線が交錯する。
シャッターを切ろうと再度試みるも、指が動かない。
汗をかいた。シャツの背中が張り付く感触と、指先の滑りが気になる。

 男は走りながらたどり着くところを探した。どこまでも駆けていく。
男は自由をつかんだ草原の馬だ。たてがみをなびかせ走り抜ける。
遠くにはうす赤い光がともる。その横に狼煙が立ち上っている。
そこには、仲間がいるのだろうか。


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