花散る里

2011年03月20日
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日本海側では普通に給油できると聞いていた。

残ったガソリンは10リッターあるか無いかだった。

Aさんはおにぎりを握って持たせてくれて、寂しそうに見送ってくれた。

心が痛んだ。

それでもここから離れられることが嬉しかった。

山を越えて、日本海側に入っても給油できなかった。

不安になった。

行けども行けどもガソリンスタンドは開いていなかった。

そのうち、給油ランプが付く。



ツイッターで情報を探す。

良い情報は何も無かった。

車を停めて、エンジンを切って、すずと一緒におにぎりを食べた。

周辺情報を調べて、片っ端から電話したがガソリンは無かった。

日が傾きだす。

こんな雪がたくさんあるところで、車中泊は無理かも・・・

宿泊した方がいいかも。

今度は宿を探す。

一番近くて、安くて、可愛い名前の宿に電話をする。

感じのいい女将さんが、とりあえずいらしてみたら、と言ってくれた。

行ってガソリンのことを相談すると、ご主人があちこちに電話してくれたが



どうしよう。

「このままここに泊まった方がいいのでしょうか?
それともガソリンスタンドに並んだ方がいいのでしょうか?」

ご主人も黙り込む。

その内ポツリと



・・・そうだろうなあ。

私が聞いてた情報と違うもの。

ずっとロビーにいた女性が、電話をしながら席を立っていった。

初め娘さんかと思ったら、被災地からこちらに避難しているお客さんだと言う。

他にお客さんは居ない。

沈黙だけが空間に広がる。

さっきの女性が電話しながら戻ってきて、突然

「10リッター、都合できます」

・・・びっくりした。

話を聞いていて、ご主人に頼んでくれたらしい。

あまりのことに泣き出してしまった。 

女将さんはすずも一緒に部屋に連れて行っていいと言ってくれた。

すずも女将さんが気に入って、
飛んで行っては肩でなんだかんだと女将さんに話しかける。
「すずちゃん可愛いでしょ?」「ご飯食べる?」「お仕事?」

女将さんも楽しそうにすずをかまってくれた。
「はいはい、遊びたいの?」「うんうん、かわいいねえ」

急な出費だったので、食事は持参したおにぎりとクッキーで済ませた。

すずとクッキーを分けて食べたが、5枚も食べると満腹になった。

震災体質に進化したらしい。

これから美味しいものを出されてもちょっとしか食べられないのは残念だ。

お宿のお湯は硫黄泉で、美肌効果があるらしい。

・・・お風呂に入ろうと脱衣所にいると、
視界の端に着物姿の女の子が映った。

下駄が似合いそうなむちむちした足が見えた。

顔を上げると女の子はいなかった。

浴室から子供達の声がしていた。

中に入ると男湯の方からの声だったみたい。

女湯には誰も居なかった。

他にも泊り客が居るんだ・・・

髪を洗って、シャワーを手探りで探していたら、
誰かが手首をつかんで持たせてくれた。

顔をシャワーで流してから、お礼を言おうと振り向いたら誰も居なかった。

体を洗っていると、後ろを通っていく気配。

「ありがとう」

と一応声を掛けた。

立ち止まった気配がしたが、鏡には誰も映っていなかった。

座敷わらしが居るのは、決まったところだけじゃないみたい。





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最終更新日  2011年04月09日 21時00分29秒


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