今 愛は・・・《プロローグ》




                    2006.05.17

    今 愛は・・・




《 プロローグ 》


地下鉄の駅へ向かう。
終電に近く、人はいなかった。

誰もいないホームに立ったとき、線路をはさんだ向かい側のホームに彼女を見つけた。
「和也!助けて・・・!」
泣きそうな顔で僕を呼んでいる。

どうしてここに・・・?
そこへ現れた親友の高木が、彼女の手を取って歩き出す。

彼女が高木にほほ笑んでいる。
二人とも僕を一度振り返ると、肩を寄せ合ってホームの柱の影に隠れてしまう。

僕は彼女の名前を叫ぶ。
だが、僕の目の前を遮って走り抜ける電車の音に、その声はかき消されてしまった。
そして・・・鋭い銃声が響き渡る。

「沙紀!」


・・・いつも、ここで目が覚める。

汗ばんだ背中がべたつく。
最近はこの夢のことを忘れかけていたのに、昨日の発砲事件で記憶が呼び戻されたらしい。

この夢を見はじめると、しばらく続く。
毎晩これじゃ、身が持たない。

いや、気持ちが・・・持たない。

彼女に逢いたい気持ちと、拒まれる空しさが交錯している。
真実が見えてこない分、苛立ちを飲み込むのに苦労する。

このまま彼女に拒絶され続けるくらいなら、いっそ忘れてしまいたいと思うこともある。
だが、彼女への愛を断ち切れないことはわかっていた。

そんな自分を・・・今は、ただ眺めているしかなかった。



まだ4ヶ月が過ぎただけなのに、事件のことは世間ではもう過去のことになっている。
だが、真実を探し出すまでは・・・彼女の心が元に戻るまでは、終わりはこない。

事件の真相を探せないまま、日々の仕事に追われている。

一番大事なことが置き去りにされたままだった。



            続く~

* 第1章 愛を知るとき




© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: