常緑樹8 なぐさめに笑いがこもる…


(平成13年6月号 2001/5/20)

十七、八年前妻が花粉症にかかった。
目を赤くして、一旦クシャミが出始めると止まらない。
愛する夫の勤めとして、なぐさめ、何が効くのかを真剣に調べたりした。
陣痛の痛みを共有すれば少し楽になるという話を聞いて、自分も花粉症になれば、少しは妻が楽になるのではと本気で思ったりした。

東京の、空気の悪さで有名な環七沿いから逃げ出し、少しは美味い空気の毎日を送ろうなぞと思ったのが、何かの罰かと悔やんだりもした。
その数年後のある日突然、私もクシャミが出て止まらなくなった。
冗談じゃないぞ、と思ったが、目も痒いし、鼻水も出る。
どうか風邪であってほしいと願った。
「おめでとう(とは言わなかったが)、花粉症。杉だよ、杉」と調べてくれた医師がちょっと笑みを浮かべながら言う。

目の前が真っ暗、だからといって妻もよくはならない。
その日から目薬とティッシュが欠かせない春になった。
医師から「残念ながら杉の無いところに住むしか特効薬はない」とのありがたい忠告。

それはどこか、と問えば「北アメリカか北海道。そこの杉は種類が違うので大丈夫」。その後縁あってある夏北海道へ戻った。
春以外なんともないし、杉の種類の違う土地、クシャミのでない翌春をことのほか楽しみにしていた。
長い冬に別れを告げ、一面に花が咲く、憧れの北海道、心ウキウキ。

しかし、ある朝突然目が痒い。
恐る恐る調べてもらったらなんと白樺の花粉症。
あぁ、憧れの自然満喫生活はどこへいってしまうのか。
白樺ってもっとロマンチックじゃないの?
クシャミは出るし、鼻水も出る、鼻も詰まるし、頭もボーっとする。
誰に言っても笑われるし、おまえにゃ似合わないと同情もされない。

しかし、辛い。
目玉を取り出して水洗いしたいぐらいに辛い。
さらに関係あるのかないのか、リンゴを食べられなくなってしまった。
リンゴを食べると血は出ないが、耳が痒くなる。桃もビワもだめ。
普通の人からは不思議がられ、蔑まれる。
いいことも少しはある。

私の場合、6月15日頃、そう、札幌まつり前後に全く突然に治ってしまうのだ。
頭すっきり、爽快な朝の目覚め。
5月の連休から始まって苦行の一カ月半がうそのように終わる。
この爽快感は捨てがたい。
この時期だけはすぐ仲良くなれる同じ悩みを持つ人との関係も面白い。

医療の進歩はすごい。
こんな花粉症なんか、すぐに解決してほしい。
あまりにも情けない病気なので力が入らないのですかね。
飲んだら一発で治るという特効薬が、本当はできているんじゃないですか?
誰か助けてー。

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