BONDS~絆~

BONDS~絆~

愛しい人◎利奈◎

ハート(白)


夢を見た。
「結婚」という二文字のコトバがはっきり浮ぶような夢。
私は誰とこんな夢を見てたんだろう。


「俺と付き合わない?」
驚いた。
彼女がいた彼からの突然の告白。

「え?・・・あなたも知ってる通り、私はキャバクラに務めてるのよ?」
「うん、知ってるよ。嫌?」
嫌な訳がなかった。
彼女がいた時から、私は彼に本気になってしまったのだから。

「嫌じゃないけど・・・」
「じゃあ決まり。今まで通りでいいから。嫌になったら会わなくても良いし、仕事で俺と偶然街で会ってもシカトして良いから」
どうして彼はこんなにも私に対して「本気」で接してくるんだろう・・・。
とか考えていて私はふと思った。

「ねぇ、洋介。彼女は?」
「別れたよ」
洋介はそれしか話さなかった。
私もそれ以上は聞けなかった。聞いちゃいけないような気がしていた。
「そうなんだ・・・」
「うん」
洋介は・・・私のモノなんだ。
私だけのなんだ・・・。
急にそんな実感が湧いて来た。同時に自信も湧いて来た。
別れた彼女には悪いけど、もう昔の女に何て会わせない。
どんな別れ方をしていようとも知らない。
もう、洋介は私のだけなんだから・・・・。

数日後、彼から電話が来た。

「利奈、今日暇?」
「今から仕事行くんだ」
「そうなんだ」
「うん、ごめんね」
「いや、仕事だもん。仕方ないよ」
どうして彼はこんなにも物分りが良いんだろう。
洋介への愛しさが募った私は、明日の仕事を休むことにした。

「悪かったな、準備中に」
「良いのよ。それより洋介、明日暇?」
「明日?うん、俺はいつでも暇だよ」
「明日は仕事休みなの」
「本当?やり~!んじゃ、明日遊ぼうな!」
洋介の電話口での可愛さに、私は仕事を休んででも今会いたくなった。
でも今日は休むわけにはいかないの。
常連のお偉いさんが来るから。
ひそかに私は店のNo.1であった。
洋介にそのことは告げていない。告げる必要なんてないと思うから。

その日の夜、予定通り店には沢山の部下を引き連れて常連さんが私を指名した。

「利奈」
「えっ?」
そこにいたのは高校時代の元彼である、遼次がいた。
「何でお前此処にいるんだよ」
遼次の言い方は「此処に」と言うより、「こんな所に」という意味に聞こえた。
遼次は昔からそうだった。
遼次の思う「常識」から外れる人間がいるとすぐ非難する。

「遼次こそ・・・」
そこに常連さんが割り入って来て二人は知り合いなの?と不機嫌そうに言った。嘘を付くことのことでもないので、軽く「高校時代の友達」と説明をした。常連さんはあんまり信じてなさそうだったから、手を引いて席に座らせて、いつもしないこともサービスした。
明日の洋介のことを精一杯考えながらその日は仕事をした。
途中、何度も洋介に会いに行けばよかったと思いながら・・・。

翌日、洋介の家に行った。久しぶりのにおい。
以前来た時はまだ彼女がいた。
その後すぐだった。洋介に告白されたのは。
「久しぶりだね、洋介の家に来るの」
「そうだな。やっぱ散らかってんな。これ以上片付けらんないんだわ」
「片付けようか?生理整頓は得意だよ!」
「今度ね」
洋介と会うのも、洋介の部屋に来るのも久しぶりだった。
こうして、洋介に抱かれることも久しぶりで、まるで初めての時みたいにドキドキした。

「何?緊張してんの?」
「少し・・・。久しぶりだから」
「はは。そうだね。俺も少し緊張してるよ」
「そうだね」
彼女がいなくなり、私のモノになったからか愛しさが前より増していたことにこの時気付いた。
抱擁を終えた後、洋介は煙草を買いに自販機へ向かった。
その時私は不意に遼次のことを思い出した。
昨日会った遼次は、当り前のことだけど、高校時代の遼次とは違っていた。
体もガッシリしていたし、背広なんか着ちゃって真面目くさかった。
高校時代も真面目なヤツで、何で私と付き合ったのかわからないくらいだった。
初めての男。それが遼次だった。

洋介の家から帰宅する途中に遼次に出くわした。
遼次の格好は、背広で今会社帰りで、右手に鞄を持ち、誰かと電話をしていたかのように携帯電話を左手に持ったままだった。

「・・・利奈。」
遼次は私と会ったことで気まずそうだった。
「遼次。私と会って気まずく感じたならシカトしても良いんだよ」
イヤミでも、憎さから来るものでも何でもなかった。
「そんなことない!シカトなんてしないよ!」
あんまり大声出さない遼次の声が大きくて私は驚いた。
「御免・・・。そんなつもりじゃないんだ。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ、昨日会った時にお前があんまりにも綺麗過ぎて何を言えばよかったのかわからなくて・・・・」
ゴチソウサマ。
その手のコトバは聞き慣れたよ。

「そう」
私は笑顔も怒りも見せずに、ただ無表情にそう言った。すると彼は驚くべきことを言った。
「そういえば。さっきの男、洋介ってヤツだろ」
「え?どうして知ってるの?」
「俺、友達だもん。アイツは大学行ってるみたいだけど」
遼次も洋介も20歳。
世間は狭いなぁ・・・。

「ふ~ん。アイツ彼女と別れたんだ。お前が別れさせたの?」
「そんな訳ないじゃん!」
そんな訳・・・無・・・・くはないのかな。
アノ日、私が洋介の家に行った時、階段を降りて行った子が彼女だったとしたら私が別れさせたってことになっても過言じゃないかもしれない。

「俯いてるのには理由あるわけ?」
遼次ってこんなヤツだっけ?
こんなチクチク言ってくるようなヤツだっけ?
あぁ、そっか。
今、私が遼次の友達カップルを壊したことを怒ってるんだ。

「言いたいことはそれだけ?」
「お前は洋介とは別れないのか?」
「はぁ?別れるわけないじゃん」
「今、洋介が前の彼女のことを忘れられてなくてもか?」
何言ってんの、こいつ。
すると、遼次が携帯電話を私に渡した。

「何さ」
「話せよ、こいつと」
「もしもし・・・」
「!!洋介!?」
「御免・・・。俺やっぱ彼女のこと忘れられない」
「えっ、待って、どういうこと?」
「洋介は、彼女にお前と洋介の家で会ってる所見てんだよ。だから自然消滅って訳だよ、わかる?」
「え?」
じゃあ、やっぱりアノ日、階段を降りて行った子は彼女だったんだ・・・・。
「本当に御免」
「じゃあどうして私と付き合うなんて言ったの?」
「淋しかっただけだろ」
「遼次は黙ってて!!!」
「遼次の言うとおりだよ・・・」
「そんな・・・そんな!そんなの酷いよ・・・」
「うん。本当に申し訳ない」
「謝らないで!もっと惨めに感じちゃう」
「・・・」
「御免」しかコトバが見つからないと無言で洋介は言った。
「・・・もう良い。バイバイ」
電源を押して携帯を遼次に押し付けた。
「はっ!?きるなよ。俺だって洋介と話あったのに」
遼次に携帯を押し付けた後、私は走って帰宅した。
もう誰とも会わない。もう誰も信じない。もう誰も愛さない・・・・。
暫くの間、私は誰にも会わなかったし、仕事にも行かなかった。

久しぶりに仕事に行くと、私はクビになっていた。
そりゃそうだよね。

「利奈」
「・・・今度は何?」
今1番会いたくないヤツに会った。
「もう洋介のことは忘れたか?」
「その名前出したから思い出した」
「もう・・・いい加減忘れろやぁ」
遼次はその場にしゃがみ込んでしまった。背広の遼次。
何だか小さく見えた。

「私がいつ誰を忘れようが関係ないじゃない!」
「お前がこの店にいた時マジでビビッタ。何で此処にいんだよ!?って。何でこんな所で働いてるんだよ!?って」
「だから関係ないじゃん・・・」
「関係なくねーよ」
「マジ意味わかんないし。私は帰るからね!」
「待てよ、コレ」
腕を引っ張られ、手の中に置かれたのは指輪だった。
「何、コレ」
「誕生日オメデトウ。21歳だろ」
「だから何」
「マジで俺との想い出何も覚えてないんだな」
「はぁ?」
帰りたい気持ちで一杯だった。
「中3の時に『5年後結婚しようね』って言ってたじゃんか」
「・・・言った?」
「言った」
全く覚えてない。
「まぁ~良いよ。これ渡しに来ただけだから。じゃあな」
「はっ?プロポーズとかないわけ?」
「はっ?して欲しいの?」

いつまで経っても噛み合わない私たち。


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