島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

2003.09.18
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子供の頃、戦前生まれの両親がよく、短気で癇癪起こす私に向かって、`瞬間湯沸かし器´とからかっていた。(今は随分大人しくなったけど)最近はこういう表現をあまり耳にしなくなったが、実は昨日この瞬間湯沸かし器に出くわしてしまった。

以前の日記、`New House に関するジレンマ´にも書いたんだが、現在うちのマスターベッドルームに隣接したバスルームのシャワーの改造中だ。電話帳から拾った多くのタイル専門の大工達に見積もりをしてもらった中で、一番最初に現れた、60歳は過ぎているだろうという爺さん大工、リチャードに依頼することにした。彼は、他の人のようにぴかぴかのきれいな新しい業務用のトラックなぞ運転せずに、おんぼろの、多分30年近く前のさびさびトラックに乗ってやってきた。時間にルーズな大工達の中で、彼は、きちんと約束通りに来たし、しかも他の業者に比べたら、1/3の値段でこの修理を受け持ってくれると言う。この爺さん大工は経験を沢山積んでいるけれど、欲深でなくいい人だから、こうやっておんぼろのトラックに乗っているんだなあと勝手に決め込んで彼に任せることにした。

作業に取り掛かる前にあれこれサンプルの中のタイルを検討したが、デザインのことに関してうるさいジャックがこの中では見つからないと、自ら仕事先の近くのタイル屋に言って納得いくタイルを探していた。その店から幾つか気に入ったサンプルを持ってきて、ああでもない、こうでもないとやっていたが、あまりにも時間が掛かり、これじゃいつまで経っても埒が明かないと、私から散々文句を言われて、結局現在あるチョコレート色がかったベージュとオフホワイトの二色のタイルと同じようなものを使うことに決めたのだった。この間にすでに二週間以上が経過していたのだが、申し訳なさそうに待ってくれと頼む私に、リチャードは“いいよ、いいよ、いったんタイルを入れてしまってから気が変わるよりもいいからね。”と気長に待ってくれていた。

ようやく工事か開始され、毎日朝8:30にきて、夕方4:00前後までの彼の作用が続いた。そして、もうすぐで工事か終わるという最終段階に来たおととい、事件の発端が起こった。シャワーと床の仕切りとなる部分にはまったタイルの仕上げ具合を見たジャックが、“これは何だ!ぜんぜん真っ直ぐなってないじゃないか!それにこのベージュ、すでにあるタイルの色に近いけど、全く同じじゃないからおかしい!”と言い出した。確かに、ジャックほど完ぺき主義ではないわたしの目からも、この段階の前の基礎工事にしてもちょっと雑なのが分ったし、彼が入れたタイルはまるで素人がやったようにがたがたで、がっかりさせられる仕上がりだった。が、いったん入れてしまってもうとっくに乾いているため、まあ、一番安い大工を雇ったんだから仕方ないと諦めていた。が、それでも、`デザイナー´のジャックはこのクラフトマンシップの無いリチャードの仕事振りが許せない。プロがするように綺麗に仕上げることが出来ないようなら、いっそ今使われている壁と同じのオフホワイトのタイルにすれば、がたがたなのも目立たないとして、それを私からリチャードに伝えて欲しいと言うのだ。すでに乾いているタイルを剥がしてやり直すなんて、どれだけ掛かるのか今までの作業を見て分っていた上に、元来変なところで気弱な私は、美容院に行って変な頭にされても文句が言えず、“気に入ったわ、有難う”とニコニコと店を出てしまうような情けなさなのだ。

そこで、どうしても嫌だから、自分で話してよと突っぱねたが、リチャードが翌朝に来る頃にはまだジャックは通勤途中なので、この嫌な役目をしぶしぶと買って出ることにした。定刻の朝8:30になって、現れたリチャードに開口一番、実は...となるべく角が立たないように事情を説明して、もう一度その部分をやり直してもらうように頼むと、“これは元の土台がこう曲がっているから、まっすぐにタイルが入らないんだよ。誰がやってもこういう風になるんだよ。それにもう乾いているんだから、もう一度このタイルを取るには一日中掛かるって事ジャックは知ってんのかな。ま、とにかく彼と話したい”と怒りで歪んだ顔をプルプル震わせながら言った。

その時点ではジャックがまだオフィスに着いていなかったので、30分ほど待ってから、電話掛けるからそれまで待ってと言うと、リチャードは自分の道具が置いてあるガレージに行って何か作業をし始めた。その間時間を持て余しながらコンピューターに向かって楽天に日記を書いていると、彼が車で出て行く音が聞こえた。たぶんコーヒーでも買いにいったんだろうと思ってのんきにしていたのだが、1時間以上経っても帰ってこないので、ガレージを覗くと作業に必要な山ほどあった彼の道具は忽然と消えていて、私たちがもうすでに支払ったタイルとシャワーの解体に出たコンクリートの残骸だけが残されていた。なんという!!

その後すぐにジャックに電話を掛けて事情を話したら、彼も開いた口がふさがらないようだった。やっぱり文句を言わずに、あれで我慢して仕事を終わらせてもらったほうがよかったのかなあと後悔していたジャックは、取り合えずリチャードに電話を掛けて留守電にメッセージを残した。夕方くらいになってジャックのところに返事の電話をよこしたリチャードは、“高々修理の小さな仕事でこんなに注文の多いお客はあんたが始めて。もう関わりたくない。”と、話しの途中でがちゃんと電話を切ってしまったそうだ。

彼の費やした時間は丸々5日間、一番大変な作業も全部終えて後は床のタイルを入れるだけと言う段階まで働いた彼の賃金は請求されるだろうと覚悟していたのだが、リチャードはお客からのたった一言の文句が気に入らずに、$1000ドル近くの賃金を自ら棒に振ったのだった。ジャックと私はこの瞬間湯沸かし器の大工の態度に、呆れるやら、哀れに思うやらであった。

その夜、1時を過ぎても眠りにつけず、残されたコンクリートむき出しの不完全なシャワーから滴り落ちるポトッ、ポトッと言う寂しい音を聞きながら、この一連の出来事を振り返る私たち。いつまでもルームメイトのバスルームを遠慮しながら使っているわけにも行かない。残されたこの工事をジャックの思うような素敵なシャワーを完成させるためには、また新たな大工を雇わなくてはいけない。もしくは彼がこの気に入らないリチャードの仕上げた物で我慢して、後の残りを自分で終わらせるか。この修理に関しては始まった第一日目から散々苛々させられて、精神的に疲れきった私はもうお手上げ状態。勝手にしろと言われたジャックが次にどうするか、まあ、見ものである。





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最終更新日  2003.09.18 14:38:41
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