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2017.03.03
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カテゴリ: 邦書

 宮部みゆきによる短編集。
 5編から成り、表題作がデビュー作。


粗筋

我らが隣人の犯罪
 中学一年生の誠は、家族と共にタウンハウスで暮らしていた。
 住まいそのものに不満は無かった。が、問題はあった。
 隣のタウンハウスに住む橋本という女性が飼っている犬である。鳴き声がとにかくうるさく、昼夜問わず泣くのだ。お蔭で、母は不眠症になり掛けていた。
 橋本という女性自身にも好意が持てなかったので、誠はどうにか仕返ししたい、と思うようになる。
 ただ、橋本は独身だが、愛人がいて、その愛人がどう見ても堅気とは思えない。迂闊に手を出せなかった。そもそも、中学生が出来る仕返しなんて、限られている。
 誠は、この事について叔父に話す。叔父は、犬が鳴くのは、一日中住まいに閉じ込められていて、散歩にも連れてもらえず、ストレスが溜まっているからだろう、と言う。
 誠と叔父は、話し合っている内に、犬を攫うのが犬の為にもなり、鳴き声からも解放される唯一の解決法だという結論に至る。
 しかし、橋本は犬を家の外から全く出さない。どうやって犬を攫うのか。
 誠と叔父は、タウンハウスが屋根裏で繋がっている事を知る。屋根裏伝いに移動し、隣の橋本の住まいに侵入し、犬を攫ってしまおう、と計画した。
 まず誠が、橋本の留守を狙って屋根裏に上がり、暗闇の中を進み、隣人の屋根裏までの道しるべを設け、天井パネルを直ぐ外せるようにした。
 後日、叔父が屋根裏に上がり、隣のタウンハウスに侵入する。
 しかし、叔父は犬ではなく、銀行通帳を持ち帰って来た。
 誠が何故銀行通帳なんて持ち帰って来たんだと問うと、叔父は言う。
 天井パネルを外したら、部屋ではなく、銀行通帳の隠し場所になっていた、と。
 銀行通帳を屋根裏に隠すのは、尋常ではない。多分、脱税目的だろう、と叔父は言う。橋本は、愛人の脱税に協力していたらしい。
 誠は、脱税について通報しよう、と叔父に提案。橋本が脱税で逮捕されれば、引っ越すだろうから、犬の問題も解決する、と。
 しかし、叔父は言う。そのまま通報したら、不法侵入についても説明せねばならず、それだと自分らも捕まる、と。
 誠の妹が、二人が話し合っているのに気付く。犬を攫うつもりが、銀行通帳を盗む羽目になった、と説明せざるを得なくなる。
 妹は、そんな事しなくても、合鍵を使えば楽に侵入出来るのに、と呆れる。彼女は、橋本が合鍵を隠す場面を目撃していたのだ。
 誠と、妹と、叔父は、橋本の留守を見計らって、犬を攫う。
 橋本は犬がいなくなった事に気付き、警察沙汰になるのではないかと思われる程大騒ぎするが、その内騒がなくなった。
 叔父が、銀行通帳をネタに、強請りの連絡を入れたからだ。犬の件で下手に警察沙汰にしたら、脱税がばれてしまう可能性がある、と橋本は恐れ、騒ぐのを止めたのだった。
 叔父は、橋本と愛人が脱税で確実に捕まる一方で、自分らには被害が及ばない方法を編み出す。
 叔父は、ある看護婦から嫌な目に遭わされていた。彼女に脅迫めいた手紙を送り付け、警察に相談させるよう仕向けた。
 看護婦と警察は、脅迫者を炙り出す為、その脅迫者にある場所で会おう、と提案する。その場所には警察が張り込んでいて、現れてきた脅迫者を捕まえる、という手立てになっていた。
 同時に、叔父は橋本にも強請りの連絡を入れ、金を出せば通帳を返すと言った。金を渡す場所として、看護婦と警察が張り込んでいる店を指定する。
 橋本は、叔父の策略にはまり、看護婦と警察が張り込んでいる場所にのこのこと現れ、捕まってしまう。
 看護婦への脅迫は濡れ切れだったが、言動が怪しかった為、橋本は警察から取り調べを受ける羽目に。その結果、脱税が発覚。
 ただ、脱税したのは犬の首輪に仕込まれた宝石で、銀行通帳は無関係だった。橋本が犬を外に出さなかったのは、首輪を紛失させない為だったのだ。
 銀行通帳は、実は橋本ではなく、タウンハウスの反対側の隣人のものだった。
 誠は、屋根裏に上がった際、橋本の住まいへ向かったつもりだったが、暗がりで方向感覚を失い、もう片方の隣人の住まいに侵入していた。
 要するに、両側の隣人がそれぞれ脱税を働いていたのだ。
 そちらの方にも警察の捜査が入り、誠のタウンハウスでは両側が空き家となった。

この子誰の子
 中学生のサトシが一人で留守番していると、恵美という女性が訪ね、家に勝手に上り込む。
 サトシが呆然としていると、恵美は抱えていた赤ん坊を見せびらかし、この子は自分とあなたの父親の間で出来た子だと言い出す。この子とあなたは兄妹だ、と。
 サトシは、恵美の言葉を信じられなかったが、彼女があまりにも堂々としているので、もしかしたらと思い込むように。
 恵美は、サトシの家で一晩過ごす事になる。
 しかし、父親がそろそろ帰って来るという段階になって、恵美は赤ん坊がサトシの父親とは全く無関係だという事実を自ら認め、去っていく。
 それから間もなくサトシの両親が帰宅。サトシは、恵美の訪問については何も話さなかった。
 サトシは、少ない手掛かりを元に、恵美の住所を探し当て、彼女と対面。
 サトシは、自分の父親は子を作れない身体で、自分が人工授精から生まれた子である事を告げる。したがって、恵美の赤ん坊が父親の子でないのは、初対面の段階で知っていた、と。
 が、サトシには引っ掛かる部分があった。赤ん坊が、自分に似ていたのだ。
 恵美は認める。彼女には事故で亡くした夫がいた。その夫は、過去に人工授精の為にと精子を提供していた時期があった。サトシは、その夫の精子によって生まれたのだ。
 サトシが怪我で病院に搬送された際、看護婦だった恵美の目に留まる。サトシが死んだ夫にそっくりだったので、夫の子ではないかと思うように。
 夫を亡くし、子育ての心労からノイローゼになり掛けていた恵美は、サトシの家に推し掛け、自分の赤ん坊がサトシの父親との間に出来た子だと言い掛かりを付けた。しかし、押し通せず、退散したのだった。
 赤ん坊がサトシの遺伝学上の妹だというのは事実だった。
 サトシは、遺伝学上の父親について知る事が出来た、と恵美に感謝し、妹の存在も分かった事についても、恵美に感謝。時折妹に会いたい、と申し出る。

サボテンの花
 卒業間近の6年1組の生徒らが、卒業研究として「サボテンの超能力」を取り上げたいと言い出す。
 堅物として知られる担任教師の宮崎は、猛反対。他のクラスの様に、もっとまじめな研究をやれ、と。
 しかし定年間近の権藤教頭は、生徒らの好きなようにやらせてみろ、と言う。まじめではあるがありきたりな卒業研究しか発表されない事に、疑問を抱いていたからだ。
 生徒らは、研究と称して次々に騒動を起こすようになり、権藤教頭は対応に追われる羽目になる。
 漸く漕ぎ付いた研究発表会で、6年1組の生徒はサボテンを使った実験を実施。サボテンには超能力がある、と教師らも認めざるを得ない結果に至り、発表会は終わる。
 後に、生徒が実験は単なる手品で、サボテンに超能力は無かった事を、権藤教頭に対し認める。生徒らが起こしていた騒動は、権藤教頭へのプレゼントを作る為に起こしていた行動だった。

祝・殺人
 刑事の彦根は、担当している殺人事件に関して、ある女性から接触される。
 日野明子というその女性は、結婚式場を運営する会社に勤めていた。
 殺人事件の被害者は、彼女の会社が担当した結婚式で、司会を務めたという。
 殺人事件とは、佐竹という営業マンがバラバラ死体で発見された件だった。派手な死体になっていた割には、手掛かりが少なく、捜査は行き詰っていた。
 明子によると、佐竹は知人の式場で、司会役を務めた。プロの司会者ではないが、過去に何度もやっており、慣れていたので、新郎の高崎から頼まれたのだという。
 式場で、明子は奇妙な行動を目撃する。佐竹は、式場に届いた祝電を一通ずつ読み上げる、という催しを担当したが、一通だけは読まず、それどころか秘密裏に処分した。
 何故佐竹は独自判断で祝電を握り潰したのか、という疑問が上がった。
 明子は考えた。佐竹が処分した祝電は、式場で読み上げるべきでない内容だった。だから読まなかった。秘密裏に処分したのは、強請りに使えるのではないかと考えたからではないか、と。
 彦根は、その考えは突飛過ぎないかと言いそうになったが、思い当たる節があった。
 事件現場となった佐竹の住まいを捜査した所、衣類からある町のスナックの名刺が入っていた。わざわざ行くにしては遠い町なので、調べた所、そこで勤めていた秋崎みちよという女性が殺害されていた。
 偶然にしては出来過ぎていたが、みちよが殺害された日時には佐竹にアリバイがあったので、この二つの殺人事件は無関係だろうという結論に至っていた。
 明子は言う。みちよと、新郎の高崎は、どうやら知人だったらしい。みちよは、高崎の結婚式直前に殺されていた。祝電は、結婚式のかなり前から申し込まれていた可能性が高い。みちよこそ読まれなかった祝電の送り主ではないか。みちよは、結婚を破談に追い込もうと嫌味たっぷりの祝電を送る手続きをした。その直後に殺害された。佐竹の機転で、死者が送った祝電は握り潰された。しかし、佐竹はそれをネタに高崎を強請った。みちよを殺したのはお前だろう、と。困った高崎は、佐竹も殺した。
 ただ、殺害方法からして、単独犯行とは思えなかった。共犯がいる。それは誰か。何故共犯となったのか。死体をバラバラにしてどうするつもりだったのか。
 明子は自身の推理を述べる。
 佐竹が高崎だけを強請ったとは考え辛い。高崎はただのサラリーマンで、出せる金は限られていたからだ。しかし、高崎は富豪令嬢と結婚する予定だった。佐竹は高崎だけではなく、高崎の結婚相手の親も強請っていたのではないか。佐竹は、強請りの材料を勤務先のロッカーに保管していた。ロッカーは、指紋認証によるロックが掛かっていて、高崎や新婦の親が簡単にアクセス出来ないようになっていた。そこで、高崎と新婦の親は佐竹を殺した。指紋認証ロックを解除する為、佐竹の手を切り取り、佐竹の勤務先に忍び込み、切断した手を使ってロックを解除し、強請りの材料を盗んだ。佐竹の死体がバラバラだったのは、手だけが切断された状態だとそこから犯行の全貌が掴まれてしまうからだった。
 彦根はその推理を元に、捜査を見直し、高崎と、新婦の親を逮捕するに至った。
 高崎の結婚式が間近に迫る中、みちよは高崎に対し別れたくないと言い出した。困った高崎は、みちよを殺した。これを知った佐竹は、それをネタに新婦の父親を強請る。
 娘を溺愛する父親は、娘の夫が殺人犯として逮捕されたら不味いと思い、強請っていた佐竹を殺す。そして、脅迫の材料であり、殺人の証拠でもある品を盗んだのである。

気分は自殺志願
 推理小説家の海野の元に、中田という中年男性が声を掛ける。
 中田は言う。海野に自分を殺してもらいたい、と。彼は本当は自殺したかったが、自殺で片付けられると不味いので、殺人として処理される方法で死にたい、と。
 海野は言う。自分はただの作家なので、そんな方法は知らない、と。とりあえず、中田の話を聞く事に。
 中田はレストランでボーイ長を務めていた。しかし、病気を境に味覚障害に悩まされるようになった。どんな料理もゴミの味しかしなくなったのだ。
 治療の為にレストランを辞めたいが、突然辞めたら不審に思われる。中田は、業界では一応名が通っていたからだ。また、病気の事は隠し通したかった。息子が料理人で、自分の病が息子の将来に影響を与える可能性が高かったからだ。
 海野は、中田の為に、オーナーからも業界からも怪しまれない方法でレストランを辞めさせる方法を編み出す。


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Last updated  2017.03.03 21:03:31
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