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2016.10.17
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カテゴリ: 邦書

 主にユーモアミステリ作家として名を馳せている赤川次郎のオムニバス短編集。
 4篇から成り、1つの長編としても読める様になっている。
「完全犯罪」を約束する毒薬を巡る人間ドラマを描く。


粗筋

第一章 男が恋人を殺すとき
 ある大学研究室の松井教授は、アフリカから未知の毒薬を持ち帰った。その毒薬は、僅か1滴で致死量に達し、現在の医学では検出不可能で心臓麻痺としか診れず、しかも効き目は摂取から24時間後という、驚異的なものだった。しかし、松井教授はあくまでも研究の対象として持ち帰っただけで、研究室に閉じ篭もりで研究に没頭していた。だが、毒薬の存在は、大学内では次第に知られるようになっていた。
 松井教授の助手の笹田直子は、この状況に危険を感じていた。毒薬が万が一盗まれ、使われてしまったら、松井教授は大学を追われてしまう、と。そこで、彼女は、毒薬についてマスコミにリークしてしまおう、と考える。毒薬の存在が明らかになってしまえば、仮に盗まれても使われる事は無いだろう、と。
 直子は、恋人で、雑誌記者である秋本にこの毒薬について語る。秋本と直子は、松井の下へ向かい、毒薬について公表する事を迫る。助手の熱意に、松井は折れる。秋本が、松井に指示された通り毒薬の保管場所に向かった所、毒薬の入った瓶は消えていた。
 毒薬が盗難に遭った事は、マスコミに取り上げられ、大騒ぎになる。
 しかし、毒薬を盗んだのは、実は秋本だった。保管場所の中を覗く振りをして瓶を取り出し、最初から無かったかの様に装ったのだった。
 秋本には、殺したい相手がいた。直子とは別の愛人だった。愛人の真由美は秋本の子を宿していて、結婚を迫っていた。秋本は、それを重荷に思い、毒薬で殺そうと決めたのだった。幸か不幸か、真由美は秋本という恋人がいる事を周囲の誰にも知らせていなかった。したがって、真由美が死んで、不審死と見なされても、警察の手は自分には及ばないだろう、と考える。
 秋本は、食事に毒を盛る事に成功。真由美は、24時間後に心臓麻痺で死亡した。
 しかし、真由美が付き合っていたのは、秋本だけではなかった。真由美は、別の男とラブホテルにいた所、心臓麻痺で死んだのだった。その場にいた男は、真由美の死体を放置して逃げた為、警察が事件と見なして捜査を開始。毒薬についてはマスコミを通じて知っていたので、この死はそれによるものではないか、と見なした。
 秋本は、真由美が自分以外に二人の男性と付き合っていた事、そしてど二人の男に金を貢がせさせていたのを知り、驚く。
 真由美の死について、中野刑事から知らされていた直子は、真由美と秋本が同郷だと知り、これは偶然ではないと悟る。
 同じ頃、秋本は真由美の別の恋人だった男の一人と揉み合いになり、死なせてしまっていた。
 真由美にとって、本当の恋人は秋本で、他の二人はあくまでも金をせびり取る為だけに付き合っていた。真由美は不治の病を患っていて、秋本に金を残す事が彼女にとって唯一の愛情表現だったのだ。
 全てが裏手に回ったと悟った秋本は、直子の下を訪れ、自分が毒薬を盗み、それで真由美を殺し、更に自分自身にも毒を盛った事を告げる。直子の目の前で、毒による心臓麻痺で死ぬ。
 毒薬の入った瓶は、捜査の課程で秋本の住居を訪れた中野刑事に盗まれる。

第二章 刑事が容疑者を殺すとき
 毒薬を盗んだ中野刑事には、何が何でも許せない男がいた。
 原田である。彼は、中野刑事の捜査によって幼女誘拐殺人の容疑で逮捕されたものの、証拠不足で不起訴処分となっていた。しかし、世間は彼を犯人扱いし、社会的制裁を受けていた。
 ただ、中野刑事は、それだけでは満足していなかった。犯人は奴以外には有り得ない、自由の身でいる事が許せない、と。
 中野刑事は、原田と再会。近所に越してきたという。
 中野刑事は、原田は自分の娘を狙っている、と確信する。
 直子は、毒薬の入った瓶が秋本の住居から見付からなかった事を不審に思っていた。秋本は、死ぬ直前に、瓶は自宅にある、と告げていたからだ。誰かが盗んだとしたら、それは秋本の住居を出入りしていた警察関係者しか有り得ない、と感じていた。
 中野刑事は、原田に、毒を盛る事に成功する。後は24時間後に死亡するのを待つだけとなった。
 が、原田は、予想外の行動に移る。中野刑事の妻を殺し、娘を攫って殺したのだ。その直後に毒による心臓麻痺で死ぬ。
 中野刑事は、自分の娘と、原田の遺体を発見し、激怒。原田の遺体に銃弾を撃ち捲る。それを阻止しようとした別の刑事の銃弾を浴び、中野刑事は死亡する。
 毒薬が入った瓶は、偶然その現場付近でロケをしていたアイドルの牧本弥生が手にしていた。

第三章 スターがファンを殺すとき
 アイドルの牧本弥生は、悩んでいた。
 ある「ファン」が、時折電話を寄越し、業界の者でしか知り得ない情報を提供してくるのだ。「ファン」によると、弥生が所属する芸能事務所は弥生を最早落ち目だと見なし、次のアイドルの売り出しに掛かっているというのである。
 その新アイドルの名は、南星久美子。
 弥生は、「ファン」の情報を無視しようとするが、所属事務所が南星久美子を推しているのは、疑いようの無い事実だった。これに苛立った弥生は、大杉マネージャーに辛く当たるようになる。
 弥生は、ライバルの南星久美子は勿論、「ファン」も恨むようになる。「ファン」を毒薬でどうにか殺せないか、と思うようになる。毒薬の効果は、自身の目障りな付き人を死なせる事で、確認済みだった。
 直子は、弥生の付き人が心臓麻痺で死んだ事、そして中野刑事が死亡した現場付近で弥生がロケをしていた事を知り、弥生が毒薬を持っているのではないかと疑うようになる。
 弥生は、「ファン」に贈り物という形で、毒薬を届ける事に成功する。同時に、ライバルの南星久美子の弱みを握れた、と確信する。弥生はその弱みを利用して、南星久美子をアイドルの座から蹴落とそうとする。
 が、南星久美子はその弱みは事実でない、と告げる。弥生は、その時点で「ファン」は弥生をライバル視していた南星久美子だった事、そして「ファン」による一連の行動は南星久美子とその愛人である大杉マネージャーが仕組んだ事だったと知り、発狂する。
 大杉は、その後弥生が「ファン」に贈った毒入りの菓子を食べ、死亡する。
 毒薬が入った瓶は、弥生が潜伏していたホテルのボーイが手にしていた。

第四章 ボーイが客を殺すとき
 ホテルのボーイである笹谷は、過激派組織の元メンバーだった。
 組織は壊滅され、既に存在していなかったが、笹谷は要人暗殺の野望をまだ捨てていなかった。そんな事もあり、政治家がよく利用するホテルの従業員になり、機会を待っていたのである。
 そんな所、毒薬を手に入れた。しかもホテルでは、近々大物政治家が出席する結婚式が催される予定だった。
 笹谷は、毒薬を使って、政治家らを纏めて殺してしまおう、と企む。
 丁度その時、邪魔が入る。組織の元指導者で、現在はただの浮浪者の柴田が、金をせびりに、彼の下を訪れたのだ。柴田は警察からマークされているので、接触した者は全て調べ上げられる。柴田に下手に接触されては不味いと悟った笹谷は、同じ組織の元メンバーで、同棲していた浩美に、毒薬を使って殺させる。
 直子は、弥生が潜伏していたホテルの存在を知り、毒薬の瓶が無かったかを問い合わせる。ホテルは、毒薬の件が公になると、式がキャンセルになり、大損害を被ると危惧し、直子を拘束する。直子の監視役を命じられたのは、偶然にも笹谷と浩美だった。直子は、笹谷と浩美の企みを知り、止める様、説得を試みるが、笹谷と浩美は頑として応じない。
 一方、警察は、柴田が心臓麻痺で死亡した事と、死ぬ直前にホテルの名を挙げていた事から、ホテルを内偵していた。笹谷の存在を知り、式を阻止しようと動く。
 笹谷は、結婚式の食事に毒を盛る事に成功。出席者が毒入りの食事を食べたのを見届けると、浩美と共に自殺する。
 直子は、警察に救出され、笹谷と浩美の自殺を阻止しようとするが、手遅れだった。
 毒薬を盛られた筈の結婚式出席者は、どういう訳か一人も死ななかった。ただ、出席していた大物政治家らは、自分らが助かりたいが為に他の出席者よりも自分らの解毒を優先させた為、社会から非難を浴びるようになる。



解説

完全犯罪を可能にする毒を巡る人間ドラマを描いている、というのが本作の売りらしい。
 確かに、様々な人間を描いている。
 ただ、全編を通して読んでしまうと、全登場人物が救いようの馬鹿か、屑ばかりで、共感に値する者が一人もおらず、不満ばかりが募る。
 ストーリー展開も、各編ごとに起承転結があり、サスペンスに満ちているが、どんでん返しらしきどんでん返しは無く、尻すぼみに終わる。風呂敷を広げられるだけ広げたはいいものの、どうやって畳んだら良いのか分からなくなってしまい、適当にというか、強引に畳んで無理矢理終わらせたかの様。
 素材は極上なのに、調理の仕方がイマイチで、結局普通に仕上がってしまった料理を食べさせられている気分になる。

 本作の最大の馬鹿は、大学教授の助手で、本作全体の主人公といえる笹田直子。
 敬愛する松井教授を守る為、という自分勝手な行動により、毒薬が盗まれるきっかけを作ってしまう。松井教授を「研究の虫で世間知らず」と間抜け扱いするが、もし彼女が詰まらぬ行動を取らなかったら、一連の事件は発生していなかっただろう。別の形で発生していたかも知れないが。
 本作では、著者の趣味なのか、彼女をやけに優秀扱いするが、その優秀さがこちらには全く伝わって来ない。
 恋人の秋本には二股を掛けられる程鈍感だし(男性は女性の浮気にはなかなか気付かないが、女性は男性の浮気に直ぐ気付いてしまう、という定説が当て嵌まらない)、その秋本が死亡すると、敬愛しているだけの筈だった松井教授と肉体的関係を持つ様になる。
 ただの阿婆擦れ。
「最終的には松井教授と結ばれる事になりました。めでたしめでたし」で終わられても、読んでいる方からするとちっともめでたくない。

 第一章の主人公である秋本は、どうしようもない屑。
 直子という恋人がいながら、真由美という幼馴染みとも付き合っていた。真由美が妊娠して結婚を迫ると、毒薬を使って始末しようと考える。
 こんな屑だと、仮に真由美の始末に完全に成功し、直子と結ばれたとしても、また浮気に走り、その相手に飽きた時点でまた殺す、という行為を繰り広げていただろう。
 真由美も、秋本という恋人がいながら、他の男とも付き合い、違法行為までさせて金を貢がせるという、最低の女。
 何故本編では、男女問わず、浮気性の者ここまでが登場したのか。

 第二章の主人公である中野刑事は、どう考えても優秀な刑事とは思えない。
 娘が一度攫われ、辛うじて無傷で戻って来て、攫った相手が分かっている筈なのに、妻に対し「注意しろ」くらいしか言わない。
 もし妻に対し、娘を連れてどこかへ行っていろ、とでも命じていたら、妻は原田によって殺される事は無かっただろうし、娘も二度も攫われて最終的には殺される事は無かっただろう。
 ストーリー展開も、「中野刑事が怪しいと最初から睨んでいた原田は、案の定殺人犯でした」というもので、どんでん返しは無い。
「娘を狙っていたのは、実は別の人物で、原田は娘の命を救った恩人だった。しかし、中野刑事の勝手な思い込みにより、毒殺されてしまう。中野刑事は、自身の間違いを思い知らされ、大いに悔やむ」
 ……という展開に何故出来なかったのかね。
 第三章へと無理矢理繋ぐ為、強引というか、後味が悪いだけの一編で終わってしまっている。

 第三章は、始めから第二章と強引に結び付けられている感じ。
 強引過ぎて、乗り込めない。
 主人公の弥生を悩ませていたライバルと、情報を次々提供する事で彼女を悩まさせていた「ファン」が実は同一人物だった、という真相が唯一の読み所。
 しかし、そのライバルが何の制裁も受けず、のうのうとアイドル路線を走れる、という結末は後味が矢張り後味が悪く、すっきりしない。ライバル同士で潰し合って、最終的には誰も残りませんでした、という結末にしていたら、納得がいくものになっていただろうに。

 第四章で、毒薬が漸く本領を発揮する場が与えられる。
 様々な邪魔が入るものの、テロリストの笹谷は政府要人の大量虐殺に成功する。
 ……と思っていたら、これまで物凄く効果を発揮していた毒は、この時だけは何の効果も無く、誰も死なない、という尻すぼみのオチで終わる。
 松井は「化学反応を起こして無害になったのだろう」としか言えない。散々研究していて、その程度の見解しか出せないのかよ、と思ってしまう。

 四篇には、いずれも直子と松井教授が関わってくる。
 松井教授は、作中ではひたすら冴えないオッサンとして描かれている。
 実は松井教授はとんでもない食わせ物で、一連の事件は全て彼が意図したものだった……、という大どんでん返しが用意されている、と思いきや、そんな手の込んだ展開にはなっていない。
 松井教授は結局最後まで冴えないオッサンで、どういう訳か直子と結ばれる、という結末になっている。



「夢の完全犯罪を成し遂げられる!」が売りの毒薬の筈なのに、最初の一編でその存在がマスコミを通じて世間に知られてしまい、心臓麻痺に見える突然死には全て警察の手が入ってしまっている。この時点で、「夢の完全犯罪を成し遂げられる!」という設定がそもそも崩れてしまっているのはおかしい。
 これだったら何も「未知の毒薬」にしなくても、普通の毒薬で充分だろうに、と思ってしまう。
 現在の医学では検出不可能な毒薬という設定自体、説明不足。リアリティに乏しく、ファンタジーの域に入ってしまう。ファンタジー小説として読め、という事か。

 様々な人間模様や展開が描かれているが、小説自体は低予算メロドラマの脚本に手を加えてノベライズしたかの様で、厚みが無く、読後は何も残らない。一度読めば充分といった感じ。

 赤川次郎の著作は、文体が軽く、ガンガン読み進められるので、読書の習慣を身に付けたい、と思う者にとっては入門書として打って付け。
 ただ、いざ読書の習慣が身に付き、目が肥えるようになると、作品の厚みの無さ、構成力の無さ、そして後味の悪さばかりが目に付くようになり、離れて行ってしまう。
 本作も、例外ではない。


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Last updated  2016.10.21 17:38:48
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