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2005.08.19
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カテゴリ: 洋書

 第三次世界大戦後の世界を描いた小説。


粗筋

1987 年。ソ連とアメリカは核戦争した。ソ連のミサイル先制攻撃によりアメリカの方がより深いダメージを負うが、双方の政府首脳は死んでしまう、という結果になる。アメリカはソ連軍の残党によって占領される。まるで15世紀のヨーロッパのようにいくつもの独立した勢力が領土を支配する、という構図が出来上がった。
 この勢力には現地のアメリカ人も多数加わっていた。下手に抵抗するより仲間になった方が賢い、と読んだのだ。
 マレンは元空軍パイロット。核兵器使用後の放射能や「黒い雨」を生き延び、一人でひっそり暮らしていた。世界が結局どうなったかを全く知らないでいた。
 ある日、マレンが町に出たところ、捕まってしまう。一帯を支配する「東部平和地区」が発行する身分証明書を所持していなかったからだ。
 マレンは警察署に連れられた。そこで、マレンは拷問される。元米軍兵だった、という理由で。留置所へ放り込まれる。
 留置所で、マレンはワイアットという黒人と出会う。彼も留置されていた。彼の話によると、カナダ西岸だった地域はまだ辛うじて残っていて、旧ソ連軍の影響が少ないという。
 二人は協力して留置所から脱出することに成功した。が、ワイアットは深手を負う。
 マレンは、核攻撃直後に超軽量飛行機を発見し、隠していた。二人はその飛行機でカナダ西岸への逃亡を図る。
「東部平和地区」の責任者はアメリカ人のマケノンだった。新政府で更に昇進することを狙っている彼は、全力を挙げてマレンとワイアットを追う。
 マレンは、パイロットの経験をフルに使って追跡を振り切るが、飛行機は被弾してしまった。カナダに行ける前に途中のメイン州で着陸することを余儀なくされる。
 二人は飛行機を隠した。燃料を調達し、損傷部分を修理し、また飛び立とうと決める。
 マレンとワイアットは、調達物資を得る為、徒歩で旧カナダのケベック州に入った。ワイアットは怪我が悪化し、体調が優れない。農場を見付けたので、そこで休むことにする。
 その農場にはコリン老人と、孫娘のジャンヌと、その息子のポールがいた。ポールは、賞金と引き替えに「東部平和地区」に引き渡すべきだと主張するが、ジャンヌはマレンとワイアットを助けることにした。
 ここでワイアットが治療を受けられれば、とマレンは願うが、ケベック州も「東部平和地区」による配給制度の支配下にあるので、迂闊に動き回ると逮捕される。その為、まともな治療を受けられない。ワイアットはますます弱っていく。
 一方、マケノンは、追跡の手を緩めなかった。マレンとワイアットの再逮捕に失敗すると、自分の将来に振りかかってくることを知らされたからだ。航空機など、さまざまな手でマレンらを捜索する。ついに、「東部平和地区」の特殊部隊がジャンヌの農場を訪れた。
 ジャンヌは適当に答えて追い返すが、マレンはここにこれ以上いられないと感じた。しかし、ワイアットの病状は悪化するばかり。動かすことさえ危険になっていた。
 そんなところ、マレンはジャンヌと肉体関係を持ってしまう。それに激怒したポールは、ワイアットを殺し、「東部平和地区」へ通報しに行く。
 それを知ったマレンは、逃げることにする。ガンに犯されて余命短いコリン老人は、マレンに対し、ジャンヌを連れて行けと頼む。彼女が残ったら「犯罪者」を匿ったという理由で殺されるからと。マレンは同意し、ジャンヌを連れていく。
 マケノンは、ポールの証言により、マレンが飛行機を隠した場所をおおよそ掴んだ。そこへ向かう。
 マレンは激戦の末マケノンを倒すと、ジャンヌを飛行機に乗せて旧カナダのアルバータ州へと飛び立つ。



解説

発表された時はともかく、現在読むと時代を感じさせる小説。
 本作品では、アンドロポブ、チェルチェンコ、ゴルバチェフなど、実在した旧ソ連政府首脳も登場する(アメリカの政府首脳は述べられていない)。アンドロポブ旧ソ連共産党書記長が穏健派のチェルチェンコを追放して全権を掌握し、同じく穏健派のゴルバチェフは心臓発作で亡くなるとなっている。
 作者は、実際の世界ではアンドロポブの死後、チェルチェンコが共産党書記長に就任し、チェルチェンコがそれから間もなく病死した後ゴルバチェフが書記長に就任するのを見て、どう思ったのだろうか。
 また、ソ連が崩壊し、消滅したのを知ってどう思ったのか。
 核兵器の使用後も人類が生存できるとは楽観的な観測である。全世界が滅亡していたら小説が成り立たないので、当然と言えば当然だが。
 旧ソ連軍の残党が本作品のようにアメリカを簡単に制圧できるかもちょっと疑問。
 旧ソ連政府首脳がアメリカに対し核攻撃を仕掛ける経緯も強引で、ストーリーを成立させる為のこじつけのように感じる。これだったら省いた方が良かったかも知れない。24ページは長過ぎる。
 マレンがジャンヌと肉体関係を持ってしまうという展開も首を捻りたくなる。いつ密告されて捕まるか分からず、ジャンヌやポールも完全に信用できず、仲間のワイアットはますます弱っている、という中で、呑気に女とやるとは。しかも、コリン老人に「ジャンヌと関係を持つな。彼女の息子ポールがどう反応するか分からない。たぶん、激怒するだろう」と釘を差されているのに、である。
 こいつは馬鹿か。
 よく核戦争後を生き延びられたな、と思ってしまう。
 マレンは、他人の家に勝手に押し掛けながら、一瞬の快楽を優先した為にワイアットは死に(これはお荷物が減ったマレンにとって、都合がよかったようだが)、自分は再逮捕の危機に陥る。ジャンヌとポールとコリンにとってはえらい迷惑に他ならなかっただろう。
 本作品では、飛行機が飛び立ち、ポールがそれを見送るところで終わっている。マレンとジャンヌは無事目的地アルバータにたどり着けたか、については一切触れていない。
 個人的にはたどり着けたと思っている。しかし、その後幸せになれたかは疑問である。ジャンヌとの関係が長続きするとは思えない。
 本のカバーにはマレンとジャンヌらしき人物のイラストがあるが、後半になってようやく登場するジャンヌが描かれ、最初から最後にかけてまで登場するワイアットの姿が見当たらないのはおかしく感じないでもない。
 タイトルは「自由への飛行」という意味らしいが、「ただ乗り」て意味にもならないだろうか? マレンがジャンヌをただ乗りするのは確かだが……。迫力に欠けるタイトルである。



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Last updated  2005.08.19 15:06:01
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