Heikの狂暴温泉芸者

Heikの狂暴温泉芸者

タイム・トラベル





生と死の薄い色合いの狭間にて

ジュラルミン製の紡錘形のタイム・カプセルに、私は乗り込む

両耳には、わんわんとシュプレヒ・コールが響いている

わんわんと終わりの無いようなボレロが響いている

わんわんと聞き分けの無い子供の泣き声が響いている



タイム・カプセルのスタート・ボタンを軽く押すと

内部は振動に呑みこまれる

未来へも、現在へも、過去へも行く気持ちの無い

そんな私は

時間の狭間でちゅうぶらりん

モニターに映る画像をただ注視する

世界はわずか20インチ四方のモニターの中で

騒乱激動する



愛と諍い、戦争と災害、殺戮と誕生

人間の生態が、つまびらかに映し出される

だが、自分はそれらに参加できず

傍観者でしかない

タイム・トラベラーは、歴史を書き換えてはいけないのだ



狭い空間で、私は煩悶する

煩悶に次ぐ煩悶に次ぐ煩悶

自分自身が疲れきっているのを、私は自覚する

だがタイム・カプセルの出入り口のハッチは

押しても引いても開かない

歴史に忘れられた自分自身の存在を、私ははっきりと自覚する




二〇一一年四月一三日

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