耕平君のストッキング



 青いストッキングが呟いています。
「僕を初めて履いた時の耕平君、可愛かったなぁ。まだ小さくて、その足に僕はぶかぶかだった。ぶかぶかの僕を履いて、耕平君はサッカーを始めたんだ。
 お父さんや先輩みたいに、ボールを遠くまでキックしたくても、小さな体がボールに負けてフラついてしまうんだ。それでも、弱音を吐かなかった。練習を休んだ事なんて一度もなかったよ。一生懸命ボールを蹴るから、僕のつま先は破れた。お母さんやおばあちゃんが破れた所を何度も繕ってくれたんだ。そして、穴のふさがった僕を履いて、耕平君はまた練習をした。今はドリブルだって出来るし、大きなキックもできるようになった。僕はこうして押入れの中でそんな耕平君を見守っているんだ。」
 でも、青いストッキングもこんな気持ちになるまでには、こんなことがありました。

 耕平君が始めて試合に出る時、お父さんはチームカラーの赤いストッキングを耕平君に買ってあげました。試合の時にはチームで揃った色のストッキングを履くのです。青いストッキングではチームメイトを混乱させてしまうので、試合の時にははいてもらえないのでした。
 初めての試合で耕平君は、ボールに触れることさえ出来ませんでした。でも、その次の練習日から耕平君はまた青いストッキングを履いて練習しました。
 青いストッキングはシューズの中に入った小石が耕平君の足に食い込まないよう、一生懸命に耕平君の足をガードしました。レガースがずれないように、しっかりとガードしました。そして、耕平君はサッカーの技を身につけていきました。

 それでも、試合の時、青いストッキングは耕平君の道具袋の中でじっとして外から聞こえる声を聞くだけでした。監督やお父さん、お母さんの声が聞こえます。
「あがれー、あがれー!」
「周りをよく見て、裏へ回れ!」
 そんな声を聞くと青いストッキングはドキドキしましたが、ただじっとしている事しか出来ませんでした。青いストッキングは、ある日、監督に頼みました。
「一度で良いから耕平君に僕を試合ではいて欲しいのです。」
 でも、どうしてもダメだと言われ、青いストッキングは悲しくて誰にも、何も言わず、一人で出て行ってしまいました。

 次の練習日、耕平君が青いストッキングを履こうと袋の中を探しましたが見当たりません。試合用のストッキングはいつもは持って来ないし、とうとうレガースもつけず、練習をしました。サッカーシューズの中に入った小石が足に食い込み、痛くてたまりません。レガースが無いので向う脛もひどく打ちました。耕平君は本当に困ってしまいました。
「僕の青いストッキング、何処行ったんだろう・・・・」

 青いストッキングはその様子をグランドの脇から見ていました。
「そうだ、僕は練習の時、あんなに一生懸命耕平君を守っていたんだ。試合で皆に声援してもらわなくったっていいんだ。耕平君が素晴らしいプレーができるようになるため、お手伝いをすることが僕の喜びだったんだ。また耕平君のところへ戻って、一緒にサッカーの練習をしよう。」

 練習から帰った耕平君は、青いストッキングがなくなったことを家族の皆に話しました。そして、とても困った事。耕平君の向う脛にはしっかりと青あざが出来ていました。

 その夜、皆が寝静まって、青いストッキングはこっそり袋の中へと帰りました。次の練習日、準備をしようと袋を覗いた耕平君のびっくりした顔といったらありませんでした。
「お母さん!青いストッキングが入ってるよぉ!!」

 そして練習では青いストッキングを履いて、思い切りプレーしたのでした。
 そんな青いストッキングでしたが、つま先もかかとも、繕いだらけになってしまいました。青いストッキングはお母さんに言いました。
「僕は古くなってしまってこんなに繕いが出来ました。糸の結び目で耕平君は足が痛いと思います。練習用の新しいストッキングを買ってあげてください。」

 耕平君はへっちゃらだと言いましたが、青いストッキングはもう休ませてと言いました。新しい練習用のストッキングは試合のときにも履けるよう、赤色にしましたが、耕平君はお母さんに青いストッキングは捨てないでと頼みました。

 初めて履いた青いストッキングは、いつまでも耕平君の心の引き出しの中で、耕平君を励まし続ける事でしょう。

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