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2005.08.17
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カテゴリ: 邦書

 本格推理短編を一般公募した結果出版された短編集。9編収録されている。
 編者が鮎川哲也から二階堂黎人に交代した際、「本格推理」から「新・本格推理」にリニューアル。


粗筋

「水島のりかの冒険」:園田修一郎
 ある新婚カップルが、寒地にある奇妙なホテルでハネムーンに。ホテルはいつしか外部と連絡が取れなくなり、孤立状態に。そんな中、宿泊客の一人が殺害された……。
 本作の「引っかけ」は次の通り。
・この新婚カップルは実は女性同士の同性愛カップルだった。
・主人公の名は水島のりかではなく、水島・ノーラ・りか。日本生まれだが、黒人の血が入っており、日本語が達者な黒人と間違われる。
・ホテルは陸地と繋がった氷山の上に建てられていて、氷山が陸地から離れてしまった為、電話線などが切断され、外部と連絡が取れなくなった。
・ホテルのある氷山はアメリカとロシアの国境にある日付変更線を行き来し、日付が1日進んだり、遅れたりした。「主人公」の手記を「編集部」が日付順に編集し直した為、死んだ者が生きているかのような奇妙なものになってしまった。
 ……等々。
 長編小説でも普通これほど盛り込まない。原稿用紙100枚以下、と規定されている短編となれば尚更。お陰で、全体的に窮屈で、訳が分からない。だからこの新婚カップルは実は同性愛カップルでした、ホテルは氷山の上に建てられていました、氷山は日付変更線を行き来していました、と驚愕である筈の事実を打ち明けられても、「ふーん」程度しか思えず、感動できない。
 文章的にも面白くない。前半は状況説明が延々と続くだけで、退屈。殺人事件がようやく起こるのは半分読み進んだ後。後半部分は一人称の説明文が延々と続くだけで、これもまた退屈。
 最近の本格推理では、強調したい部分を点でルピを振るようになっているらしい。本作も例外ではない。ただ、やり過ぎの感があり、読むのが苦痛に感じる。
 面白く成り得たが、やり方がまずい。どこが評価されたのか分からない。

「蛙男島の蜥蜴女」:高橋城太郎
 蛙男島という奇妙な島へハネムーンに行った新婚カップル。二人は現地の者に捕らえられ、「蜥蜴女」の生け贄に。なることに。そんなところ、蜥蜴女が何者かに殺された……。
 最初から最後まで何が何だか分からなく、犯人は新婚カップルの妻だった、と知らされても「あ、そう」としか思えない。
「水島のりかの冒険」から2編続いて「新婚カップルがハネムーン中に事件に巻き込まれ、カップルの片方が犯人だった」という結末になっている。2編続いて同じ結末だと、それでなくても退屈なのに、インパクトが半減するではないか。なぜこんな風に編集したのか分からない。
 最近の本格推理では、強調したい部分を点でルピを振るようになっている。本作も例外ではない。無論、やり過ぎの感がある。
 本作は、比較的読み易い文体にはなっているが、読み所が少なく、状況説明が足りない為、読んだ後は何も残らない。
 この作者は、もう一編(最後の「紅き虚空の下で」)が本短編集に収録されている。

「コスモスの鉢」:藤原遊子
 老人が死亡。階段から足を踏み外した結果起こった事故のようだったが、老人は髪の毛を握っていた。その髪の毛は妻のもの。この妻は後妻で、老人が死ぬことで莫大な財産の半分を受け取れることになっていた。この為、老人は階段から突き落とされたと警察は判断。後妻を殺人の容疑で逮捕した。しかし、事件は現場に落ちていたコスモスの鉢のお陰で急展開……。
 真相は、次の通り:老人の死は事故。ただ、発見者が老人の息子の妻だった。老人の死がこのまま認められると、財産の半分を息子からすれば血の繋がりのない後妻と分けなければならない。その為、息子夫婦は後妻が殺したかのように偽装することに。しかし、息子夫婦の計画はふとしたところで崩れる。息子夫婦は偽装の為コスモスの鉢を転がせておいたが、コスモスは横にすると茎が短期間の上に向く(曲がる)習性がある。警察が駆け付けた時、コスモスの茎は曲がっていた。曲がったコスモスの度から、死亡時刻が正確に確定。後妻の無実が明らかになる一方、息子夫婦は老人の死体発見を偽っていたことが明らかになった。
 最初の2編がどうしようもない代物だったので、非常にまともな本編にはとにかく驚いた。
 作者は検察庁の事情に詳しく、リアルに描かれている。
 問題点といえば、逮捕した息子夫婦の今後か。主人公の検事は、事故死していた老人の手に後妻の髪の毛を握らせ、後妻が殺したかのように偽装した、ということで起訴するそうだが、息子夫婦が「そんなことした覚えはない」と公判で否定する可能性がなくもない。息子夫婦が老人を殺害して後妻が殺したとなれば証拠は見付け易いだろうが、そうでない以上、証拠固めはかなり苦労するだろう。
 もう一つの問題点は、警察が後妻を殺人犯として拘束したこと。莫大な資産を持っていた老人が死体として発見された。発見者は息子夫婦。老人には後妻がいる。息子夫婦と後妻は、大抵の場合仲は良くない。後妻と息子夫婦には血の繋がりはないが、財産は分けなければならない……。こうなれば、息子夫婦も疑って当然。なぜ警察は死亡時刻や死因が確定していなかった時点で後妻を逮捕することにしたのか、よく分からない。
 最初の2編が訳の分からないものだったので、こうしたまともなのを不意に出されると、地味に見えてしまう。
 主人公(検事)が女性ということから、ウーマンリブの活動報告を読まされているみたいで、その意味でもゲンナリ。

「教唆は正犯」:秋井裕
 男は会社の重役の令嬢と結婚することが決まり、愛人と別れることに。しかし、愛人は妊娠していて、別れるのを拒んだ。男がこのことで悩んでいたところで、ある人物から声をかけられる。金を支払えば、その女を始末してやる、と。男はその話に乗ってしまった。殺し屋が指定した殺害時間にアリバイを作っておいた。その後、愛人は死亡。ただ、その死亡時刻は男がアリバイ工作した時間より前で、男はアリバイがないことになってしまった。その時男は気付いた。愛人を亡き者にしたがっていたのは、自分だけではなく、自分は「殺し屋」に利用されてしまったのだと……。
 面白いストーリーに成り得たが、「殺し屋」もアリバイ工作しており(高速道路を利用していた)、それをいかに崩すかにストーリーが費やされるようになると、ダレてしまう。アリバイトリックは高速道路のチケットを利用した、ということになっているが、こうしたトリックは非現実的で、真相が明らかにされても感動に値しない。
 男は愛人が自分の子を妊娠していると知って(愛人は他に大勢の男と付き合っていた)、改心の兆しを見せるようになる、というのは蛇足。2時間サスペンスドラマみたいになってしまった。


残り5編の解説と総評は こちら


解説

 編者は、本シリーズを「一番面白いアンソロジー」と自画自賛しているが、個人的には編者の趣味に付いていけない。
 読んでみて「これはこれは!」と手を叩きたくなるようなものはなく、ごく一部が「ま、一応読めるな」といえる程度。
「本格推理小説はマニアが読む代物で、一般読者が理解できるようなものではなく、文学とは認められない」と酷評されることが多いが、このアンソロジーを読む限り当然と言える。



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Last updated  2005.08.17 14:30:14
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