★’No coward soul



          ―’No coward soul is mine’―

                    Emily Bronte


          No coward soul is mine,
          No trembler in the world’s storm-troubled sphere:
          I see Heaven’s glories shine,
          And faith shines equal,arming me from fear.


私の魂は怯懦(きょうだ)ではない、
この世に吹きすさぶ嵐に戦(おのの)くような、そんな魂ではない。
私には、天の栄光の輝きと、それに劣らぬ人の信仰の輝きが、
はっきり見えている、―私にはなんの不安もない。


O God within my breast,
Almighty, ever-present Deity!
Life――that in me has rest,
As I――undying Life――have power in thee!


私は今汝に呼びかける、・・・・・わが胸の衷(うち)なる神よ、全能にして
永遠に存在する者よ、生命よ、わが衷に宿る者よ、―
私が―不滅の生命たる私が―汝によりて強きごとく、
わが衷にありて強き者よ、と。


Vain are the thousand creeds
That move men’s hearts: unutterably vain;
Worthless as withered weeds,
Or idlest forth amid the boundless main,


世の中には、人心を惑わす夥(おびただ)しい信条があるが、
その空しさときたら、言語道断という他はない。
枯れ果てた雑草というか、果てしない大海原に
浮かぶ泡沫(うたかた)というか・・・・・全く無意味という他はない。


To warken doubt in one
Holding so fast by thine infinity;
So surely anchored on
The steadfast rock of immortality.


わが衷なる神よ、汝の無限の力を固く信ずる者に、汝の
永遠の生命をもつ、微動だにせぬ巌に確乎たる碇(いかり)を
おろしている者に、そのような空しい信条が、
いささかでも懐疑の念をもたらすはずは全くないのだ。


With wide-embracing love
Thy spirit animates eternal years,
Pervades and broods above,
Changes, sustains, dissolves, creaters, and rears.


汝の霊は、すべてを抱擁する大きな愛をもって、
悠々たる永遠の歳月に生命を与え、
天地に充満し、上より覆い、変化を与え、
保持し、亡ぼし、創造し、育成してゆく。


Though earth and man were gone,
And suns and universes ceased to be,
And thou were left alone,
Every existence would exist in thee


地と人とは過ぎ去るかもしれない、
日月星辰も宇宙も姿を消すかもしれない、
だが、汝さえ後に残るならば、
すべての存在は汝により存在し続けるはずだ。


There is not room for Death,
Nor atom that his might could render void:
Thou――thou art Being and Breath,
And what thou art may never be destroyed.


そこには死を容れる余地はない、
死の力が破壊しうるものはひとかけらもない。
おお、わが衷なる神よ、汝はまさに「在るもの」、まさに「命」、
汝の本質が永久に亡びざらんことを!


Emily Bronte(1818-48)は、『嵐が丘』(1847)の作者。

☆この詩は1846年(28歳)の1月に書かれているが、姉シャーロットはこれはエミリが書いた最後の詩だといっている。必ずしも時世の詩ではないが、作者の凄まじい真情がここに吐露されていることは否定し難い。正統的な信仰や信条を示唆する表現と背中合わせにそれを超えて自分自身の信念を叫ぼうとしている、まだ若い女性の姿がにじみ出ている。
『イギリス名詩選』(平井正穂編 岩波文庫)

*怯懦(おくびょうで意志の弱い様子。いくじなし。)

☆1886年5月15日―エミリー・ディキンソン死去。
葬儀の時、エミリー・ディキンソンが愛唱していたこの詩が朗読された。




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