山口小夜の不思議遊戯

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2005年11月20日
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 時は移り、1990年代。
 豊は大学生になっていた。

 ある時、彼は所用でトウキョウは九段下の研究施設を訪ねることがあった。
 目的の史料収集を無事終えて、帰途につこうと地下鉄の駅を目指したのだが──。

 横着して、参拝するのではなくショートカットのためだけに靖国神社なる敷地に足を踏み入れたことは、別件で星の数ほども反省しなければならない彼の性質ゆえの自業自得であろう。

 ゆっくりとした上り坂がやけに続いているのに気づいたときには、豊はすでに10メートル先も見えないくらい真っ白な霧に包まれていた後だった。

 ──トウキョウっちゃなんが、こんな霧が出るとこだったいな?

 これでは故郷の山岳地帯の霧の様相と、さほど変わりはないほどだ。

 はぁはぁという自分の呼吸音だけが耳につき、妙な静けさに街は包まれる。

 いったいどのくらい霧の中をさまよったか──。
 ──もう歩かれん・・・・・・寒・・・・・。

 道ばたに座り込んでしまうと、豊はぐったりと頭をジーンズの膝に埋めた。
 もう一歩も動けない心地がする。

 不二豊が今度はトウキョウのど真ん中で遭難したとかいう噂が地元で流れたら──実家の一同は心配するどころかそれこそ大爆笑だろう。

 ──くそ、円(まどか)のやつ・・・・・このナイキ、偽物。

 一番年の近い兄がやけにあっけなく弟に下賜したスニーカーに包まれた、痛む踵をさする。
 荷物を投げ出し、へたりこんでいる豊が目だけをあげると、霧にけむったビル群の屋上に掲げられている、大きな看板がぼんやりと白く浮かび上がった。

 ←この先50m 私学会館

 ──あの50mっての、減らないな。


 自慢ではないが、豊のトウキョウでの方向感覚は少々壊れている。つい最近も、コンビニでミネラルウォーターを買おうと人に道を聞いているうちに、品川から上野に出てしまったくらいだ(←病気だ)。
 道にも街路樹にも「気」というものがなくて、自分の「気」と溶け合わせることができず、一度来た道をふたたびたどれないという動物的な理由もある。

 けれどもここは──。
 大都会に似つかぬ、春先とは思えない寒気のなかで、豊はあたりを見回した。
 研究施設から地下鉄の駅までの途中にあった、あの巨大な神社を通り抜けたくらいから急に濃くなった、ある気配。いつだったか地元の森のなかでひっきりなしに感じたような、物陰にひそむなにかの視線。



 目の前を横切るリスでさえこちらをうかがって笑っている感じ──子供の頃から、やれ遠足だ、やれ修学旅行だと出かけるたびに、豊ひとりでうんざりするはめになる。

 こういうときの50mっていうのは、かなりかな。

 近道をしようとして神社のなかを通ったことに軽い後悔に襲われながら、それでも豊は疲弊した身体で立ち上がった。

 まさか50キロに相当するわけじゃ・・・・・・。

 そう思った瞬間だった。
 ぐわんッ!
 足元のアスファルトが頼りなくゆがむ。視界全体がぐらぐら揺れだした。

 激しいめまいの発作の後──。
 目の前には、レンガ造りの大きな建物。
 古びた表札の文字。

私学会館

 ──あったがな・・・・・・私学会館って聞いたことあるけど、泊まれるんかい・・・・・・。

 トウキョウはようわからん。
 だが、こうなったら、もう「そこに入れ」ということなのだ。
 もはや逃れるすべはないと観念し、豊は財布を取り出してカードの持ち合わせを確認すると、
 ──人生の突発的な出来事・・・・・priceless.
 などと笑えない現実を言霊にしながら、よろよろと門構えをくぐっていった。

 クラシックな家具で統一された室内は、月光を浴びて澄みきった輝きを放っていた。
 だが──その夜は、平穏無事の眠りのあとに朝を迎えられるはずがないとはわかっていた。
 そして、やはり明け方近く、豊の安眠はふしぎな囁き声によってやぶられることになった。

 ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン・・・・・・。

 アンティークな柱時計が、夢見るように打ち鳴らす午前四時。あたりはもう暁の時分なはずだが、少しずつ濃くなる闇が、部屋の中を包み込んでいく。

 ──もし、お目覚めくださいませ。

 概して若者が朝に弱いように、豊もご他聞にもれない性質を持っていた。
 うーんと寝返りをうつのを、今度はかなりの至近で重ねて声があった。

 ──もし、守宿多君とお見受けいたします。わたしの声が聞こえましたら、お目覚めくださいませ。

 それは、青年のひそかな声であるようだった。

 豊は自分の耳に誰かの息がかかるのを覚えて、やっと薄目を開けた。
 何者かの出現の合図のように壁や天井が鳴り、あたりの空気が色を変えてゆく。

 ホテルの備品であるラグマットの緑が、深い原生林の苔に見えてきて、部屋一面を染め上げた。
 なぜか亜熱帯めいた、むせかえるような森の匂いがして、あちこちで青や黄色の蛍火の点滅がはじまる。その中心には──、

 そこには、自分と同じ年頃の、だが軍服姿の青年が正座をして、こちらにかがみこんできていた。
 豊は眠い目をこすりながら、苦労をして青年の前に起き直った。

 ──ぼくになにか? 

 青年はじっと黙ったまま、だが語る目をしてこちらの顔を見つめてくる。
 慣れないな・・・・・元・人間さんは。
 そう感じながらも、豊はうながすようにもう一度言った。

 ──事情があるなら伺います。

 瞬きひとつの後、青年は静かに語り始めた。

 ──わたしは朝鮮人です。先の戦争で、日本軍の兵隊としてラバウルの原生林にて死にました。

 豊の切れ長の目が一瞬みひらかれ、それがすぐに目の前の青年への凝視にかわった。



 本日の日記---------------------------------------------------------

舞夜じょんぬ さまから【性格バトン】を頂戴しました!
 番外編に入って開放的な気分でもあるので、再び挑戦してみますね。
 でも、今度も少々難しそう──。

1.あなたは賑やかな人、おとなしい人どっちですか?
 小夜子は控えめな女です。でも、行くところにはよく騒動が持ち上がります。

2.あなたの性格に相応しい単語を5つ挙げて下さい
 ・逆転主従型(主に見えて従:笑)。
 ・婦唱不随(小夜子の断定の前に敵はない)。
 ・集中力全般(熟語にもなってない)。
 ・チャイナホリック(天下御免)。
 ・呪師召喚(特技)。

3.好きな友達のタイプ
 ・エネルギーをくれる人。
 ・ぜんっぜん気にしないでいてくれる人(いろんな意味でな)。
 ・私に愛着を感じていてくれる人。

4.嫌いな友達のタイプ
 ・自分を大切にしていない人。
 自信がなさそう、とか、自分を卑下している、とか、そういう感覚的なことも含まれます。

 でも、嫌いというか──基本的に誰にでも興味は持ちます。なぜ自分がこの人を嫌いだと思うのか・・・そう思考していくのも面白いことです。
 けだし、「嫌いな人間」という人間は存在しなくて、「嫌い」と思うのは自分の心だけだからです。

5.立ち直りは早いほうですか?
 早いです。寝ればリセットされる。
 その前に、落ち込んでいることをがんがんアピールして、まわりに相談しながら頭のなかを整理整頓。自分に心を寄せてくれている人たちの存在を意識しながら浮上していきます。

 なんだか・・・鮎の滝のぼりみたいですね。
 鮎って、傷ついて進めなくなった仲間があれば、元気な一匹が彼を押しながら川をのぼっていくんですって。滝に直面すれば、さらに多くの仲間たちがその身体を押し上げる。
 私たちの世界では、ひとりの人間が元気な鮎と傷ついた鮎という存在に入れ替わり立ち代りしながら、みんなで支えあっているのでしょう。

6.恋人にしたいタイプ
 うわ。‘恋人’ときたもんだ。生涯最後だと思いますこういうご質問がくるのは(笑)。
 なので、心を込めてお答えします。

 恋人にしたいタイプはこの限りです──器量よし、頭よし、性格悪し。
 要するに、現代的でスマートな人。

 けれども今は、自分を飾らない穏やかな性格の人こそが、余裕と自信のある大人なんだなぁと思えるようになりました。

 ほら、今をときめくIT社長ってステキだけどさ。
 でも、よーく見るとなんだかオタクの延長っぽくて、スカしてるっていうか、斜に構えてるっていうか・・・・・人生楽しそうじゃないじゃない。
 この人たち、パソコンオタクのままであった方が楽しそうにしてたんじゃないの?! なんて、テレビで見かけるたびに余計なこと心配してしまいます。

 あ。でも穏やかな人が、なにかに激しく集中しているのも好き(←ギャップフェチ?) 

7.恋人と一番の親友、選ぶならどっち?
 うちの親友は本当に本当にいい女でねぇ、恋人だろうが誰を選んでも微塵も気にせずにおおらかに送り出してくれるのです。私は器はでかいんだけど、この器はガラスで出来ているんです。けれども、私の親友は真に器のでかい子です。

8.バトンを廻す5人は?
 五人!
 ちょっと待ってね・・・。

 舞夜じょんぬさま、楽しい企画をありがとうございました!
 今、九時で、もう出なきゃいけないんだけど、楽しかったのでギリギリまで書いてます!

 さて、さきほど、とあるHPを検索してみたところ、
 【関東同窓会】鳥城会のお知らせ
 毎年、11月~12月に東京都内にて総会を開いています。
 詳細は、鳥取西高校同窓会事務局まで(0857-22-8281)。
 または関東鳥城会事務局まで(03-3668-2111)。
 平成17年は11月20日(日)、12:00より
 「 私学会館 (アルカディア市ヶ谷)」(東京都千代田区市ヶ谷)に て開催されます。
 ↑って・・・・・今日じゃない?!

 明日は●豊の涙●です。
 雪が降るかもね(笑)。
 タイムスリップして、青年兵と豊の静かな語らいに耳をすませにきなんせ。


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最終更新日  2005年11月21日 04時54分33秒 コメント(4) | コメントを書く


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