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2006.11.30
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カテゴリ: 邦書

 推理作家鮎川哲也が本格推理短編を一般公募した結果出版された短編集。12編収録されている。残りは こちら


粗筋

「静かな夜」:神島耕一
 ある田舎町の県立病院に若い医師が赴任する。町は選挙運動で活気づいていた。ある夜に当直に就いていた最中、老人が具合が悪いから診てくれと訴える。新人医師が診察すると、どうやら肺炎のようだった。直ちに入院を勧める。新人医師は手続きを婦長に任せ、当直を終えた。
 翌日、入院させた老人はどうなったかと婦長に訊くが、老人なんて入院してないと言われる。新人医師は病院内を聞き回るが、誰も老人について知らない。老人はどこに消えたのか……。
 老人は外来患者ではなく、既に入院していた痴呆症の患者だった。手術後に治療が困難なMRSA肺炎を患ったので、隔離していたが、老人はふとした隙に隔離病棟から抜け出してしまった。痴呆症の為自分がどこにいるか分からずさまよっている内に新人医師の前に姿を現したのだ。
 病院は県立病院で、自治体との繋がりが強い。選挙の真っ直中にMRSA肺炎患者が出たことが公になると選挙の行方が左右されるので、病院は秘密裏に隔離していたのだ。
 ……作者は医者。だから県立病院と自治体を巡る「政治」について詳しく、感染症についても詳しいのかも知れないが、素人からすると分かり辛い。なぜMRSA感染者の存在を秘密にしなければならないのか、それがなぜ選挙を左右するのか、などの説明がない。
 MRSAとは様々な抗生物質に対する耐性を持つ危険な細菌である。様々な種類のバクテリアが混在する病院で感染し易い(院内感染)。……これらの事前知識がないとこの短編の重大さが理解できないのでは。

「氷点下7度Cのブリザード」:碑歳美代
 ある男と女は不倫関係にあった。女は自分の夫と別れて男と一緒にいたいと言い出す。ただ、その夫は不倫に気付いていて、絶対離婚しないと言い張る。
 男は、その夫を殺すことにした。スキー場で遭難し、凍死したと見せかけようと決める。男は食品会社で働いていた。男は夫を冷凍室に閉じ込め、死なせた。その後死体を冷凍トラックでスキー場付近まで運び、放置したのだ。
 完璧だと思っていた計画だったが、刑事の登場で穴だらけであるのを知らされる。死体の胃袋には冷凍室にあった海老があった。その海老は男の会社だけしか取り扱わないものだった。また、冷凍車の交通料金が一般車と異なるとは気付かず、料金所を通過したところを支払い不充分の為作動した防犯カメラに捉えられてしまった。しかも夫の死因は凍死ではなく窒息死だった。
 ……本短編集唯一の倒叙物。といっても犯人の計画があまりにもずさんで、崩壊するのが時間の問題だっただけ。事件らしい事件にもなっていない。

「桑港の幻」:琴代智
 第二次世界大戦直前のアメリカ。日本人街で、二人の男性が同時に窓から飛び降りる。一人はもう一人を下敷きにした為助かったが、もう一人は死亡してしまった。
 助かった方は記憶を喪失していて、自分の身元さえ覚えていない。死んだ男は日本政府の有力者の御曹司であったことを知る。証言によると、助かった男が死んだ男を訊ねたところ、もみ合いになり、二人で窓から転落する羽目になった。助かった男は、どうやら謎の反日本政府運動家らしい。助かった男は、自分が何者なのか分からないまま憲兵から逃亡するが……。
 ……謎の反日本政府運動家は死んだ御曹司だった。対米戦争直前の時代なので、憲兵の権限は絶大である。正体がばれたらまずいと判断した親族が、その御曹司を抹殺することにした。死後も反政府運動家であることがばれたらまずいので、別の人間を反政府運動家に仕立て上げ、もみ合いにあって双方とも死んだことにしようと決めた。助かった男は事故に遭った通りすがりの男で、御曹司とは全く面識がなかった。
 この通りすがりの男は、最後の場面で金田一耕助であることが判明する。プロでもない者が勝手にパスティーシュを書いてしまってもいいのだろうか。しかも原作者没後からまだ20年あまりだから、ホームズと異なり著作権は原作者の遺族にある。コンセプトとしては面白いが、こういうのは避けるべきだと思う。
 作者は日本推理サスペンス大賞で第一次選考を通過した経験があるらしい。その後どうなったのだろうか。

「牙を持つ霧」:津島誠司
 葬儀屋から棺が盗まれる。奇妙なことに、盗まれた時、葬儀屋の中は濃い霧に包まれていた。棺は人が簡単に担いで運び出せるものではない。車が必要だ。犯人の姿は目撃されている筈。葬儀屋の主人は商店街を訊いて回るが、誰もそんなのは見ていないと証言する。
 葬儀屋はなぜ目撃者がいないのだと首を捻っていたところ、棺が突然戻ってきた。朝、葬儀屋の前に残されていたのである。中には死体があった。
 そんなところ、霧が町中に現れる。中から男女が姿を現したと思ったら、ろくろ首のように首が伸びた。男女の姿が霧と共に消えたところで、別の男の死体が残されていた……。
 ……犯人は最初の被害者の親戚だった。葬儀屋から棺を盗んだのは、カモフラージュだった。本来の目的は死体保管用のドライアイスを盗む為だったのだ。犯人はドライアイスで死亡時刻をずらし、自分の勤務時間中に殺人が起こったよう、工作したかったのだ。犯人は郵便配達人だった。郵便輸送車は町中を日常的に走っているので、棺を運び出した際も、商店街の者の記憶に残らず、「怪しい者は誰も通っていない」ということになってしまった。
 二番目の被害者は強請屋だった。最初の被害者に女装の癖があり、それがきっかけで殺人が起こったのを知って、強請っていたのだ。強請屋は、女装前と女装後の実物大の写真まで用意して強請った。犯人は強請屋を殺すのと同時に、ドライアイスと写真を処分した。写真を動かした際、霧の外にいた目撃者には、男女の首がろくろ首のように伸びたように見えてしまったのだ。
 本作品は応募作品ではなく、招待作。作者はプロの作家らしい。奇怪なトリックを見ると、島田荘司が絶賛したというのも納得できる。
 ただ、「日常的なことだった為記憶に残らなかった」というブラウン神父のトリックはいただけない。「怪しい車は通らなかったけど、確か郵便輸送車は通ったね」くらい普通言うのではないか。理屈だけのトリックである。

「赤死荘の殺人」:二階堂黎人
 名探偵と名高いヘンリー・メリヴェール卿の元に、警察官が訪れる。知人のケンが殺人容疑がかかっていると。
 警察は、俳優のドレイク氏が所有する赤死荘で、事件が起こるとの手紙を受け取った。ドレイク氏は市の名士である。まずいことがあってはならない。警察は赤死荘の周辺を固めると、中に入った。すると、ドレイク氏が死体となって倒れていて、側にケンがいたのだ。ケンは、自分は警察同様手紙で呼び出されただけで、殺人は犯していないと言い張る。
 警察は、そういえば誰かの人影があった、と思い立ち、屋敷内を捜索し始める。そこでドレイク氏の妻が現れる。彼女は夫の死を知って青くなる。
 そして、ふと気付くと死体が消えていた。
 屋敷の周囲は警官で固めてある。誰も出られない筈。犯人はどうやって死体を運び出したのか……。
 ……メリヴェールは、事件を簡単に解決する。殺人など元々なかったと。全て「被害者」である役者ドレイクによる芝居だったのだ。ドレイクは警察の注意が自分に向けられなくなった時点で死体の芝居をやめ、警察官になりすまし、堂々と屋敷を後にした。無論、妻も芝居に加わっていた。全てメリヴェールを困らせる為の四月馬鹿ジョークだったのだ。
 これも招待作。

「本格推理を公募する。本格推理の新作しか受け付けない。それ以外は小説としていかによくできていても却下する」

 ……と、編集者はかなり厳しく採点しているのに、一般公募作品集の中にプロの作家の作品を二編も入れるのは反則ではないか。本人はルールを曲げているのに、公募した者に対しルールを守れと要求するのはどうかと思ってしまう。
 本作品もパスティーシュらしい。パスティーシュだからこんな展開も許されるのだろうが、仮に現在を舞台にしたらどうなっていただろうか。馬鹿話になっていただろう。警察を使ってジョークを演出するなんて。犯罪じゃないか?
 本格推理では、嘘の記述をしてはならないことになっている。たとえば作中で「女」と記された者は、女でなければならない。途中で実は女装にした男性だった、という風にしてはアンフェアになる、と論じられている。
 その観点で見ると、本作品もアンフェアである。題名は「赤死荘の殺人」なのに、実際には殺人は起こっていないのだから。また、作中には「死体は……」となっているが、実際には死体ではない。これもアンフェアになる。
 本格推理についてあれこれ言う二階堂氏は、このことについてどう思っているのか。「本作品は高校生の頃に書いたものでして……」と言い逃れするのかね。
 ちなみに、二階堂氏は本シリーズの続編シリーズとなる「新・本格推理」の編集者を務めることになる。



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Last updated  2006.11.30 08:44:26
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