全3件 (3件中 1-3件目)
1
午前1時45分に僕を含む13人を乗せ離陸したこのB-29は、ちょうど日本の『四国』という島に差し掛かっていた。 ここまでの道のりは穏やかで、幾分居眠りをする余裕さえあった。 爆弾倉の入り口に呼び出しがかかり、中でこれから投下準備作業を行う為の警固に当たってしばらくすると興奮気味にパーソンズ大佐とモーリス・ジェプソン陸軍中尉、フィアビー少佐が出て来た。 三人とも無言で出てきたが、顔には安堵の様子が伺える。「ご苦労だが、このまま目標地点に入るまでここの警固を頼む。」 パーソンズ大佐は僕ともう一人兵士にそう言い残して立ち去った。 警固にあたっている僕の反対側に立っているのはどうやら1階級下の1等兵のようで、残されてしばらくの後僕に小声で話しかけてきた。「無事にこの作戦が終われば、私達は『銀星章』もの間違い無しでありますね…。」 少し根拠を理解できないで居るふうの僕の顔を見て彼は一言付け加えた。「ぃぇ…ただ昨夜『銀星章』という言葉をジェプソン中尉とフィアビー少佐の会話から漏れて聞こえてまいりましたので…。」 それ程の『大作戦』ということなのか…。 そう思いながら爆弾倉の扉を振り返った時、機内放送がかかった。 それは、機長のディベッツ大佐の声だった。「諸君、我々の運んでいる兵器は世界最初の原子爆弾である」 その時の僕は、未だ『原子爆弾』というものが、どんな爆弾なのか全く知らなかった。 広島原爆投下まであと1時間15分…。
2006年08月06日
コメント(0)
テニアン島北飛行場では、夜中だというのにまるで真昼のように滑走路が煌々と照らされている。 全6機のB-29に今のところエンジンに火は入っていない。 今は佐・尉位のみの最終打ち合わせがされている。 つい1時間ほど前の出撃命令の時にディベッツ大佐が「今夜の我々の行為が歴史を作るのだ」と言っていたものの、代行要員の僕としては余り実感が無い。 そんな訳でぼんやり滑走路脇で爆撃機を眺めている横では上等兵以下の連中が雑談を交わしていた。 話の内容からどうやらB-29気象観測機フル・ハウスの搭乗者達のようだ。「それにしても、あのノーズアートは傑作だなぁ!!」「だろ!?俺が案を出したんだ。もっとも、その案は俺のものではない形で進言されちまったんだけどな。」「よく思いついたな、『簡易トイレから日本人を蹴りだす』モチーフなんて。」そう言いながら全員が大笑いをしている。 他にも話の内容からすると彼らは『長崎』の上空気象を観測するらしい。 この作戦には実は攻撃目標が他に二箇所が設定されていた。 第一攻撃目標は広島ではあるが、予備として第二目標を『小倉』第三目標を『長崎』としていた。 予備も含めて、その三箇所全てに気象観測機を出すようだ。 そこまでして成功させなければいけない作戦なんだろうか…。 馬鹿騒ぎしている連中から夜空に目を移すと、たくさんの星々が何も言わずに僕たちを見下ろしていた。 テニアン島離陸まであと3時間15分…。
2006年08月05日
コメント(0)
僕がテニアン島に配属になって随分経つ。 今夜はいつもに増して湿度が高く寝苦しいのも手伝って、夜更かしをしている他の兵士達の笑い声を聞きながらベッドの上でアメリカ本土に居る母親に手紙を書いていた。 そこへ同じ部屋の仲間のうちの一人が、かなりの『酒の臭い』を連れて僕に話しかけてきた。「よぉ、どうだい?眠れないのか?」 それに対する返事は彼から目を反らす事で事足りる。「まぁ、無理も無いな。8月6日の『極秘大作戦』の欠員が出た。代わりにお前が行く事になったんだ。興奮もするだろうょ?」 そういって彼は馬鹿笑いし始めた。 僕は今日テニアン島に帰還した極秘作戦を担ったB-29に『風邪をこじらせた兵士』の代わりに搭乗する事になった。 機長としてポール・ディベッツ陸軍大佐、兵器担当兼作戦指揮官のウィリアム・S・パーソンズ海軍大佐が任命され、他にも爆撃手にトーマス・フィアビー陸軍少佐が登場するという事以外に多くを知らされていない。 どちらにしろ、この戦争は最早ただの殺戮に変わり始めている事に疑問を抱いていた僕にとっては名誉でも何でもなく、ただ、今はこのテニアン島からの任務の終わりを待ち望んでいるところだった。「手紙に遺言じみた事なんか書く必要なんか無いぜ。日本にはB-29みたいに成層圏を飛べる翼なんかもってねぇんだからょ?まぁ、気楽にいけや。」 そう言い残して彼はまた仲間のところへ戻っていった。 テニアン島離陸まであと27時間45分…。
2006年08月04日
コメント(0)
全3件 (3件中 1-3件目)
1