劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.05
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カテゴリ: 演出ノート(3)
まやの母親、洋子が帰ってきました。知人の葬式に出ていたそうで、喪服姿です。彼女は葬式の会場で、変な詐欺師の話を聞いてきました。故人の戦友を名乗って訪れた男が、仏壇に手をあわせてゆく。ところが彼が帰った後、お供え物がなくなっていたり、仏壇にしまっていたへそくりがなくなったりしていることが続いていると言うのです。大下と言って訪ねてきた男は、間違いないのかなと言って、まやを怒らせてしまいます。

まやが二階に上がると、洋子はビールや食器を片付けます。仏壇の引き出しを開けて、財布の中身を確かめます。一安心するでしょう。そしてふと、仏壇の白い封筒に気づきます。
菊と花代ものぞき込みます。二階でオーボエの音がします。

洋子は封筒の裏に書かれた名前を見ます。「青木昭一……? なんやろ、これ」。その不審は、菊と花代も同じです。洋子は中の紙を読みます。それは思いがけない内容でした。

「花代さん、長いことだましてすみません。大下勇は、わしの戦友です。山口県の出身です。(略)西瓜作りの農家の出身でした。大下勇は、花代さんの写真を千人針の腹巻に入れて、『花代さんにわしの作った西瓜を食べてもらいたい。日本へ帰ったら、相島の西瓜を下げて行って、三谷花代さんをヨメにもらうんや』と言い続けておりましたが、宣昌のあたりで、敗戦になるちょっと前に病気で亡うなりました」
ここから青木(大下勇と名乗っていた)の声に代わります。わたしは、ここは青木の姿が見えるべきだと思い、青木を舞台奥に出して、彼に客席に向けて語らせました。

「大下の実家の人に遺品を届けるつもりでしたが、花代さんの写真と手紙以外のもんは、戦争の中でのうなってしまいました。あんたの写真を腹巻に入れとる間に、あろうことか、わしが花代さんの写真に恋をしてまいました。すんません、お許しください。大阪の花代さんのうちへ来たときは、大下勇のことをつたえるつもりで……福山の、というたあとするっと大下勇です、と続けてしまいました。それからずっとわしは大下勇でした。わしのほんまの名前は、青木昭一です。(略)大下君と花代さんの恋をわしがぶちこわしたようにずーっと思えて、それに、もし二人が結婚しておったら生まれたかもしれん子どもさんらも、その子どもらのこどもさんらも、未来永劫に葬ったのは、わしではないかと自分を責めてしもうたりします。ほんまに戦争いうもんは……わしは花代さんの写真と手紙を、大下に……」
青木が取ってしまった行動。どこにも悪意はありません。彼が会ったこともない花代に恋をしてしまった、その気持ちはよく理解できます。最初につい、大下勇と名乗ってしまった。それはその名前が、花代に恋を告げる「資格」のようなものに、彼の中でなっていたからでしょう。一度名乗ってしまった以上、そして花代が死んでしまっている上は、彼はそう名乗り続けるしかなかったのです。この家に毎年訪れる以上は。その訪問は、彼の純情、恋心の証しであり、大下勇と花代に対する、真心であったと思われます。
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.05 09:00:14


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