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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
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2007年06月23日
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**************************************************大乗小乗.5

「それまでの御心事とは、こよい初めて伺いました。志の小、身の至らなさにひき較べ、義清はただ恥じ入るのほかございませぬ。.....要らざる小人の煩い事をお耳に入れ、折角の静夜をおさまたげ仕りました。どうぞおゆるし惜きを」

彼は心から詫びた。

また、蒙(もう)を啓(ひら)かれて、謙信のなして来た戦が、何を意義しているものかを、初めてはっきり覚り得た。

そう分かると、連年、甲州との合戦が、一村上義清のために起こっていたものと考えていた事は、義清自身、恥ずかしくなって、消えも入りたいここちだった。

謙信は言葉を和(やわ)らげて、
「いやいや、わしこそ、思わず今宵はちと激語を吐いた。実申せば、このたびの川中島の対戦に、年来子飼いの家の子郎党など、可愛ゆき者を三千余名失うて、この謙信も人知れず、愁心癒しがたいものがある。いや、心に受くるその傷みにおいては、御許(おもと)よりも、誰よりも、謙信こそはその重責と傷心に深く自らを鞭打つものだ。ましてや今宵の如く、戦の後、いとど寂やかに時雨るる夜などは」

と短檠(たんけい)の灯にじっと、眸(ひとみ)をこらして、なおいおうとしたが、義清の惨心に思いを遣り、またあまりにいい過ぎては味もないとするように。

「....察しられい。此方の心中も」


「されば、たとえこの後、いよいよ戦場に屍(しかばね)を積み、この越後一国、夫なき妻と、父なき子らに満とうとも、なんぞ、それは一個御身のせいではない。身ひとりのためかように気を小さく萎(な)められるな。それよりは、其許(そこもと)のいのち一つも、謙信が命一つも、息あるうち、いかに大きく捧げ奉らんかを、朝暮に都の方へ向かって念ぜられよ」

その夜の話はそれだけであった。けれど村上義清は、わが邸にもどってからも、終夜(よもすがら)謙信の言葉を思い、その心事を玩味してみた。そして何かしらここ十年来は忘れていたような快い安らかな眠りにひきこまれた。

この日までは、戦といえば、ただ参たるもの、激しいもの、苦痛なもの、犠牲を出すものとのみしか考えられていなかったのが、にわかに、大きな意義に行き当たって、いまや幣悪(へいあく)の脱穀、次への建設など、戦によらねば成し遂げられない日本国全土の改耕(かいこう)こそ、戦であって、それに流す血も、それに埋める白骨も、すべてただその忠業に帰一してゆくものなることを彼も覚(さと)ったのである。

以来、義清は、眠るにも、安らかな鼾(いびき)をかき、醒(さ)めても快活になり、また戦う日には、なおさら大らかに先頭へ立ち、年五十過ぎてからいよいよ勇敢であったという。

**************************************************大乗小乗.6
参考 吉川英治・上杉謙信/静夜・歌心・窮鳥・苦衷の義清・大乗小乗・昨夜風雨窓前を打つより

おわり

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*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2007年06月23日 12時19分24秒
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