Glenn Gould, Off the Record, On the Recordv (邦題「グレン・グールド27歳の記憶」)こちらのほうが直輸入盤で安いけれど,DVDのリージョンコードが1なので,日本のDVDプレーヤでは視聴できないかもしれません〔パソコン上の再生ソフトでなら観れるかも〕)というDVDです.実は,グールドがバッハのイタリア協奏曲をニューヨークのコロンビアレコードで録音している風景の映像をYouTubeに流した人がいて,それを紹介してくださった方がいたのですね.それでもしかしてそのDVDがないかと思って売り場をさまよってみたら,もしかしてこれかも,というDVDを見つけました.まさしくピンポ~ンでした!
私のお気に入りの録音のイタリア協奏曲の録音風景が映像で存在するのを知って,これは是非ソフトを手に入れてみたいと思っていたのですが,あっさり販売されていたわけですね.このDVDは一時間ほどの番組で,かつてカナダの放送局がドキュメンタリーとして流したもののようです.前半がOff the Recordで,グールドの住まいでの撮影とインタビュー,後半がOn the Record で,その録音風景を中心にした映像です.デビュー後4年の27歳のときのもののようです.
この番組の中でも,グールドは舞台よりスタジオの方を好むといっていて,その後の生き方の方向がすでに語られていますね.Off the Record の中の対談で,インタビュワーが「ウェーベルンは人物も曲もシャイだ」,といったらグールドはおもむろに「ウェーベルンの変奏曲」をピアノで弾き,「これがシャイ?」,「それよりシャイなのはこれだ」とシューベルトの交響曲第5番のさわりをピアノで完璧に弾いて聴かせています.たんにぽろぽろと弾くのでなくちゃんと音楽になっているし,それが暗譜で,さらさらと出てくるのにびっくり.暗譜というより,耳で聴いたままそれを弾くことができるということなのでしょうね.またこの番組では,グールドは35歳くらいで演奏活動を引退し,作曲に専念したいと考えている,と紹介されています.一方,その対談では,誰の真似でもない自分の作風をまだ見つけられないでいる,という悩みも吐露されています.彼は,管弦楽曲のピアノ編曲録音も残していますが,その方向性が,この対談を聴いていてわかる気がしました.
On the Record の録音風景もとてもとても興味深いものです.スタジオで演奏し,オペレーションルームに戻って録音を再生してチェック.ディレクターとの会話も興味深いし,少しでもよいものを残そうとがんばっている様子がわかります.グールドはこの番組を見るかぎり,専横的ではないけれど,自己の主張や「こだわり」にはかなり強いものがあり,きわめて個性的なことが鮮烈にわかります.低めの椅子に足を組んで座り,イタリア協奏曲の第3楽章をあの速さで弾きこなすところは圧巻.あの足の組み方でペダルを踏めるのか,と思いますがペダルはほとんど使わないみたいですね.