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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 推理作家鮎川哲也が本格推理短編一般公募した結果出版された短編集第12弾。13編収録されている。残りは こちら


粗筋

「閉じ込められた男」:雨月行
 ある女性が公園で殺される。最有力容疑者は十も年下の恋人。ただ、その恋人にはアリバイがあった。アパートの部屋に閉じ込められていたのだ。
 そのアパートは、住んでいる者がラブホテル代わりに貸し出していたものだった。地震があってドアが歪み、開けられなくなった。おまけに停電にもなってしまった。管理人の助けでようやく開けられた。犯行はその間に起こったのだ。アパートには窓があったが、地面までの高さが5メートルあり、直ぐ下は舗装道路になっていて、飛び降りれば怪我する危険があった。出ようにも出られない。また、アパート内のビデオの時計は設定され直されていた。停電後に容疑者がし直したことを意味する。つまり、アパートにいたことは確かなのだ。
 犯人はこの恋人しか思い付かない。しかし、アパートからは出られなかった。どういう方法で犯行を実行したのか……。
 ……犯人は無論恋人。被害者の女性は30歳にも拘わらず、ぬいぐるみを集めていた。恋人は、その夜大型のぬいぐるみを持って被害者がアパートに来るのを待っていた。しかし、被害者は気まぐれな性格で、恋人を捨てた気だった。
 恋人は腹を立て、殺意を抱いた。その時に地震になり、ドアが開かなくなった。窓から抜け、犯行を実行し、ロープで室内に戻れば、自分はアリバイがあると主張できると考えた彼は、窓から脱出することにした。
 大型トラックが接近したぬいぐるみを窓から投げた。トラックは何事かと思って停車する。恋人はその隙にトラックの二台に下りたのだ。被害者を電話で呼び出し、殺した後、アパートに戻った。屋上からロープで窓まで下り、部屋に戻ったのである。
 恋人がアパートにいなかったという証拠は、ベッドのシーツが乱れていなかったことだ。寒い夜、停電中はベッドの中で毛布にくるまっているのが当たり前だからである。
 ぬいぐるみを投げたくらいでトラックが上手い具合に止まってくれるか。ハンドルを切り損ねて事故を起こしてしまったらどうしていたのか。仮に狙い通りの場所に止まったとしても、安全に飛び降りれるか。目撃されないか。屋上からロープで下った場合、跡が残らないか。その最中に目撃されないか。
 そもそも、偶然に閉じ込められたと知った時点で殺人を犯そうと大それたことを考えるか。

「塩の道の証人」:黒戸太郎
 大野の元に旧友が訪れる。「塩の道」という戦国時代から伝わる街道を旅してみたいという。大野は旧友を案内した。
 徒歩による旅は二日にも及んだ。その間、旧友の妻が殺害された。警察に対し、大野は、旧友は一時も離れなかったと証言した。離れられたとしたら夜野宿している最中だが、徒歩なので移動に時間がかかり過ぎてしまう……。
 ……犯人は無論旧友。妻に対し車で来るよう言い付けた。到着した妻を殺し、その後電車などを乗り継いで睡眠薬で眠らせた大野の元に戻ったのだ。
「塩の道」に関する情報は豊富だが、それ以外はこれといった特徴のない短編。

「南の島の殺人」:東篤哉
 友人の柏原から手紙が来る。自分は南の島にいて、そこで殺人事件に巻き込まれたと。
 手紙の内容はこうだ。
 柏原はS島を訪れていた。雷雲のような音と共に細かい粒が降ってきた。丁度その頃、現地に住むビルが通りかかる。柏原が傘を持っていないと勝手に思い込み、家に招待する。息子のジミーを紹介された。柏原はその家で傘を借り、帰った。翌日、柏原は傘を返しに戻ったところ、その家は大騒ぎだった。
 庭に見知らぬ男性の全裸死体があったのだ……。
 ……犯人はジミー。
 S島とは日本の桜島だった。雷雲のような音と共に降った細かい粒とは、桜島の噴火によって降ってきた火山灰だったのだ。柏原が傘を持っていながらも出さなかったのは、噴火を体験するのが初めてだった為、雨の時のように傘をさして灰を被るのを避ける、という発想が浮かばなかったからだ。
 ジミーは、見知らぬ男と言い争いになり、突き飛ばしたところ、その男は打ち所が悪くて死んでしまった。その後、灰が降ってきて、男の遺体は灰で覆われた。
 ジミーは、突き飛ばした時点では男が死んだとは知らなかった。翌日死体を発見した彼は、死体が灰で覆われているのを見て慌てた。犯行が灰が降る前であることが明白で、犯人が自分であることが分かってしまうからだ。犯行時刻が分かり難くなるよう、彼は死体を裸にし、灰を落としたのだ。
 本編の特徴は、舞台が日本の桜島であることを伏せていることだが、はっきり言ってくだらない。
 火山灰はそんなに簡単に落とせるのか。落とせてもその形跡が一帯に残らないか。

「湯めぐり推理休暇」:飛児おくら
 素人探偵の御園とヒコは、温泉宿を訪れた。その温泉は、直ぐ側が川になっていて、見下ろせるようになっていることだった。
 温泉に入っていると、川で温泉客と思われる人間が流れていた。どう見ても生きている気配はない。御園とヒコは、温泉に浸かっていた他の客と共に外に出た。途中、出てきた温泉客の一人が転ぶ。御園とヒコはそのまま走り続けた。苦労して川から死体を引き上げる。
 すると、その死体は、途中で転んだ温泉客だった。御園とヒコはこの謎に挑む……。
 ……死んだ温泉客は、実は泥棒だった。川で流れていた死体と思われていたのは人形だった。他の温泉客が川の「死体」に気を取られている最中に脱衣室から客の鍵を盗もうとしたが、宿の女将に見付かってしまった。驚いた彼は逃げようとして、川に落ち、そのまま溺死したのである。
 女将は、客が本物の死体に気を取られている内に人形を回収し、焼却した。従業員が焼却炉を掃除していたのも、人形を燃やしたことで炉内が煤だらけになったからである。
 問題点は、被害者が川に落ちて流れるまでの時間が、温泉客が「死体」を追って川に沿って走る時間が同じになれるか。
 素人探偵が警察にも人目置かれているというのが非現実的。探偵が小説そのものを救いのないものにしてしまっている。

「僕の友人」:堀内胡悠
 僕の元に接木という友人が訪れる。ルーマニアに旅行へ行ったが、タクシーでブラン城まで行こうとしたらカサブランカという店に行ってしまったと。タクシーの運転手がキャッスル・ブランをカサブランカと聞き間違えたというのだ。
 お返しとして、僕は、接木に対し、自分が経験を話す。
 田所のことである。彼の後を付けていたら、コンビニに入った。僕は後を追って中に入ると、田所の姿はなかった……。
 ……田所はそのコンビニで働いていた。従業員室にも入れたので、監視カメラから僕の行動を把握できた。それに応じて見付からないよう動き回った。働いていることを知られたくなかったのだ。
 結局何を言いたかったのか分からない短編。犯罪が関わっていないと物足りない。ルーマニアのエピソードが何の為に入っていたのか不明。

「消えた指輪」:光原百合
 吉野桜子と大学のミステリ研究会の仲間は、合宿することにした。その宿には、同じ大学の別のサークルの者がいた。
 そのサークルは、メンバー間の異性関係を御法度としていた。サークルのメンバーの関係を維持するためである。
 桜子はそのサークルの女性メンバーと、一緒に浴場に入る。サークルのメンバーの佳苗は、同サークルのメンバーの朋美に対し、恋人から貰ったという指輪は外した方がいいと忠告する。金属が温泉に浸かると変色することがあるからだ。朋美は、指輪を佳苗のポーチに入れることにした。
 三人が浴場から出ると、ポーチから佳苗の財布と、朋美の指輪がなくなっていた。三人で更衣室を探し回るが、見付からなかった。更衣室はロックが内側からかかっていて、誰も出入りできなかった。
 桜子がこの謎についてミステリ研究会の仲間と話し合っていたところ、佳苗が来て、指輪が更衣室で見付かったという。財布は盗まれたのではなく、部屋に置き忘れていたと。事件は消滅してしまったことになる。
 しかし、桜子は佳苗が嘘を付いていることを知っていた。なぜなら、指輪が見付かったとされる場所は、彼女が確認したからだ。佳苗はなぜ嘘をついたのか。そして指輪を他の二人が見ている前でポーチからどうやって抜き取ったのか……。
 ……指輪はキーリングに引っかけて一緒にポーチから出した。財布は無論ポーチに始めからなかった。なぜ佳苗はこんなことをしたのかというと、指輪がなくなったことを知った反応で、朋美の恋人がサークル内の者か確認したかったのだ。もしサークル内の者だったら、その恋人に直ぐ咎められるから、狼狽えるだろうと。あまり狼狽えなかったらサークル外の者が恋人ということになる。朋美はあまり狼狽えなかったので、サークル内の者でないと確信した佳苗は、事件を消滅させたのである。
 香苗は朋美がサークル内の恋愛禁止を順守しているか何が何でも知りたかったのだ。
 適度のユーモアが含まれた短編。いかにも女性作家らしいユーモアが散りばめられている。作者は本短編集が出版された時点で既に本を出していた。これまで吉野桜子(登場人物と同じ)のペンネームで二度「本格推理」に採用されている。
 女性の支持は受けそうだが、男性のはどうかね、と思いたくなる作品。


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解説

12巻は全体的に小粒なものが多かった。


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Last updated  2006.11.29 16:19:56
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