風の吹くまま 気の向くまま

風の吹くまま 気の向くまま

U.K.ル=グイン

『ギフト 西のはての年代記1』

『ゲド戦記5・アースシーの風』 清水真砂子訳 岩波書店

 本当にこれが最後のゲド戦記です。(この5巻の前にル=グインは短編集を出したらしいですが、その翻訳は後になるらしい)

 主人公のゲドは、4巻で魔法の力を失ってしまったので、いまはハイタカという名前で、隠居生活をしています。なので、この巻では助言者の役割をしていて、実際は他の人物たちが活躍します。

 大事件が起きるわけではないのですが、この話の中で、アースシーの世界に変化が起きます。
 竜と人の関係、人が何を選択したのか、生と死の問題、善と悪の問題、自由について・・・
 いつもこのシリーズでは、考えさせられる言葉があちこちにあります。
 叙情的な題名と思っていましたが、「風」とはそういうことかと納得しました。そして大切な存在が去っていくところは『指輪物語』のようでもありました。

「死んだら、あたし、あたしを生かしてきてくれた息を吐いてもどすことができるんじゃないかなあ。
しなかったことも、みんなこの世にお返しできるんじゃないかって気がする。
なりえたかもしれないのに、実際にはなれなかったもの、選べるのに選ばなかったものもね。
それから、なくしたり、使ってしまったり、無駄にしたものも、みんなこの世にもどせるんじゃないかなあ、まだ生きている途中の生命に。
それが、生きてきた生命を、愛してきた夢を、してきた息を与えてくれたこの世界へのせめてものお礼だって気がする。」
(テハヌー)

 キャラクターもなかなかおもしろく、とくに王と、押しつけられた王女との関わりをほほえましく読みました。(2004.2.27)


『言の葉の樹』

 久しぶりのSFです。
 あまり久しぶりなので、頭がSF仕様になるまでに時間がかかりました。
 ル・グィンの〈ハイニッシュ・ユニバース〉のシリーズは、ずいぶん前に『闇の左手』『所有せざる人々』『幻影の都市』を読みましたが、始めはとりつきにくいなぁ~と思いながら読んでいくうちに、どっっぷりとその世界にひたってしまい、妙に哲学的な気分になってしまう作品群であります。

 エクーメンという進んだ文化と出会い、大がかりな焚書運動によって、自らの伝統的な文化遺産や歴史を消し去ろうとしている惑星アカの人々。アカを「観察」するためにやってきた、地球生まれのサティは、細々と隠れキリシタンのように昔からの伝統文化を引き継いでいる人々と出会い、伝統文化を再発見しようと旅に出る。
 伝統文化を消し去ろうとする側にたつ「監視官」〈本名をヤラという)がサティを追い、クライマックスではこのヤラとサティの会話が、二人の運命を変えていくことになる。

 文化を消し去ろうとするというので中国の歴史を想起するんですが、日本でも欧米のものがいいと言って、伝統的なものが消えていきそうになっているものも、けっこうあるよね・・・と思いました。
 でも、日本人はおいしいところをとって、うまく融合しているとも思いますが。

 それとキリスト教に代表される「唯一」という考えになじめない私は、こういう、文化の「多様性」を認めようとする部分にとても共感します。

 ヤラとサティの対比は、文化から培ったアイデンティティの問題もあるなあと思いました。(2005.1.24)



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