最果ての世界

最果ての世界

人間天使の小話/参


今まで願いを叶えた人間たちの話まで聞かせてくれた。その中には、僕と同
じように若い者もいれば年老いた者もいたらしい。そして、天使は思い出し
たかのように突然僕に聞いた。『死は怖くないのか?』と。
 僕は、もちろん怖いと答えた。自分が終わってしまうのは、誰だって恐怖
だろうから。
 しかし、天使は僕の答えに反応を示さずに先を進めた。以前、僕と同じく
らいの若者の願いを叶えたことがあると。彼は恐れることもなく、嘆くこと
もなく『安らかに逝きたい』と願ったらしい。彼は、それから何日も置かず
願い通りに眠るように亡くなったとも聞いた。
 その時に彼は天使に、こう言った。『僕の大切な恋人が少し前に僕より先
に逝ってしまった』と。それだけを言って、笑顔を見せたんだと天使は言っ
た。そして、笑顔の理由が分からないと言うように少し複雑な顔をしていた
ように思う。

 きっと、その彼は先に逝ってしまった大切な人の傍に逝けるのが嬉しかっ
たんじゃないかな。僕はそう思った。置いて逝く方も置いて逝かれる方も、
同じように悲しいと思うから。死を恐れるのではなく、本当に望んでいたの
かも知れない。彼は、単純に大切な人に近いところにいたかったんだろう。
 しかし、天使には感情がないから。大切だと思うこともないんだろう。だ
から、彼の気持ちが分からなかったんだ。


   でも、それと同時に思う。
     僕は死を前に、この天使に微笑むことが出来るのだろうか。
 そして、彼が大切な人を想う気持ちに。
   この名前の分からない感情が似ているのだろうか。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: