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2009.12.30
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カテゴリ: 邦書

 ゆうきりんのペンネームで数々のライトノベルを手がけた作家が、ペンネームを結城一樂に刷新して出したノベル。
 Talioとは、被害者が受けたのと同じ内容の危害を加害者に与える事を意味する。


粗筋

伊田桜は、警視庁の若手刑事。ある夜、恋人でテレビアナウンサーの北山桃から電話を受ける。ドキュメンタリー番組の取材中、暴漢に襲われた、と。
 伊田は直ちに桃がいる病院へ向かう。
 桃の話によると、暴漢とはドキュメンタリーの取材相手である中村竜太らしい。中村は、過去に少女を拉致監禁して殺害する、という罪を犯していたが、服役を終え、出所していた。が、世間の目は当然ながら冷たく、生活は苦しかった。桃は、いくら犯罪者とはいえ刑を終えた後も社会が罪人扱いするのはおかしい、という視点で――つまり中村の事を思って――取材を進めていたのだが、思惑に反して中村はますます阻害されてしまっていた。中村は、それを不満に思い、桃にはもう付きまとわないでくれ、と申し出ていたのだが、桃が執拗に取材を申し込み続けたので、堪忍袋の緒が切れ、襲撃したのだった。
 中村は、その後行方不明となった。
 伊田は、中村の確保の為、直属の上司である墨田と共に捜査を進める。
 しかし、中村は「ある者」によって既に処刑されていた。
 伊田らはそんな事を知る由がない。
 そんなところ、ある女性が暴行を受ける。目と耳を潰され、舌を切り取られ、指を全て切断される、という惨い仕打ちを受けていた。この女性は、中村とは顔見知りであった。中村に犯罪歴がある事を近所に触れまくったのは、彼女だったのである。
 伊田らは、この暴行も中村の仕業だ、と判断し、中村の確保にますます急ごうとする。
 そんな中、桃が拉致される。彼女も同様の惨い仕打ちを受けてしまった。
 中村を秘密裏に処刑していた「ある者」は、女性暴行事件の犯人の見当が付いていた。伊田の前に姿を現し、共に犯人を追う。
 犯人は中村の妻だった。中村とは彼が服役中に知り合い、出所後に結婚したが、近所の者や桃のお陰で中村の過去が暴かれてしまい、平穏な暮らしは不可能になっていた。それを恨んで、近所の女性や桃に惨い仕打ちを決行したのだ。
 伊田と「ある者」は、中村の妻を確保する。
「ある者」は、伊田に正体を明らかにする。上司の墨田――正確には墨田のもう一人の人格――だった。墨田は娘をある事件で失ってから多重人格になり、もう一人の人格が犯罪を繰り返す者を処刑する秘密結社Talioの一員になっていたのだ。
 現在の法律に不満を抱いていた伊田も、Talioのメンバーになる事を決意する。


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解説

本作は、位置付けがよく分からないのが最大の問題。

 本の装丁や、中の口絵や、キャラクター設定から判断する限りでは、若者が手にするライトノベルであるのは間違いないのだが……。
 テーマは暗く(刑罰は犯罪者をきちんと裁いているか、刑期を終えた人間を社会はどう扱うべきか)、ストーリーは暴力的で性描写もあり(女性が素っ裸にされ、辱めを受け、一生回復出来ないほどの重傷を負って精神的に病む)、読み終えた後に爽快感はない(ヒロインも素っ裸にされ、辱めを受け、一生回復出来ないほどの重傷を負う)。
 その意味では「大人の読み物」である。

 若者向けのライトノベルに徹するなら、テーマは暗いままでもいいし、暴力の描写は多少あってもいいが、性描写は省き、結末ももう少し希望を持てるものにすべきだった。
 成年向けにするなら、秘密結社の部分は完全に省いて純粋な警察物とし、「正義とは結局何か?」といった説教ぶった部分は省略すべきだった(それだとTalioというタイトルそのものが意味を成さなくなっていただろうが)。
 どちらが読んでも良いように、という思惑であれこれ放り込んでしまった結果、若者向けにも成人向けにもなっていない代物になってしまった。

 主人公の伊田はひたすら無能で、結局恋人を悪の手から守れなかった。彼はこの事件を秘密結社Talioに加わる事になるが……。
 加わっても大した活躍は期待できそうもない。

 ヒロインの桃はどうか、というと……。
 最終的に物凄い酷い仕打ちを受けるので(目と耳を潰され、舌を抜かれ、指を全て切り落とされる)、同情してしまうが……。
 それまでの行動があまりにも自己中心的で、共感に値しない。本人は元服役者の為を思って動いていると信じて疑っていないが、全て裏目に出てしまった。もし彼女がつまらないドキュメンタリーなど手がけなければ、中村夫婦は世間の目に怯えながらもそのまま大人しく暮らしていただろう。中村は桃を暴行する事はなかっただろうし、中村の妻も凶行に及ぶ事はなかった。ある意味、彼女が最大の悪人。
 その報いとして最終的に惨い仕打ちを受けた、と考える事も出来なくもないが……。
 作品全体において後味の悪さを演出しただけ。
 その意味でも彼女は罪深い。

 秘密結社Talioも、作者は超法規的な組織として描いているようだが、こちらとしては自己中心的な、幼稚な組織としか写らない。
 出所した後に罪を繰り返す犯罪者を処刑する、というのは一見そう悪い事ではないように思われるが……。
 政府機関ではなく、秘密結社の勝手な基準でやられてしまうと、この秘密結社も結局犯罪者たちと変わらなくなってしまう。むしろ組織でやっている為、性質が悪い。
 共感できる秘密結社としては写らなかった。
 Talioには、警察官は勿論、政治家などの有力者もメンバーだという。
 それだったら法改正するなど、合法的な手段で対処しろや、と思ってしまう。

 本作ではどんでん返しがいくつか用意されているが(服役を終えた犯罪者らを処刑していた者が冴えない刑事墨田だった、女性を暴行していたのは出所した犯罪者の妻だった、など)、取って付けられた感があり、整合性に欠ける。
 そもそも最初の女性が暴行された時点で、警察の捜査線上に中村の妻が浮かび上がらなかったのはおかしい。もし警察がもう少しでも賢かったら、桃は最初の女性と同じ仕打ちを受ける事はなかっただろうに。警察は何をしてたんだろう、と思わざるを得ない。

 文体も、説教臭さが目立つというか、「賢い俺(作者)が無知なお前ら(読者)に色々と知恵を授けてやるからしっかり読むんだな」という態度が滲み出ている。
 非常に鼻に突くのである。
 普通に、淡々と書けないのか。
 この傾向は、何もこの作者に限らず、多くの作家で見られる。
 作家が自作を通じて自身の思想や理念を読者に伝えるのは結構だが、あからさまにやるのは避けるべきだろう。
 出版社は、そういったものを読者が望んでいると思い込んでいる節があるので、作家らもそれに応えるしかないのかも知れないが……。
 現実には、読者は引くばかりである。
 小説はテーマや社会性(というかテーマや社会性の押し付け)などではなく、ストーリーで勝負してほしい。

 本作はシリーズ第一作として発表されたようだが……。
 その後シリーズ作は発表されていない。
 内容的に既に行き詰っているので(ヒロインが植物人間に近く、ヒーローと共に行動できない;テーマも同じのが繰り返されるだけになるなど)、出そうにも出せないのだろう。



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Last updated  2015.05.16 18:00:43
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