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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年05月15日
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「なにッ、負けたときは退くのが戦の定法だと.....」

場所が場所だけに、気の立ちすぎている渡辺半蔵が、眼をむいて本多正信に食ってかかった。

「貴殿はいったい、いつ戦の法を学ばれた。どこの戦で、どのような経験をしたというのだッ」

と、高木主水はあとを引き取って、
「いかに佐渡どの、こなた、座敷の上で算盤(そろばん)持つ姿は見かけたが、戦場で命を的の働きはしたことがござるまい。戦はのう、体を張っての駆け引きじゃ。畳の上の算用や鷹狩りとは違うのじゃぞ。差し出口はお控えなされッ」

「じゃと申して」
「じゃも蝮(まむし)もない。われらはこなたに話しかけているのではござらぬ。殿!」

家康はいぜん微笑を唇辺にうかべて黙っている。


火を噴くような眼をして家康に詰め寄った。

「わかった」
家康はしばらくして、はじめて、大きくうなずいた。いかにも考えぬいた結果と見せて、その実、初めからそのつもりだったのだ。

「馬を曳け!前進しようぞ」
「はッ」

これですべては決定した。
小者頭の久右衛門が、くつわを取って馬を据えると、家康は肥(ふと)った体で、ゆらりとそれにまたがり、

「万千代!」
と、声高に叫んだ。

今は凛々しく赤母衣(あかほろ)つけた十九歳の若武者井伊兵部少輔直政は、
「はッ」


「掛かるぞ。待ったであろう、いけッ」
「かしこまって!」

高木主水と渡辺半蔵とは、内藤四郎左衛門と本多正信をぐっと鋭く一瞥(いちべつ)し、肩をいからせて家康の先に立った。

家康はそのまま色ヶ根山を下って、矢作へ出で、さらに香流川をわたって長久手の冨士ヶ根山をめざしてゆく.....

そのころ.....


戦半(なか)ばの首実検ゆえ、ただあらためて首長に記すだけでもよかったのに、いちいち古式にのっとる検(しら)べ方で、さらに盃ごとまであったのだから、知らぬものの眼には、勝ち誇った勝入が得意満面の姿と見えたに違いない。

が勝入は首級をしらべながら何度右足のくるぶしを踏んでみたか知れなかった。
駕(かご)乗り物の用意はない。とすれば、でき得る限り負傷をかくして、陣頭を馬で進んでゆきたかった。

(馬を撃たれ、足を踏み砕くとは.....)

しかし、戦には勝っているのだ。不運の芽と思うては鹿島の神に相済まぬぞ.....そう思ったとき、

「申し上げます!」
近侍の一人が転がるように幕の入り口へ膝をついた。

勝入はびくりと上体を動かして、
「何じゃ、あわてくさって。いましばらくじゃ首実検」

しかし近侍は勝入の発言を無視して、言葉をつづけた。

「白山林にありました三好勢、敵の追撃にあって壊乱いたした由にござりまする」
「なに!?」

勝入もおどろいたが、かたわらにあった伊木清兵衛忠次も、片桐半右衛門も、サッといちどに頬を硬ばらせた。

「総大将、孫七郎秀次さまの小姓頭、田中吉政どの、見に数創を負われて、直々注進、これへお通し申しましょうや否や」

「通せ!」
叩きつけるように言って、ウームと勝入は唇を噛んだ。今度は足の痛みどころではなかった。心の芯の芯までえぐり抜かれたような衝撃だった。

(筑前に済まぬ!秀次を討たせては.....)

そこへ幽鬼のような表情で田中吉政が、勝入の近侍にたすけられて入って来た。

「吉政!」
「は.....はッ」

「傷は浅いぞ。たわけめ、眼を開けッ」
「はッ」

「秀次どのは、孫七郎どのは.....何としたぞ。生死は.....生死は.....」
急(せ)ぎ込んでたずねられて吉政は、じっと宙へ視線をそらした。

「早く、救援.....」
「生死はッ」

「相変わらず.....少しも早く.....」
「家康自身か、敵は.....」

そこまで聞いて勝入は舌打ちした。吉政の疲れすぎているのが分かり、聞きただしている自分に腹が立ったのだ。

「吉政に手当てをして取らせ。それから.....」
勝入はあわてて視線をおよがせながら、次男の三左衛門輝政の上に眼をつけると、

「三左、紀伊守に申して来いッ」
「はッ、兄上に.....」

「困った!筑前どのに義理が立たぬ。いや、義理ではない、武士の一分が相い立たぬ」

「父上!」
「万一孫七郎どのに.....いや、木下利直、利匡がついているゆえ万々さようなことはあるまいが、もし万一のことあらば、こなたたちも生きて戻るなと.....そう伝えよ!」

三左衛門輝政は、ふと父の混乱を哀れむ顔になったが、思い直したように、
「かしこまってござりまする」

すーっと立って出ていった。
それを合図に一座の者は総立ちになってゆく。

「馬を曳け!行く先は白山林じゃ」
「はい」

「何をうろたえるておるぞ。急げッ」

陽はすでに頭上に近く、時々それを雲が蔽った。心に狼狽がなかったら、若葉のそよぐ、爽やかな風のささやきに眠気をもよおすような、静かな晩春の昼近く.....

勝入は足の痛みを忘れて、
(筑前に相い済まぬ!)

同じことを胸いっぱい渦巻かせ、引き立てられるように六坊山をはせ下った。
ダダダーンとまた新しく、はげしい銃声が長久手の山野を揺すった。

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参考 山岡荘八・徳川家康第十巻/乱戦より

つづく

山岡荘八的お部屋へ入ってみる


*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2006年05月15日 16時31分45秒
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