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October 11, 2014
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著者:下村敦史

感想:今年一番面白かった本。寝食を忘れて一気に読んだ。「目の前のことに集中しているとき人は最も幸せを感じる」と言ったのは マット・キリングワース だけれど、この本を読んでいる間私は間違いなく幸せであった。『闇に香る嘘』の内容を一言でいうと、腎臓をもらう、みたいな話なのだけれど、私はこの一作で下村敦史さんにハートを奪われました。アツシストになりそう。
まず主人公が盲目だという設定が良い。人の顔や書面を見て確認することができないから、誰を信用したら良いのかわからなくなる。来週から日米でシーズン5が放送される人気ドラマ「ウォーキング・デッド」にも通じるスリルと面白さ。(あのドラマも生き残り同士だからと安心できない、ハラハラさせるストーリー展開が魅力である)
全盲の主人公の実家にいるのは本当の兄ではないかもしれないという疑惑、中国残留孤児の置かれた状況、戦時下における満州の人々の暮らし……視覚障害を持った人が普段どのように生活しているのか、その一端が垣間見えたのも興味深かった。液体プローブなんて道具も知らなかったし、点字に隠されたミステリーもワクワクして読んだ。ただ一カ所だけ違和感を感じた部分を挙げるとすれば、主人公が冬の北海道で猛吹雪にさらされるシーン。「逆巻く雪嵐のせいで方向がわからない。複雑なジェットコースターのレールさながらに音は曲がりくねり、上昇し、下降し、また曲がり、そして私の耳に届く。右か左か、前か後ろか…」は確かにその通りでリアリティがあるけれど、歩き続けている人間が寒さのせいで「全身の血管を冷水が駆け巡っているように感じ」ることはないです。雪の降らない地域、特に盆地のような地形の場所であれば、冬は骨の髄から冷え込むような寒気を感じるものだけれど、積雪地域であれば降雪がある時点で湿度は高いわけで、身体の熱は外気にそれほど奪われず、結果、感覚は寒いというより「皮膚の表面が痛い」に近くなります。吹雪いているなら寒さより呼吸のし辛さが先に来ると思う。こんな重箱の隅をつつくようなことを言ってもいけませんね。凍死寸前になったら全身を冷水が駆け巡るような寒さを感じるのかもしれない。
読み終えてつくづく思ったのは、中国残留孤児という「日本人」が出した嘆願書が何度も廃案になってきた現状で、外国人の、しかも女性が戦時中日本兵に人権を蹂躙されたと訴えたところで日本政府にそのまま取り合ってもらえる可能性は限りなく低いのだな、という諦念にも似た気持ちです。水木しげる先生の話や美輪明宏さんの歌を聴くと、彼女たちに同情してしまうし可哀想だとは思うのですが。日本の原爆被害者、空襲被害者、シベリア抑留者が国家による賠償を受けていないところを見ると、「日本の軍人」ではなかった彼女たちの訴えが尊重されるかと言ったら、それはやはり難しいだろうなと思うのです。戦後何十年も経て彼女たち自身の記憶の書き換えもあるだろうし。強制連行は捏造だという報道もあった。
最後に。主人公の娘・由香里がルームシェアしていた女性看護師は、由香里と恋人関係にあったのでは? いくら友人といえども腎臓に疾患を持つ子供の世話をするという、看護師の仕事の延長とも言える負担を彼女は喜んで引き受けているし、独りで十分暮らしていけるだけの収入もあるにも関わらずシングルマザーの友人と生活を共にしている。「強い友情で結ばれていたからだ」とも考えられるけれど、親の面倒を子が看るのは当然とする父親のせいで何度も交際相手に愛想を尽かされてきた由香里に優しく接してくれた唯一の人である女性看護師との間に愛情が芽生えたとしても何の不思議もない。しかしそうだったとしても由香里は女性の恋人がいるという事実は、盲目で昔ながらの考え方を捨てきれない老人である父親には一生言わないままでいると思う。由香里は優しいから。








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Last updated  October 12, 2014 02:16:40 AM
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