GOlaW(裏口)

2006/04/15
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カテゴリ: 西遊記
──そは悟空が子供らに語りし物語。

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 それではフジテレビ版『西遊記』ノベライズのレビューにいってみましょう!
 ネタバレを前提に綴らせていただきますので、ご了解ください。

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 購入前に観た装丁、そして購入時の定価『1100円』を聞いて、
「ああ、完全に子供の購入が前提だな…」
ということがすぐに分かりました。
 実際、 ノベライズ作家さんのBlog にも『子供も前提にしながら、大人も意識した』ようなことが記されています。

 子供が読むことを前提にしたドラマのノベライズ。私は以前にも、『先生知らないの?』(TBS系)を購入しています(ページ数と値段の関係からか、お気に入りの回がことごとくすっ飛ばされましたっけ。泣)。
 なので“あまり細かい物語背景への言及は省かれている”こと、“文体がかなり平易であること”は、本を開く前に予測できました。


 (特に第十話の凛凛生還については、総集編でもノベライズでもその理由に触れずじまい)
 値段と出版時期と対象年齢を考えるとしょうがないのかな。

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 『メディアミックス』とは“それぞれが完成したものでありながら、それぞれの利点を生かして相互に活かしあうもの”と思っています。

 例えば、メディアミックスで有名な『ロードス島戦記』は“小説・雑誌連載のTRPGリプレイ・単行本用TRPGリプレイ・複数回の漫画化・販売ビデオ用アニメ・TV用アニメ・映画化されたギャグ漫画・TRPG紹介本の創作話・パソコンゲーム・PCエンジン用ゲーム・SFC用ゲーム”とたくさんあり、しかもどれも物語の展開や登場人物の設定が違います。
 それでも、それぞれがそれぞれの強みを出し、ビジュアルやキャラクター描写などで互いに強い影響を与えつつ、更に面白いものへと昇華していきました。
 確かに読者が混乱を起こすときもありましたが、でも『メディアミックス』としては成功例です。

 その意味では『フジテレビ出版』のノベライズはどれも弱すぎるんですよね(私が読んだだけでも『恋におちたら』、『僕の生きる道』、『僕と彼女と彼女の生きる道』…etc.)。
 ほとんどがシーンをなぞるだけなんです。登場人物たちの心情や活躍、事件の背景を補足することを諦め気味です。ドラマの脚本に依存しすぎている、と言い換えるべきでしょうか。

 一般の方の活字離れを懸念し、ページ数を減らすためだとは分かっています。
 でも『ドラマ』と『活字』の相乗効果を見捨てることは、両方にとっても不幸だと思っています。
 ここで頑張らなければ、新しい可能性は生まれませんよね。



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 今回のノベライズのもっとも大きな特徴は『悟空の一人称』ですね。
 P377にもありますが、『子供達に語っている』という形になっています。

 “登場人物の一人称”は、もちろんメリットもあります。
 ひとつには悟空の語りを読むことで、悟空になった気分になれること(子供が読むのなら、それは強みですね)。
 もう一つには、悟空という“子供に近い視点”から物語を見ることで、道徳的な部分を分かりやすく理解すること。



 …でも、“一人称によるデメリット”もあります。
1.『異世界の人物による語りでは、現実との違いが伝わりにくい』
2.『複数の人物の思惑が交錯する場合、一方しか伝わらない』
3.『事件が違う場所で同時進行する場合、一つしか追えない』
4.『語り手の観察眼や立場、知識などに大きく左右される』
等です。
 三人称よりも、ずっと難易度が上がると思ってください。

 このうち、3に関しては8話を除いて影響はほとんどありません。
 でもそれは『ほとんど悟空しか活躍していなかった』、『別行動を含めたチーム・プレイがほとんど無かった』ということの裏返しです。
 それはすごく哀しいことだと思います。

 1は、4の『立場や知識』というのにも近いんですけどね。
 現実の人間なら『面白い』とか疑問に思うことを、『当たり前』として語らないという現象が出てきてしまうんです。
 確かに『ドラマ』の段階で、“細かく突っ込むと破綻しそうな言葉や設定”が多いです。だから『鬼』とか『幽霊』の概念を始め、詳しくは突っ込めません。
 でも、もっと中国的な雰囲気などを文章から感じたかったです。嗅覚や触覚、時間的な感覚など、TVでは表現し難い部分をもっと感じさせて欲しかったです。

 2については、かなり苦心されたのを感じます。
 悟空本人の葛藤はともかく、八戒の葛藤(『温泉の国』)や三蔵(『夢の国』)、凛凛(『滅法国』)の心の変化がうまく見えないんですよね。その時に悟空自身が自分の気持ちを持て余していると、他のメンバーも表面的な変化しか描けなくなります。
 他にも第一話(『火の国』)での仁丹や、第十話の羅刹女の気持ちなどはさっくりカットしてあります。


 4は、正直きつかったですね。
 もともと悟空というキャラクターは『心を持たない』ことから始まるキャラクターです。
 だから他の人物の心情をあまり理解できない(第一話で仁丹を責めるだけだったことからも分かる)んですよ、最初は。
 そんなキャラクターを語り手にしちゃうと、視界がどうしても狭まりがちです。
 さすがに語り手として必要な分だけ、悟空を内面的に成長させたりしていましたね(『花の国』など)。

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 これらを考えると『悟空一人の一人称』もいいんですが、『語り手の持ち回り』式か『三人称』でも良かったのでは?
 『三人称』であっても、“文章における視点を、登場人物の一人に固定”することで、『一人称に似た効果』を出すことができます。
 そして場面ごとに“固定する視点”を切り替えれば、結果的には多人数の視点や心情を描写することができます。

 もちろん、文章には好みがあります。
 どれが正解、と言い切れないのも、小説の面白さでもあるんですけどね(苦笑)。

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 上記の理由と、子供向けにしようという工夫や、ページ削減の煽りも合わさり、いくつかの展開を省いています。

 テレビ局や出版社からの要望もあるのかもしれませんが、『ドラマへの依存』はもう少し控えて欲しい。
 『ドラマの脚本』を受け止め、更に小説単体としての魅力を引き出すように上手く調理してください。
 ドラマにはドラマの、小説には小説の得意とする描写法があるんです。その違いを生かすべきでは?

 もし時間が無いのならば、『最終回前に出版する』という慣例を廃止すればいい。そして脚本スタッフも加えて、更に練り上げて欲しかったです。
 それができるだけのノベライズ作家さんの力量も、小説から感じました。
 その作業は『ドラマ』自身にも良い影響を与えただろうと、私は想像しています。

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 ノベライズでもっとも印象に残ったのは『三蔵の杖』でした。
 いかんせん悟空の視線ゆえ、錫杖なのか、普通の杖なのかは不明です(悟浄のサイですら、P184で『いつも使っている鉄の棒』と記されている。涙)。
 でも、普通の杖の方がすごくしっくり来るんですよ。

 この杖についた『三つの鈴の音』。ノベライズでは『悟空と仲間達の絆』のようにも感じられます。
 杖に結びついた鈴は、『三蔵に結びついた三人』の象徴でもあります。それがより明確になるんですよね。

 ただドラマだと、錫杖の『鳴環』の音に紛れ、鈴の音が聞こえません。その意味も勿論伝わらないんです。

 確かに錫杖だと、見栄えがいい。でも、それで『主題』が死ぬのなら、きっぱりと捨ててください。
 演出家さんや衣装デザインさんには、“『主題』を活かすために、表面的な部分を捨てる勇気”を持っていただきたかった。

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 また、戦闘シーンの描写もかなり省かれています(特に『花の国』)。
 『子供向けだから、戦闘を省こう』という、そういう傾向に乗ったのかな(滝涙)。
 期待されている方がいたら、諦めてください。

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 また、幻翼大王のエピソードも描かれていませんでした(汗)。
 …確かに入れても混乱を巻き起こすだけかな。でも、存在そのものが消えているのはショックです。

 とりあえず、帰り道も苦難の連続であったは間違いありません(P377の地の文より)。
 …たとえ凛凛と羅刹女が目を光らせても、言うことを聞かずに暴れる妖怪(あるいは滅法国の存在すら知らないはぐれ妖怪)も多そうですもんね。

 そして三蔵の旅立ちと火の国の間が短いことから考えても(『第一話』の放送より。『つい先日、都を旅立った…』という三蔵の台詞がある)、帰り道の出来事だったと考えるのが自然ですね。

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 それでは各話について感じたことは、『そのニ』に譲ることにしましょう。





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Last updated  2006/04/15 09:11:11 PM


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