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2010年12月17日
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この作品はフィクションであり実在の人物団体等とは一切関係ありません。
Copyright(C) 2008-2010 Kazuo KAWAHARA All rights reserved.

「それで、今、ヤシンはどこにいるのですか。会って、話をしてみましょう」

 スルタンは、ヤシンと会うのが久し振りだった。小学生頃だったか、それもスレイマン、カシムと一緒に会ったのだから、印象はそれほど残ってはいない。

「あの崖に一番近いところに家のある、ガイスがヤシン様を助けました。ヤシン様は、今は、私達が砦として使っています、古い城の中にいらっしゃいます。いえ、城と言いましても、この田舎のことですから、ちっちゃなものです。シェイクの館の十分の一もありません。ただ、そこは、ご案内させて頂きますが、ちょっとした崖を利用しているものですから、外部の者では攻め難いのが特徴でございます。難攻不落でございます」

 スルタンはファリファの言うのを聞いて、大体見当は付いたが、その城というのは、切り立った崖の上に築かれた、つり橋で渡るしか手だてのないところだったような記憶があった。勿論、訪れたことはない。

「あそこでしょうね。私にもうっすらとはしているが記憶がある。霧のかなたにぼんやりと見えていた。切り立った崖の上と言ったが、周りも険しい崖に囲まれていて、あそこには、ヘリでも飛行機でも近づけないのではないかと思われる。確かに、難攻不落かもしれない。近代兵器を持ってしても攻め難いことだろう。大部隊の大戦などはとても出来そうもない」

 スルタンは、まるでSF映画にでも出てきそうな、その佇まいを思い出していた。

「仰せの通りでございます。それに、良く霧が出ますし、これからは、冷たい強い風、それに雪、霙などが吹き付けたりしますから、とても、攻撃することなど、いえ、無事、たどり着くことさえ難しいところでございます」

 ファリファは、スルタンをその場に待たせると、身支度を整えに奥の部屋へと入って行った。

 きっと奥には、あの年老いた母と、ヨーロッパ留学から戻っている娘がいるに違いないと思っていた。

 ファリファは、直ぐに戻って来た。

 城の周りには既に、深い霧でも出ているのだろうか。手には、レスキュー部隊が持っていそうなフラッシュライトを持っていた。

「シェイク。今日は、特に霧が深いですから、お気を付けください。でも、風がそれほど強くないですから、救われます。それでは、宜しければ参りましょう」

 ファリファが、玄関の扉を開けると、冷たい霧が中に流れ込んで来た。リヤドから戻ったばかりのスルタンには、身に沁みた。ぶるぶるっと体を震わせると、ファリファの後に付いて歩き出した。

 ファリファは、そんなスルタンを見て微笑んでいる。スルタンは、その笑顔を見て、まるで天使のような、清らかで美しい笑顔だと思っていた。

 歩き始めると、徐々に寒さに体が慣れてきた。

スルタンはもともと身長一八二センチ、体重八五キロのがっちりとした体格だったし、アルバハの寒い気候の中で育って来た分けだから、この辺りは、シェイク家のあるところよりは寒いとは言え、心地良い寒さと感じるようになって来た。


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最終更新日  2010年12月17日 23時35分14秒
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