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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
プー&832@ 日本代表残念でしたね(o>Д<)o お久しぶりです☆.゚+('∀')+゚. 覚えていない…
じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2006年05月16日
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勝入が六坊山をはせ下って、長久手に出たときには、戦線はもはや、いずれが敵か、いずれが味方か、見通しがたい混乱の中に突き入っていた。

それがいっそう彼から百戦錬磨の、身についた不敵さを奪っていたのだが、途中で出会う幾組かの敗走兵は、みなその所属を異にしていた.....

まっ先に出あった足軽風の男に、

「誰(た)が手の者ぞ!」
と、訊(たず)ねるとその男は、

「三好勢にて候(そうろう)」
叫びざま、韋駄天走りに路傍の薮にかくれていった。

次に出遭った、まだ若い雑兵(ぞうひょう)は、


馬上から叱咤すると、憎悪にみちた目をむけて、

「われらは堀勢、遁れるのではない。進むのだわい」
悪罵を投げて眼にも止まらぬ素早さで三河の方へ駆け去った。

むろんこれも味方の配色に、戦場離脱を企てている半狂乱の悪罵であった。
三度目に出会った壮年の雑兵は、全身に手傷をうけて槍にすがっていた。

「誰が手の者ぞ!」
勝入がたずねるのに、ヨロリと槍をつけて来た。もう視力があがっているらしい。

「敵か、そちは.....」
相手は、それに応えず、

「大久保七郎右衛門が家臣、磯部(いそべ).....」
名まで言い得ず、そのまま赤土の上へ倒れた。



(筑前に済まぬ)

勝入が岩崎城などにこだわらず、そのまま三河を目指していたらもう味方は、誰もこのあたりにはいなかったであろうのに.....

あたりの地形は徳川勢の得意な野戦に最適のものと見てとれたし、堀勢までが敗走兵を出しているのでは、秀次ばかりか、秀政も武蔵守も、苦戦しているのに違いない。

銃声はしきりに前後で聞こえ出した。

勝入自身がしだいに戦場のまっただ中に出て来ている証拠であった。ピュッと弾丸が耳元をかすめて左手の松の幹に打ちあたった。



そのはずだった。

そのころにはすでに、戦況は、はじめの一勝一敗の均衡(きんこう)を完全に失ってしまっていたのだ。

秀次勢を破った余勢をかって、堀勢に襲いかかった大須賀、榊原の二隊が、檜ヶ根で敗れて混乱しかけているところへ、家康の命によって、出撃してきた十九歳の井伊直政が、剛兵三千をひっさげ、六百挺の鉄砲の筒先をそろえて、堀勢に立ち向かってきたのである。

そうなると堀勢は浮き足立ち、逆に、榊原勢と大須賀勢は、態勢挽回(たいせいばんかい)、三河者の名誉を賭けて、悪鬼のようにあばれだした.....

なんといってもこの戦場での重荷は、三好秀次だった。

彼が戦に不馴れだというばかりではなく、実子のない秀吉にひどく愛されている肉親の甥だということだけで、みんなの頭脳に計り知れない負担をかけていた。

もし、秀吉に計算おちがあったとしたら、この点だったであろう。勝入ははじめからそのことにこだわりすぎていたし、堀秀政もまた白山林を気づかって動作を掣肘(せいちゅう)されている。

彼がもし、さっさと秀次を見捨てて、森長可とともに、池田勢と合体していたら、十分徳川勢と対抗し得たに違いない。

ところが、堀勢が森勢と合体したときは、堀勢が敵の猛攻を支えきれずに追われだしての合体であった。

流れる水圧は支えがたい。森勢はそのために、かえって、その場へとどまる力を半減される結果になるのは当然だった。

こうしてすべては家康の思う壺へと戦況は進展していった。井伊直正はまっ先に立って堀勢を追いながら森武蔵守に襲いかかり、榊原康政と大須賀康高がこれに続いた。

森武蔵守が歯ぎしりして、これを迎え討ったのは言うまでもない。
と、そのときになって、六坊山を降りてくる池田勢と、森武蔵守勢の中間へ、家康は旗下を引っさげて、とどめを刺しに冨士ヶ根山を下って来たのである。

勝入の耳に、銃声も鬨の声も、四方八方から聞こえだしたのはこのためだった。
第四の敗走兵が四人、彼の馬の前で、力尽きて倒れたときには、もう、勝入の周囲には嫡子の紀伊守元助も、次男の三左衛門輝政もいなかった。

全神経を火のような逆上にかり立てる肉迫戦が、すでに彼らの皮膚にまで迫っている証拠であった。

「誰が手の者ぞ!気を確かに持て」
と、ここでも、勝入は、自分自身を叱るようにたずねていった。

四人は主従らしかった。さして身分のある者ではない。が、主らしい二十二、三の若者は、槍傷らしく、右脇腹をしっかりと押さえて、

「森勢にござりまする.....」
と、虚空を見据えた。

「森勢も崩れ立ったか!?傷は浅いぞ、頭を下げるなッ」

しかし、その若者はそれなりガクリと首を垂れ、援けようとすがっていた五十近い小者の方があわてて、若者の体をゆすぶりながら答えた。

「武蔵守さま討ち死になされてござりまする」

「なに!?武蔵守が討ち死にしたと.....」

「はい。敵を食いとめようとなされて、馬上で指揮中、鉄砲に眉間(みけん)を割られ.....そのまま声もなくご落馬.....」

「声もなく、死.....死.....死んでいったか」

「その首級、たしか、大久保七郎右衛門の家来、本多八蔵と申す者に掻き取られてござりまする」

勝入は一瞬目の前が真っ暗になっていった。

全身で敗戦を知ると同時に、ズキン!と足の傷が痛んだ。
と、そのときに、すぐ眼の前で、ワーッと小高い丘が鳴った。

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参考 山岡荘八・徳川家康第十巻/乱戦より

つづく

山岡荘八的お部屋へ入ってみる


*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2006年05月16日 13時27分03秒
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