夢中人

夢中人

2010.10.08
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「今から行きます、恵比寿です」

ドアを開けたら、満面の笑顔。相当呑んでたらしいことは、彼の顔色を見ればわかる。
本当は約束していたのだ、その呑みの場に、彼の後輩が来るというその宴席に、あたしは参加する予定だったはずなのだった。
だけど待てど暮らせど、召集はかからなかった。
そして、PM10:00。
彼からのメール。
“ごめん、約束を忘れていたわけじゃない。だけどタイミングがないまま宴会が終わった”
その2分後、あたしのiPhoneが彼の着信を表示した。

タイトルは“夜明けの街に”。
皮肉にも、妻子ある男性と独身女性の不倫に殺人事件が絡むおはなし。自虐?そうかもしれない。だけど今あたしは、自分の置かれている立場から逃げたくないのだ。男性が婚外恋愛をするときどんな心境にあるのか、結末はどこにあるのか。
こんな勝気な性格で、あたしは妻の座は奪えない。
奪う気もない。
いや、本当に?
今彼がすべてを振り切ってあたしのもとにやってきたら、あたしは彼を歓迎するだろう。そんなカクゴくらいはもうとっくに、できている。まえの彼との不倫のときから。


結果的には彼はあたしに逢いに来た。
満面の笑みで、逢いたかったよ、と玄関であたしを抱きしめて。
しかし宴席に呼ばれなかったという事実に変わりはない。打ち捨てられたような気分だった。まるで振られたみたいに、あたしは彼の連絡を、お呼びを待っていたのだ。
この一連の出来事を一体どう解釈すればいいのか。呼ばなかったのか、呼べなかったのか。意図した作戦なのか、偶然なのか。それさえも猜疑心というフィルターをかけてしまうのは、きっと彼とあたしをとりまく恋愛という甘いムードの、とりあえずの終焉を示唆しているのかもしれなかった。不倫というくだらない関係に嫌気がさしはじめているのかもしれなかった。
だけど、こうも言える。

まだ、多分。


だけど今夜、なによりもショックだったのは、セックスだった。
いつになく彼がうちに長居をしたのは、明日が土曜日だということ以上に、あたしに対する面目のなさからだろう。
行為の途中で、彼が委縮したのだ。
酒のせいかもしれない。コンディションのせいかもしれない。ああいうとき、普通の男性ならいたたまれない気持ちになることを知っていた。だから、そのままあたしは彼の胸に少しだけ寄り添い、なにもなかったふりをした。そして彼とあたしは、裸のまま色んな、そりゃあもうたくさんの話をした。

乾いたからだ。
理由は明白だ。気持ち良くなかった、それだけ。
それに気付いたあたしが、多分それに気付いていない彼の倍以上のショックを受けていたことを気付かれなければいいのにと、祈ったほどだ。
セックスがよくないなんて、他にこの関係を続ける理由がどこにあるの。この問題は二人の関係性を根本から揺るがせる。それほどまでに重いテーマだ。


これは一体どういうこと?
宴席に呼ばれなかったことがそんなにもショックだったのか。メンタルがフィジカルに及ぼす影響をこんなにも実感するなんて。
今日のあたしは疑問だらけだ。


・・・そういうことか。
快感にのめり込めなかったのは。
疑問符で頭をいっぱいにして抱かれても、あたしに快感はやって来ないということか。
ひとり残された部屋で、彼が飲み残したビールを捨てるとき、どこか心の一部も一緒に排水溝に吸い込まれたような、気が、した。





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Last updated  2010.10.09 03:34:23


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