夢中人

夢中人

2010.07.30
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新しい恋に、単に浮かれた気持ちでいるのと同じくらいの分量で、繰り返し寄せては返す自責の念を振り払うことが出来なかった。
例えばこんなふうに、彼の出張にうっかりノリで便乗してしまった夕方の待ち時間。
彼の仕事が終わるのを、ひたすら待っている、ひとりきりのあたし。
甘い感じでゆるゆると暮れてゆく夏の強い日差しが鳴りをひそめて、東北の乾いた風が汗に濡れた髪を乾かしはじめる魔法の時刻に、ふと立ち止まって我に返るひととき。
蜩が一斉に合唱をはじめ、あたりは急に静寂に包まれて。
世界はこんなにも美しくて、こんなにもJOIA、祝福されているのに。
あたしはまた、同じ過ちを…
自ら選び取ってしまったのだ。

始めてしまった恋が、また不倫だったという陳腐な結末。

踏み入れて、しまったんだ。

そんなにもあたしはあの恋に苦しんでいたのだ。
決して振り向いてくれることのない男、身体だけを、快楽だけをただ搾取されていた。
知っていたのに、引きずられたのは惚れていたからだ。
だからこそ、誰かに単に好きになって欲しかった、誰かに必要とされたかった、誰かのひたむきな愛情を求めていたのだ。
もうこれ以上邪険にされている自分をかばいきれなかった。
それでも愛している、と言い切るには心が疲れ切っていた。
利用しかされていないとわかってしまうことは、強烈な自己否定に他ならない。
そういう精神状態が持続することは、かなりきつい。

だけどそれはもう、今やこの恋の言い訳でしかなかった。

彼のあの、会話のインテリジェンス、孤独さ、そして後ろ暗さ、それらのファクターはいとも簡単に私を夢中にさせた。

怠惰でがむしゃらなあたしを包んでくれる。家庭という安定がある人だけは。

背徳感とは、こんなにも蜜のようにあたしと恋を酔わせる。
そしてその味をあたしは確かに覚えていた。
それがどんなに今のあたしにとってアムリタ、甘露のようなものであっても、決して乾いた身体を、喉をうるおしてはくれないということも。

四年も一緒にいたあの人と、二年目からは一緒に暮らしていた。

それに関して罪悪感がなかったとは言わない。
だけどあたしは当然彼との結婚を信じていた。
ほかの不倫とは違う、これは純愛だと、単に出逢う順番が違っただけなのだ、と。
しかし彼が離婚することはなかった。
2人とも、泣いて別れた。
どうしてこんなに好きなのに、結ばれることはないのだろう、と。

でもそれがすべてだ。
それが不倫だ。

愛とはまた違うステージで交わされる契約なのだ。
日本の法律、結婚制度は本当にまっとうな人に優しく作られている。





On 2010/07/30, at 10:31, wrote:












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Last updated  2010.07.30 13:16:39


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