山口小夜の不思議遊戯

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2005年09月09日
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 あの事件から初めて皆と一緒に遊んだ日の夕方、それぞれと別れて家に帰る道すがらに、小夜の心には様々な物思いが去来していた。

 小夜のはちに刺された傷は、こうして外で遊べるまでに回復していた。
 そして、今日、皆に会って、数々の後日談をそれぞれの子の立場から何十通りとなく聞かされたことで、改めて小夜は豊がいたことによってあっけなく収束したあの日の午後の事態を再認識させられていた。

 あの時、小夜は額に汗して何かを唱える豊を見上げながら、これは癒しの祈りなのだろうと本能的に感じていた。それは同時に小夜を癒す力の言葉であった。恐慌が去り、疲れきってぼんやりとした思考のうちに、身体の力が少しずつ戻ってくるのが感覚できた。

 脳裏には、豊の身につけた水晶装飾のたてる音が、地を揺るがす鳴り物のように響いていた。
 革紐に付けられた鈴の音は、もはや連想されるような可愛らしいものではなかった。豊が馬上で身じろぎをするたびに、縒った鎖を振りおろすような激しい音が耳元で鳴っていた。
 すべてが小夜の生気を促すが如く、荒々しくその五感に迫った。

 ここまで思い出してから、小夜は至極当然なことのように豊に会わなければ、と思いついた。
 しかし、どうすれば会えるのかは、見当もつかなかった。夏の間、豊が何をして過ごしていたのかは知るよしもないが、子供たちの中に彼の姿を見かけることはなかったし、彼をみかけた者もなかった。


 ハチに刺されたその日も、子供たちの知らせに小夜の母が驚いて自家用車で診療所に向かったときには、診療室で小夜がひとり手当てされている以外は、待合いにも豊の姿はなかった。
 治療が終わった小夜を家に連れ帰った後、両親は大きなざぼんをひとつ抱えて、ゆたの住む家に向かった。ところが、つい先ほどまで夕食をともにしていたと話す家人が、どこを探しても豊の姿は見いだせなかった。

 ──今しがたそこで食べよりましたのに・・・はぁ、うちのが診療所に?
  さぁわざわざそんなことでおいでいただいて、本人もよう話しませんので、なんだかようわかりませんが、なんも大したことしてないと思うですちゃ。こんなしてもらって、かえってすみませんですわ・・・。
 と、反対に頭を下げられてしまったという。

 そんなことを反芻しながら家路を急ぐ小夜の目の隅に、何か映るものがあった。
 あれは小川の方だ。流れの向こうに彩りのあるものが反射している。
 あたりには夕闇がせまっていたが、小夜は吸い寄せられたように、小川の方に足を向けた。

 象牙色の月がみるみるうちに原生林の上に昇り、月影が蒼く森を照らした。さながら、新しい世界が訪れたかのように、あたりはのどかな昼の風景から一変した。月の表面に地図がくっきりと浮き出てきた。
 太古からの手つかずの自然。このすべてを探索せよと小夜に迫るが如く。

 月の地図に導かれるようにして小夜は歩を進めた。

 そしてそこに小夜は見たのだ。

 幾千の蛍に囲まれて流れのなかにたたずんでいるのは、まぎれもなく豊その人だった。辺りは闇だったし、彼も以前にもまして肌が黒く灼けていたが、小夜にはひと目でわかった。
 無意識に小夜は立ち止まった。

 ──ゆた・・・・。
 蛍がゆれて、豊が小夜を見た。



 明日突然に申し上げるのもよろしからぬことですので、今日お伝えしてもよろしいでしょうか。
 わたくし事なのですが、あさってから、遅い夏休みをいただいて沖縄に行ってまいります。11日の日曜日から14日の水曜日までの予定となっています(台風が来なくてきちんと帰れたら)。台風15号の声も聞こえるので、戦々恐々としておりますが、なんとか楽しんで来れたらなと思います。
 ただ、11日は朝8時の飛行機で、14日も夜10時着の飛行機なので、ブログの方がしばらく更新できないことになってしまいます。いちおう、この章が終わってきりのいいところではあるのですが、せっかく通読してくださる方がいらっしゃるので、私の親友に更新をお願いすることにいたしました。
 彼女は遠隔操作で更新しなければならないので、日曜日から四日間は第七章の本文のみアップさせていただきます。私が帰宅の後、写真などアップし直しますので、あしからずよろしくご訪問いただければとお願い致します。
 親友には、本文の後に日記も書いて欲しいと言ってあります。ただ、大変におくゆかしい子なので、本文のみで遠慮してしまうかもしれません。彼女とは中学生の時からずっと一緒に育ってきました。学生時代、鳥取にも一緒に行きましたよ。以来、鳥取大好きっ子です。喜平じぃファンです(笑)。名前はあきこといいます。彼女、京都生まれのたいへんな美人さんですよ。あさってから四日間の管理人です。皆さま、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
 今日、不在者投票に行ってまいります。こちら東京3区はニュースでもよくとりあげられるような激戦区で、なかなかおもしろいのです。

 明日はこの章のおわり●小夜、みたび豊と出会う●です。タイムスリップして、ふたりのまわりに飛んでいる蛍を見にきてください。






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最終更新日  2005年09月09日 08時25分07秒
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