夢中人

夢中人

2010.04.19
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
まるで頭の芯まで冷やすような雨だった。

朝が来て目覚め、カーテンを開けるたびに落胆を隠せなかった。
ああ、今日もまた雨だわ、と。
そしていつまでもクリーニングに出すことのできない真冬用のモンクレールに袖を通す。


それでもあのとき、春は痛ましいほどのけなげさで、その優しいまなざしをこちらに向けようとしていたのだった。
分厚い雲のすきまから、私たちのささやかな営みを労うように。


駅まで向かう小道、あまりの寒さに不機嫌になりながら足元だけをひたすら見つめて歩いていたある朝。
視界の隅に飛び込んだある色彩に、思わずはっ、と顔を上げた。





ああ、と思わず声を上げた。
なんと見事な。


そして、やっぱりあのひとの影を、反射的に思い出してしまう私なのだった。
去年一番素敵だったお花見、それは。
夜中に待ち合わせて、彼がバックパックに詰めて運んできた、ややぬるいビールで乾杯をしたあの、公園。
高く高く、暗闇にモザイクのように浮かび上がる満開の桜の下で。



もうこんなにも、時間が過ぎてしまったのに、いつまでも前に進めない恋心。



去年の桜を見たあたしの瞳。
今年の桜を観たあたしの瞳。
そして来年の桜を想うあたしの未来。



あたしはまだ、ここに居るのだろうか?








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.03.26 03:38:10


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

さくら9812

さくら9812

Calendar

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

コメントに書き込みはありません。

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: