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2026.09.24
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カテゴリ: 宿


どこにいる普通の主婦に見えるかもしれませんが、私には誰にも言えない秘密があります。生きるために、朝は駅前の蕎麦屋でパートをし、昼過ぎからは歓楽街のマンションで夜の仕事をしています。

寂しくて、悲しくて、どうしようもない毎日。これは、そんな私の独り言のような日記です。朝5時。まだ夜が明けきらない街を歩き、駅前の蕎麦屋へ向かう。

制服の割烹着に袖を通し、頭に三角巾を巻いて鏡の前に立つと、そこにはくたびれたパートのおばさんが映っているだけ。

​
アパホテル〈福岡天神西〉 ​

巨大な鍋に火をかけ、カツオと昆布の優しい出汁の香りが厨房を満たし始めると、胸の奥がキュッと締め付けられる。数時間前まで、あの狭い部屋で男の体を抱いていたことなんて、この清らかな湯気が容赦なくなかったことにしていく。

「おはようございまーす!」同僚のパートさんが明るく出勤してくる。

旦那さんや子供の話で盛り上がる彼女たちの輪に、私はどうしても入れない。同じ厨房で並んで天ぷらは揚げていても、私たちの生きている世界は決して交わらない。



私は駅のホームの隅にある多目的トイレに駆け込み、中から鍵を閉める。カバンから引っ張り出すのは、発色の良い口紅やラメの強いアイシャドウ。
​
森のスパリゾート 北海道ホテル ​
鏡を睨みつけるようにしてファンデーションを叩き込み、シミもシワも、地味な自分も、厚化粧で塗り潰していく。「……何やってるんだろう、私」声に出した瞬間、涙が溢れそうになって慌てて上を向いた。

今泣いたら、商品としての顔が台無しになってしまう。

最後にきつい甘さの香水を首筋に吹き付けた瞬間、出汁の匂いは完全に消え去り、私は源氏名の女へと変貌する。

雑居ビルの中にある、お店の待機室。カビと安い芳香剤が混ざった重苦しい空気の中、女の子たちが無言で長椅子に座っている。

スマホの画面の光だけが、彼女たちの無表情な顔を白く浮かび上がらせていた。

「お疲れ様です……」

挨拶しても、小さな会釈が返ってくるだけ。
​
ヒルトン東京ベイ
ここでは本名も、ここへ行き着いた理由も聞かないのがルール。借金、病気、孤独、家族の介護。

理由は違えど、みんな自分の心をバラバラに引き裂いて、ここに流れ着いた仲間たち。誰も喋らない。だけど、沈黙の中に痛いほどの悲鳴が満ちているのが分かる。

お互いの死んだ目を通して、確かにここに存在していることを確認し合う。

それはあまりにも惨めで、切ない、言葉のない連帯だった。ジリリリリ、と静寂を切り裂くようにインターホンが鳴り響く。「3号室入って」ついに、私の名前が呼ばれた。

私はスマホをカバンに押し込み、ゆっくりと立ち上がる。顔には、さっきトイレで作った夜の笑顔を張り付けて。


​
ダブルツリーbyヒルトン京都駅 ​





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最終更新日  2026.09.24 21:37:59 コメントを書く


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