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2009年02月23日
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カテゴリ: 戦争映画
2007 チェコ・スロバキア 監督:イジー・メンツェル
出演者:イヴァン・バルネフ、オルドジフ・カイゼル、ユリア・イェンチ、マルチン・フバほか
120分 カラー OBSLUHOVAL JSEM ANGLICKEHO KRALE /I SERVED THE KING OF ENGLAND

DVD検索「英国王 給仕人に乾杯」を探す(楽天)

 第二次世界大戦前夜から社会主義国家となった戦後までのチェコスロバキアを舞台に、一介のチェコ人給仕人(レストランボーイ)が織りなすラッキーとアンラッキーの繰り返しを描いたコメディタッチのヒューマンドラマ。なかなかチェコ映画を見る機会はないのだが、イジー・メンツェル監督はチェコでは著名な監督だそうで、原作者のボフミル・フラバルもチェコではカリスマ的な小説家なのだそうだ。日本ではメジャー級公開ではないが、ヨーロッパ等ではかなりの評価があるらしい。
 チェコスロバキアと言えば、1938年のドイツによるズテーテン地方併合(占領)を皮切りに、1939年にはチェコのドイツ保護領化、スロバキアのドイツ管理下独立と、ヒトラードイツに蹂躙された暗い歴史を持っている。さらに、プラハがソヴィエト軍に解放されたため、戦後は共産主義体制のもと東欧的社会主義の独裁圧政に抑圧されてきた。本作は1963年までを描いているので出てこないが、1968年にはプラハの春という激動を経験しているし、1989年のビロード革命まで文化・経済ともに暗い閉鎖性を余儀なくされたのだ。
 それだけ暗いチェコスロバキアの歴史を題材にしているのだが、意外にも本作はとにかく明るい。それでいて、明るいながらもきちんと負の歴史を描ききっているのが凄い。ボフミル・フラバルが原作を執筆したのは1971年頃で、共産党政権下でこういった作品は公開できないため、ずっとアンダーグラウンドで読まれていたそうだ。お隣ポーランドの作品でもそうだが、表現の自由を取り戻したあとの爆発的なエネルギーを感じる。とにかく、作品を自由に作れる楽しさ一杯なのだ。戦争系のチェコ映画だと「 大通りの店 (1965チェコスロバキア)」があるが、これは抑圧下のため微妙な作品に仕上がっている。

 内容は第二次大戦前から戦後までを描いた割に、非常にコンパクトに凝縮してまとめあげている。たかが120分でこれだけの期間の描写をわかりやすく、テンポよく見せるのは見事だ。主役の給仕ヤンは青年時と壮年時を二人の役者で演じており、共産党に逮捕され懲役を受ける15年間は空白となっているのだが、まるで違和感がないし、フラッシュバックシーンの転換もテンポ良い。一つ一つのエピソード描写も深入りせずにインスピレーションを働かせる作り込みになっているのが心地よい。
 それに加え、主役のイヴァン・バルネフのコメディチックな演技が楽しい。かなり小柄なのだが、そのコンプレックスを逆に利用し、出世と笑いに変えてしまうのが小気味よい。髪型をちょっと変えるとヒトラーに似ているのも面白い。
 また、何と言っても本作に描かれる女体の美しさは特筆ものだ。バストトップどころか全裸の女性が続々と出てくるのだが、これが皆美しい。エロチックな部分もあるのだけれども、それ以上に女性のラインや魅惑的な所作に見とれてしまうのだ。本作では金持ちの道楽が一つの大きなテーマになっているのだが、道楽の定番である「美食」と「女性」が何度も登場する。おいしいものをひたすら欲するのと同様に女性も欲するが、それが単なる性的行為への欲求ではなく、女性美つまり女体の鑑賞というのがいかにも金持ちらしい。

 全般にコメディタッチなのだが、随所に元社会主義国家ならではの皮肉やブラックな面も隠されている。冒頭の出所シーンから「・・・刑期は15年。幸運にも、恩赦のおかげで14年と9カ月で釈放された」なんて出てくるが、恩赦か・・・おいおい、たった3カ月かいと突っ込んでしまった。
第三帝国の野望 (1961独)」がある。

 オープニングやエンディングに流れるピアノ音楽も印象的だ。日頃映画の音楽には無頓着な私だが、本作では随所で音楽に引き込まれ、映画のイメージにぴったりだった。
 役者は余り見たことのない人ばかりだが、主役のイヴァン・バルネフを始め、給仕長役のマルチン・フバなど、なかなかの個性派だ。ドイツ人女性を演じたユリア・イェンチは「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々(2005独)」でも主役を演じており、本作ではヌードも披露。
 また、小柄なエチオピア皇帝が登場するが、なんとチェコの女性シンガーが演じているのだそうだ。

 全般にとても見やすく、後味の良い作品だった。テンポや場面編集のテクニックにも非常に感銘を受けたし、チェコスロバキアの歴史をしっかりと描いており、侮れない名作と言えるだろう。

興奮度★★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)


ヤンは国境に近いズデーテンに行き、道路工事の労働につくことになる。借りた一軒家は終戦で追い出されたドイツ人たちのボロボロの元ビヤホールだったが、そこを修理しはじめる。近所には同様にプラハ再教育監獄から出てきた音楽の樹を探す大学教授と娼婦のマルツェラがいた。そんな生活をしながら昔を思い起こすのだった。
 ヤンは1930年代に駅のソーセージ売りをしていた。お釣りを渡しそびれるふりをして小銭を稼ぎ、小銭をばらまいては拾う人々の姿を楽しむ日々だったが、次に小さなレストランの給仕人として働くようになる。レストランでは町の名士達がビールを注文し、様々な話題で盛り上がる。その中に行商で儲けた小柄の男ヴァルデン氏がおり、臓物料理以外を全て注文するのだった。ヴァルデンはかつて駅でお釣りをヤンに取られた男だったが、小柄のヤンを気に入り、自室に招き入れる。ヴァルデン氏は自室の床にお金を敷き詰め、ヤンに「上手にコインを捨てることを覚えれば、やがて札束になって帰ってくる。金があれば世界はお前のものになる」と言うのだった。
 ある日、レストランの軒先に美しい女性が雨に濡れて立っていた。支配人は中に招き入れ、濡れた女性に客の注目が集まる。彼女はヤルシュカといい、近くの売春宿天国館の娼婦だった。ヤンは稼いだお金を握りしめ、天国館のヤルシュカを訪ねていく。ヤルシュカに導びかれ事を終えると、ヤンはヤルシュカの裸体にヒナギクの花を飾るのだった。それからヤルシュカはヤンにぞっこんとなるが、余りに懇意になりすぎたたため、支配人とぶつかりレストランを辞めることになってしまう。
 次にヴァルデン氏の紹介で勤めたのは、ユダヤ人チホタ氏の経営するチホタ荘だった。チホタ荘には大富豪や将軍がやってきて、豪華な料理と女達を堪能していた。客達は奔放に遊び、食べ、最後は女達と部屋に消えていく。ヤンも女給仕のヴァンダに誘われる。翌朝、帰り際に将軍は支払いを済まそうとするが、食べ物や破壊したものなど膨大な金額だった。しかし、将軍は平然と金を払い、支払額よりも多い残りの札束をヤンにチップとして渡すのだった。ヤンはまたしてもここを辞めざるを得なくなるのだった。
 次にヴァルデン氏に紹介されたのは、プラハで一番の高級ホテル・パリのレストランだった。そこには英国王の給仕をしたこともある優秀な給仕長スクシーヴァネクがいた。スクシーヴァネクは客を見ただけで客の国籍、注文がわかるのだった。そこでスクシーヴァネク氏にかわいがられるヤンだったが、主任給仕には嫌われていた。オーナーのブランデイス氏のお気に入りだった主任給仕だったが、ヤンが足をひっかけたために料理をこぼし、プライドの高い彼は店をやめる。代わりにヤンが主任給仕に昇格するのだった。
 店の二階では金持ちらが裸の美女を肴に料理を楽しんでいる。ヤンは宴席が終わると裸の美女と事を始め、裸体にフルーツを盛りつけるのだった。
 ある日、エチオピア皇帝の晩餐会がホテルで行われることになる。アフリカ料理を披露し、皇帝が給仕長に勲章を授けることになる。しかし、背の低い皇帝はスクシーヴァネクの首に勲章をかけることが出来ず、隣にいたヤンにかけてしまう。こうしてヤンは勲章を手に入れるのだった。
 時代が変わり、ズデーテン地方がドイツ支配下に置かれる。街ではドイツ人が威張り始めるが、チェコ人たちはドイツ語を話すことも、ドイツ人の客を入れることも拒否して抵抗する。だがヤンはチェコ人の不正も嫌いで、街で虐められているズデーテンのドイツ人女性リーザを助ける。それが縁で二人はつきあいはじめるが、ドイツ人のリーザと親しくするヤンを、スクシーヴァネク給仕長は気にくわない。ついにヤンはホテル・パリもスクシーヴァネク給仕長のもとも去らねばならなかった。それから間もなく、チェコはドイツの保護領となり、ホテル・パリはドイツ軍人らで占められるようになる。
 リーザはドイツ純血主義を信奉しており、チェコ人とは結婚できないが、ヤンの祖父の名にドイツ系の名があり、リーザはヤンとの結婚を決心する。晴れて結婚したヤンは、ドイツ軍に入隊したリーザの勧めで、ドイツ軍が接収したチホタ荘で働くことに。そこはスラブ民族優生種を生むための若い男女が生活する「優生学研究所」だった。裸のドイツ人女性と軍人らに囲まれてヤンは給仕をする。
 妻のリーザは前線に赴むくこととなり、ヤンはそれを見送るが、その奥の貨車に詰め込まれたユダヤ人のヴァルデン氏を見かける。ヤンはパンを渡そうと走るが、ヴァルデン氏に渡すことは出来なかった。
 やがて、リーザはユダヤ人の家から奪ってきた切手とともに帰還する。莫大な価値を持つ切手を売ればホテルも買えるのだった。だが、戦局は悪化し、研究所は傷病兵の病院に。そして、爆撃を受け、リーザは死んでしまう。
 戦争が終わり、ヤンは切手を売ってチホタ荘を買い取って、ホテル・ジーチェを開く。有り余る金で豪華な調度を揃えるが、2月事件によって社会主義政権となり、金持ちのヤンは全てを失い、監獄に送られる。監獄にはかつての金持ち達が収監されているが、かつて同胞を裏切ったヤンは仲間に入れてもらえない。
 ビアホールを修繕し終わったヤンは、年老いたヴァルデン氏を迎え、ビールを注ぐ。そして小銭を渡し、「あの日のお釣りをお返しします」と言い、二人はジョッキを合わせるのだった。





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最終更新日  2009年02月23日 16時46分40秒
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