じんさんのお部屋です。

PR

Calendar

Comments

じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年03月20日
XML
**************************************************

織田、徳川両軍の数は二万八千。

その中へ信長が、自分の勢力範囲内で集められるだけ集めた鉄砲隊が三千五百まじっている。
岐阜を発するときに、信長が、わざわざ一人一人にかつがせてやって来た数万本の材木で、連子橋から弾正山の左まで、三重に柵を作らせることになっている。

この三十の柵はいわば騎馬戦に長けた武田勢をここで足踏みさせる罠なのである。
一挙に家康、信長の本陣をつこうとして、必ず甲州勢はこの馬防柵に突撃を試みるに違いない。そのときに、三千五百の鉄砲隊が、ここに食い止められて密集してゆく敵めがけて一斉射撃を浴びせかける.....というのが、信長の練りに練った秘策であり、必勝の戦法であった。

それだけに信長は自信満々、家康には遊山にでも来たつもりで見物しているようにと言ったのに、家康は、「.....これだけではこころもとない」といったのだ。

「ほほう、これではまだ足らぬと言われるか」
信長は意外な言葉に眼を光らして、



家康は答える代わりにゆっくりと首をかしげて考えて、
「武田勢は必ずこの場防柵へ突進して参ろうか」

「ハハハ.....その事ならば手は打ってある。案じなさるな」

「しかし、敵がこの罠へかかって来たとしても.....」と、言いかけてまた言葉をきって、
「わが家臣に、酒井左衛門尉忠次と申すがござりまするが.....」

なにを思ったのか突然妙なことを言った。

「なに」信長はこれもふっと用心深い上目になった。
家康が何を考えているのか、それを嗅ぎ出そうとする鷹の眼であった。

「忠次ならば、改まってお身に言われずとも、何度も俺がもとへ使いしているゆえ知っている。あの忠次がどうしたと言われるのだ」

「忠次はなかなかの戦上手、この者をお呼び出しになって、いまひとつ策略をおたずね願いたい」

今度は信長がしばらく厳しい表情で考え込んだ。


「小平太、忠次をこれへ」
家康はそういってから、扇の要(かなめ)を場防柵の起点になっている連子橋の外へあてた。

「ここへは、わが家臣の大久保兄弟を囮(おとり)に出しておかれたい。ここまで織田勢に働いていただいては、家康ちと心苦しい!」

信長はニタリと笑った。
家康の律儀さと取れば取れないこともなかったが、信長はそうは取らなかった。



しかし、それでいいのだとも思った。二人の大将が互いに策と力を競いあい、双方の長所を生かして戦うところに連合軍の強みは生まれてくる。

「大久保兄弟とは、七郎右衛門忠世(ただよ)と治右衛門忠佐(じえもんただすけ)がことでござるか」

「仰せのとおり、彼ら兄弟に、わが方の先手をつかまつらせとう存ずる」
「相分かった!大久保兄弟ならば異存はない」

と、また考えて、
「もし、柵外の大久保兄弟苦戦の節は、北方からわが家臣、柴田、丹羽、羽柴の三将をもって柵外へ討って出させよう」

そう言ったときに、呼びにやった酒井忠次がやって来た。

幕内の諸将と随臣の眼はいっせいに酒井左衛門尉忠次にそそがれた。
信長の戦略にあきたらぬらしい家康が、自分でもなぜ不安なのかよく分からぬゆえ、呼び出して訊いてくれと言ったのだから、無理からぬことであった。

「おお、忠次か」
家康よりも先に信長が手招いた。

「おぬし、今度の戦について、何か思いついた策があらば申してみよ。遠慮はいらぬぞ」

「はッ」
忠次はエビ掬(すく)いのときとは人が違ったような厳(いか)つさで信長の前に進むと、片膝ついてそこに広げられた絵図面をのぞき込んだ。

「武田勢が、わが方の陽動隊を追ってここ、有海ヶ原へ兵を押し出してまいりますと、後ろが空になるかと心得まするが」

「それは空になるであろう」
「そのときひそかに後ろへまわって、鳶の巣山の砦を乗っ取ってはいかがと存知まする」

「なに、敵の後方の鳶の巣山を.....」
「はい、この役目、もしそれがしに仰せつけ下さりまするならば、前夜のうちに敵の背後にまわり、明け方には鳶の巣山を乗っ取ってご覧に入れまする」

忠次は気負った語気でそう言ったが、家康は眼を細めて、聞いているようでもあり、聞いていないようでもあった。

信長は鋭い眼でチラリとそれを見てから、とつぜん大声で笑い出した。

「これ忠次!」
「はいッ」

「この信長はな、四十二歳になって、始めて古諺(こげん)の意味をしったわ。蟹(かに)は甲羅に似せて穴を掘るとな。ハッハッハッハ、たわけ者め!今度の戦を何と心得ているのじゃ。野臥(のぶ)せりや山賊どもの戦ではないぞ。そのようなこそくな働きはな、三河や遠江で二百か三百の小勢で戦うときに用いる手じゃ。その方の器も相分かった。退れ!」

いったん嘲(あざけ)りだすと息の根も止まるような悪罵を浴びせる信長だった。
忠次は真っ赤になってうなだれ、並みいる諸将も思わず顔を伏せていった。

家康だけがいぜんとして黙っている。
「では、ごめん下さりませ」
忠次が下がってゆくと、また軍議は続けられた。

しかしその軍議はどこまでも、敵が見方の馬防柵にうまく誘(おび)き寄せられた場合の想定にもとづくもので、敵が来なければ、当然練り直さなければならないものだったが......
とにかく空が薄墨(うすずみ)いろになるころに、一応評定は終わって、諸将はそれぞれ各自の新しい野陣へ引き取っていった。

「徳川どの、お忙しかろう。まだお引き取りなさらぬか」

後に残ったのが家康主従だけになると、信長は笑いながら、
「やはり見抜かれたか。では、今一度忠次を呼んでいただこうかの」

家康はそれを当然のことのように、

「小平太、忠次を呼んで参れ」
と、静かに言って、信長に視線を転じた。

「これで勝ちましたな。いや、ようやく勝つと腑におちました」
一語一語に力をこめてうなずいた。

忠次が入ってきたときには、すでにあたりは暗くなって、かがり火の上の空には星が光りだしていた。
忠次の顔色は蒼白く、頬の尖(とが)りが警戒と怒りをただよわしているのが分かった。

「忠次、これへ来い」
家康はおだやかに、忠次を手招いた。

「織田どのが改めてその方に話があるそうな」
「はッ」

忠次が二人の前へやってきて方膝つくと、信長は手を振って、二人残った近侍を遠ざけた。

「忠次、もっと近くへ来い」
「はッ」

「さすがは徳川どのの片腕、さっきの作戦、信長心から感服したぞ。実はの」
「.......」

「陣中といえどもなかなか油断はできぬのだ。ついこの間も甘利新五郎と申す敵の間者がまぎれ込んで来ていての、これは、わしが、見事に逆に使うてやった。それゆえ、敵は必ず決戦を挑んで有海ヶ原へ出て参る。だが、出て参った敵がわが方の最初の一撃にあって、これはいかぬと気づき、そのまま引き上げたのでは漁は少ない。そのために、何かよい策はないものか.....と、しきりに考えていたところじゃ。決戦の日の早暁、鳶の巣山砦を乗っ取る、いや見上げた策じゃ。信長ほとほと感じ入った。が、夜襲はの、敵に洩れては成功せぬ。それで諸将の前ではわざとその方を嘲(あざけ)ったのじゃ。よいか、明日一日は柵の打ち込み、そのほうは明晩ひそかに行動を起こして、敵が有海ヶ原に出てきたときに鳶の巣山を乗っ取れ。よいか、その方に鉄砲隊五百をさずけよう」

「そ.....そ.....それはまことでござりまするか」

忠次は、あまりのことにキョロキョロと家康を見やり、信長を見やった。
家康はいぜん薄目を閉じて聞いている。

「ハハハ、せっかくの妙案、どこから洩れてもならぬゆえ叱ったのじゃ。許せよ忠次。実はな、この信長、その夜討ちには自分で行きたいほどなのじゃ。のう徳川どの、あたら手柄を忠次に取られてしまう。惜しいことだぞ」

家康は、こくりとうなずいて忠次に、
「鉄砲隊五百.....しっかりやれよ」

「ははッ!」
「気づかれぬように」

「心得ました」
「では、それがしもお暇して、早速あれこれと諸将に手配りをいたしまする」

家康が丁寧に一礼して立ち上がると、信長は無遠慮にその肩をたたいた。
「ボツボツ馬防柵の杭打ちの音が聞こえだした。ハッハッハ.....えもいわれぬよい音だのう、徳川どの」

かくして、織田、徳川の軍議はきまった。

と、同じ夜に、医王寺山の武田勝頼の本陣でも、宿将重臣たちが額をあつめて、いくさ評定をひらいていた。

百目蝋燭(ひゃくめろうそく)をたてつらねた仮屋の中はまるで蒸し風呂へ入ったような暑さで、諸将の顔はテカテカと油汗に光っていた。

「では、どうあっても、ここで決戦なされまするか」

正面の勝頼に、思い切り悪く言ったのは馬場美濃守信房だった。

**************************************************
参考 山岡荘八・徳川家康第七巻/知略戦略より

つづく

最初から読んでみる?



*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006年03月20日 13時23分34秒
コメント(2) | コメントを書く
[私の好きな言葉集/山岡荘八] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: