いつか君に出会うまで~後編~






俺も身体を起こし、キラの隣に肩を並べた。

「僕は・・・、僕はね・・・。」
俺の話を聞いている間に穏やかになっていたキラの身体が、また小刻みに震え始めた。

俺はそんなキラの肩に柔らかなブランケットをかけて、そっと抱き寄せた。
「アスラン・・。」
「ゆっくりでいいよ、キラ。焦らなくていいし、言いたくないことは言わなくていいから。」
「うん・・。ありがとう。」

キラは目を閉じ小さく深呼吸をした。
そして目を開けると、静かに話し始めた。

「僕は・・、僕の本当の名前は・・サラ・・。」
「・・・サ・・ラ・・?」
キラ・・じゃない?
別人だというのか?

「サラ・ムーアって言うんだ。」

俺の頭の中で、その名前が何度も何度も繰り返し聞こえてくる
サラ・ムーア
キラではないその名前。

何故?
その髪も瞳も唇も声も、全てがキラなのに?

「でも僕はキラだよ、アスラン。」

サラと名乗りながらキラだと言う。
俺は段々訳が分からなくなってきた。

「ごめんね。訳分かんないよね?」
困ったような笑みを浮かべ、俺を上目遣いに見る。
まるでキラに見える人物の名は、サラ。

いったい、何がどうなっているんだ。

「きっと、すぐには信じてもらえないと思うけど、僕は・・今僕が生きている時代は、CE272年。この時代から約200年先の未来なんだ。」

「なっ・・・・」
なんだ・・・・って・・?
今何て言った?

CE272年・・・?

200年先の世界?

「やっぱ、信じられないよね?未来からやってきました。はい、そうですか。なんてあっさり信じちゃう人なんか居ないよね?」

サラは俺の肩に頭を乗せて、少し寂しそうに笑った。

俺は返す言葉も無く、ただ隣に居る人物を見つめているだけだった。


「これね、時空移動装置。つまりタイムマシンってやつ。」
そう言って残り時間を示した腕時計を俺に見せた。
「僕の時代から100年位前に箱型のタイムマシンは出来ていたんだ。だけど、それって目立つじゃない?僕らは本当は過去の人と接触を持ってはいけないんだ。歴史を変えるわけには行かないから。」

そこで一息ついて、サラは俺からの返事を期待していないかのように話を続ける。
「だから研究されてこんな形になったんだ。でね、制限時間が6時間。歴史に影響を与えることとか、制限時間を守らなかったりしたらこれに仕込まれた自爆装置が作動するんだ。」
「自爆装置!?」
思わず聞き返した俺に、サラは俺の肩から頭を離しにっこりと笑った。
「やっと喋った。」

「サ・・・ラ・・?」
「キラでいいよ。アスラン。だって僕は・・・。」
一度言葉を切ったサラは、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。

「だって、僕は・・、キラ・ヤマトの生まれ変わりなんだから。」

「生まれ・・・変わり・・・・?」

耳から聞こえてきたその言葉を俺は理解しようと、思考を巡らせた。
しかしまるで初めて聞いた言葉のように、それは具体的な姿を見せることなく耳の奥に留まった。

生まれ変わり?
キラの生まれ変わりだというのか?
俺の隣にいる、このサラと名乗った少年が?

「アスラン・・?」
サラは心配そうに俺を覗き込む。

俺はいったいどんな顔をしているんだろう?
サラは酷く哀しそうに、視線を逸らし目を伏せた。

「やっぱ、信じてはもらえないよね?余りにも話が突飛過ぎるもんね。仕方ないよ・・。」

「キラ・・・。」

「アスラン。でも僕は嘘なんかついてないよ。僕はキラなんだ。」
必死に訴えてくるわけじゃない。
けれどその瞳は本当に真剣で、ひとかけらの曇りもなかった。

「話を・・・聞かせてくれないか・・。」
俺は渇いた喉からやっとそれだけ言葉を搾り出した。
「うん。」
サラは小さく笑った。
見なくても、分かる・・。

「僕の時代にはユニウスセブンがあるんだ。コーディネィターとナチュラルの戦争終結を記念するのと、もう二度と悲劇を起こさない為に。そこに作られた終戦記念公園に僕は捨てられていたんだ。」
「ユニウスセブンが?」
「うん。何人もの命が散った農業プラント。悲劇の象徴として、再建されたんだ。」
「そう・・か・・。」

ユニウスセブン
母が命を散らした場所。
そして、キラを死に追いやった原因になったテロリスト達が落下させた、農業プラント。

その再建されたユニウスセブンに、捨てられていた・・・?

「捨てられていたって、お前・・。親は・・・・?」
「わかんない。拾ってくれた人が教会の神父様のところに連れて行ってくれたんだって。ムーア神父が育ててくれて、サラって言う名前も付けてくれた。」
「手がかりは、何もないのか?」
「・・・うん・・。」

寂しそうに微笑むサラ。
ずっと寂しい思いをしてきたに違いない。

「サラって言う名前に、ずっと違和感があったんだ。なんだか自分の名前じゃない気がして。拾われたんだから、本当の自分の名前じゃないんだろうからって思ってたけど、捨てられてたの、赤ちゃんの頃だし。親が名前付けてくれてても、それを認識してるわけないよね。」

俯き硬く握り締められた手は、少し色を無くしていた。
その手にそっと俺の手を重ね、手のひらを解かせる。
互いの手を俺たちはどちらからともなく、握り合った。

「学校に行くようになって友達が沢山出来て、皆で遊んでても誰かを忘れてる気がずっとしてた。いつだったか『ねぇ、あの子は一緒に遊ばないの?』って友達に尋ねてしまったことがあって、『誰だよ?あの子って・・。』って逆に訊かれても、おぼろげな姿が浮かんでくるだけで、名前も分からなくて答えられなかった。だから皆に凄く不思議な顔をされたんだ。変でしょ?」

サラはばつが悪そうに笑った。
俺は掛ける言葉もなく、ただ繋いだ手に少しだけ力を込めた。

大きく一息ついて、サラは話を続けた。

「ある日ね、珍しく課題も終わってゲームにも飽きて、何気なくリビングでテレビを見てたんだ。画面には何か良く話の分からないドラマが流れていて、見ているって言うか眺めてた。そしたらね、主人公が銃で撃たれそうになったのをヒロインの女性が庇って撃たれるっていう場面があって・・・・。」
「キラ・・・・、それって・・・。」

まさか一年前の今日の出来事を?

「うん・・・。その場面を見たとたん、僕の脳裏にあの日の出来事が蘇ってきた。夕食を終えてレストランを出た時、君の肩越しに街灯に照らされて鈍く光る拳銃を見つけた。僕は夢中で君を突き飛ばして、その銃から放たれた弾に撃たれたんだ。」

忘れたくても忘れられないあの日の出来事。
今でもはっきりと思い出すことができる。
キラの血の感触も、冷たくなっていく身体も・・・。

「君が僕を呼ぶ声も、僕を抱きしめてくれた腕の力強さも、全てが昨日の事のように思い出せた。それからは記憶が一気にフラッシュバックしてきて、パニック状態になったんだ。けど、僕の異変に気付いた神父様が、僕を抱きしめて落ち着かせて眠らせてくれた。3年前のことなんだ。」
「3年前・・・。キラ、お前は今何歳なんだ?」
「17歳。14歳の時思い出したんだ。幼年学校で君と初めて会った時の事から、桜の木下での別れ。敵同士になり殺しあった事も、共に戦ったことも。そして、君を愛していたことも・・・。」
「キラ・・・。」
17歳。
一年前のキラより2歳も若い。
きっと誰かと肌を合わせるのも初めてなのだ。
だから、あんなに震えて・・・。

俺は思わずサラを抱きしめた。
サラも俺の背中に腕を回して、抱きしめ返してくれる。

このまま・・・離したくない・・。

けれど、引き止めて制限時間を過ぎれば、キラの生まれ変わりであるサラまでも、俺は殺してしまうことになる。
そんなことは、絶対にダメなんだ。

「神父様は僕の話を少しも疑うことなく、真剣に聞いてくださった。するとね、神父様はキラに心当たりがあるとおっしゃったんだ。【伝説の蒼き翼】ではないか・・と。」
「蒼き・・・翼・・?フリーダムか!?」
「うん・・・。そうみたい。」
サラは俺の腕の中で照れくさそうに笑った。
「伝説になっているのか・・。凄いな、お前は。」
「何言ってんの?アスランだって伝説になってるよ?」
サラはひょこっと顔をのぞかせて、俺を見上げた。
「えっ!?俺が?まさか・・。」
「だって【正義の紅き剣】って、有名だよ?」
「・・・嘘・・。な、なんか・・・恥ずかしい・・な?」
「だよね。」
俺たちは顔を見合わせて、笑ってしまった。

「あ、アスラン笑った。ずっと・・・見たかった・・。こんな笑顔。」
サラは俺の頬にその細い指先で触れた。
俺を見上げるその瞳は、少し潤んで見えた。

「逢いたかった・・・。ずっとずっと逢いたかった。記憶が戻ってから思うのは君のことばかりで・・。もしかして君も生まれ変わってるんじゃないか?いつか逢いに来てくれるんじゃないかって・・・。けど・・・、手がかりもなくて・・僕・・。」

キラキラと光る紫の瞳は涙で濡れて、溜まりきらなくなった大粒の涙がサラの滑らかな頬を伝って落ちた。
俺はそっとそっと、その唇を塞いだ。

塞いだ時と同じようにゆっくりと唇を離せば、サラは俺にしがみついてきた。
「だから、抱いてっ!僕を。ひと時でもいい。君を感じたいんだ。お願い・・・。」

少しでも気を緩めればその望みに応えてしまいそうになる自分の欲望を硬く封印して、俺はしがみつくサラの腕を優しく解いた。

「アスラン・・。どうして?」
哀しげな瞳で俺を見るサラ。

ごめん。
でも、これは君の為なんだ。

「お前を一度でも抱いてしまえば、俺はお前を離せなくなる。そうすればお前は消えてしまうんだぞ!そんなこと、出来るわけないだろう。」
「構わないっ!たとえ僕が消えてしまうとしても。生まれ変わった僕の世界で君に逢えないのなら、生きていたって辛いだけだもん。だから・・。」
「ばかやろう!」

パシッ

乾いた音がして、サラが口をつぐむ。
目を見開き自分の頬に手を当てて、俺を見ている。

思わず叩いてしまった。
俺の手のひらも、ジンジンと痛い。

痛かっただろう?キラ。
ごめんね。
でも、俺はっ・・

「お前は2度も俺にお前との別れをさせる気か!もうイヤなんだ・・。あんな思いは。お前を無くすなんて、もう2度と・・。」
「ア・・・スラン・・・。」

血を流すキラの唇に口付けた時のあの血の味。
俺の腕の中で冷たくなる身体。

その全てを覚えている。

自分の身体が、心が粉々に砕け散ってしまいそうな、絶望感。

もう絶対にあんな思いをしたくない。
「2度とお前を無くしたくないんだ・・。」

頬が濡れる。
泣いているのか・・・、俺が?
もう、涙も枯れてしまったと思っていたのに・・。

「ごめん・・・・。ごめん、アスラン。ごめん!ごめんね?もう言わない。居なくなってもいいなんて言わないから。だから、泣かないで・・?」
そう言って俺の涙を拭うサラの目からも、涙が溢れている。

自分が泣いてるくせに『泣かないで』なんて・・・。
サラ、お前はやっぱりキラなんだな。

「きっと、俺も生まれ変わる。俺はお前と出会うためならきっと何でもするよ。俺は結構執念深いから、お前の時代にもしぶとく生まれるよ。」
笑顔でサラの髪をくしゃくしゃとかき混ぜると、まだ濡れた瞳でサラも鮮やかな笑顔を見せた。

「うん、うん。そうだね!きっと・・。」
「さ、もう服を着て。お前は帰るんだ元の世界へ。」
「でも、まだ時間が有る・・。」
「ダメだ!帰るんだ!俺の気が変わらないうちに、早く・・。」
「・・・・うん・・。分かった・・。じゃあ、最後にひとつだけお願い。」
真剣な顔で俺を見つめるサラ。
「なに?」
尋ねるとその頬が少し色を増した。
「ぎゅって・・・抱きしめて。それで、キス・・・して?」
俺から視線を外して、ボソボソと呟いたサラは上気した顔を隠すように俯いてしまった。
「お望みどおりに。でも、下向いてちゃキス、出来ないよ?」
サラはおずおずと顔を上げ、目を閉じた。
俺はその細い体を労わるように、けれど力強く抱きしめて、ありったけの想いを込めて口付けを贈る。

愛してる
愛してる
キラ
おまえだけを愛しているよ
これからもずっと、ずっと
たとえその肉体が姿を失っても、俺の心は全てお前に
いつか再びお前に出会えるその日を信じて・・




身支度を整えサラが俺の前に立つ。

「何処に帰るんだ?」
「出発した場所に。ユニウスセブンの記念公園。」
「そうか・・。お前が出発した日付は?」
「今日だよ。CE272年1月25日。」
「なぜ、今日を選んだ?」
「僕が死んで一年経った君に逢いたかったんだ。僕のこと忘れて幸せになって欲しい。でも、忘れられたくない。きっと、僕のことまだ好きでいてくれてるって判ってたけど、それを確かめたくて・・。ごめんね。疑ったみたいで。」

叱られた子犬のようにしゅんとうな垂れるサラ。
謝ることなんてない。
逢いにきてくれて、俺は嬉しかったんだから。

「そんなこと気にしなくていい。さ、早く。」
「う・・・ん・・。」
帰りを促す俺に、まだためらうような返事をする。
「俺は、また出会えるような気がするよ。俺たちはきっと出会える。」
根拠などない。
帰りをためらうサラに前を向かせるためと、別れを悲しむ俺の心への慰めでしかないかもしれない。
それでも、そう信じていたかった。

「うん、そうだね。アスラン。」
サラは笑って大きく頷いた。
そして、腕にはめた時空移動装置のスイッチを操作する。

やがてサラが現れたときのように不快な音と共に、空間が歪む。
壊れたテレビ画面のように、サラの姿がノイズに飲み込まれていく。

「キラっ!」
思わず手を伸ばす。
割れそうな頭痛にたえながら、最後の一瞬までその姿をこの目に焼き付けようと、気持ちを奮い立たせた。

「アスラン・・。僕は必ず君を見つける。いつか君に出会えるその時まで、僕は何度だって生まれ変わるよ。」
「キラ・・。」
「アス・・ラ・・。アイシテ・・・。」

この部屋に充満していた不快な空気が消え、音も消えた。
そして、サラは帰っていった。

なんとか気を失わずに耐えた俺は、静寂が訪れた寝室のベッドに体を投げ出した。

「俺も何度だって生まれ変わるさ。お前をこの手に抱きしめるために。」

小さな呟きは、俺の心に光を灯して、闇の中に吸い込まれた。






キィ
キィ


金属が擦れ合う音。
とても懐かしい。

昔、ずっと昔。
ブランコに座る小さな背中を、何度も何度も押したことがある。
その感触は今でもこの手のひらに残り、俺の脚を迷わずその場所に向かわせる。


あ・・・・・
見つけた


キィ
キィ
「何度でも生まれ変わるなんて言っちゃったけど・・・。そんな保証何処にもないんだよね。」

ブランコが揺れる。
あの日のように、小さく小さく。

「そう言えば、幼年学校で初めてアスランに会ったのも、ブランコだったよね。僕がうまく漕げなくて、悪戦苦闘してたら・・。」
「漕げないの?俺が背中押してあげるよ?」
「え・・・・?」
フワっと大きく揺れ始めるブランコ。

そこに座った華奢な体が、柔らかな亜麻色の髪をなびかせて、前へ後ろへ流れていく。

「う・・・・そ・・。」
「漕げるようになるまで、俺が背中押してあげる・・。」

ザザザッ

大きく揺れていたブランコは、乗っていた人物の足でブレーキをかけられ、静かに止まった。

鎖を握った手の上に、俺の手を重ねる。

「初めまして。サラ・ムーア君?俺は、キース・ランドル。」
「キース・・・、ランドル・・?」

戸惑いがちにゆっくりと振り向く、その姿を見つめる。
その紫の瞳が、俺の姿を映すと大きく見開かれた。

「やあ、サラ。・・・ううん、違うよね。」

重ねていた手を離すと、ブランコからゆっくり立ち上がり身体ごと俺に向き直った。

「嘘・・・だ・・。」
信じられないと言う様に揺れる瞳には、見る見るうちに透明な雫が溜まっていく。

「また、逢えたね?キラ・・?」
「ア・・・スラ・・ン?」
「あぁ。逢いたかったよ、キラ。」
「アスランっ!」

カシャン

ブランコ越しに向き合っていた俺たち。
キラは、2本の鎖の間から腕を伸ばし俺にしがみついてきた。
邪魔者扱いされた鎖が、ブランコを支える鉄柱に当たって悲鳴を上げた。

「逢えた・・・。やっと、やっと逢えた・・・。」
「嘘。さっきまで俺に逢ってたんだろう?」
「え?」
涙を湛えたまま俺を見上げたキラが、パチパチと瞬きするたびにその頬に透明な道を作った。
「帰る日付と場所まで聞いたのは良かったけど、時間を聞くのを忘れてたから。すれ違ったらやばいと思ってさ、朝からずっとここに居たんだ。」
「朝から・・って、今午後2時だよ?何時から居たの?」
「9時半・・・位かな?」
「僕が過去に行ってすぐじゃない!もう、ほんとに君は!身体冷え切ってるよ。風邪でもひいたらどうするの?」
キラはそう言って俺の体をぎゅっと抱きしめた。

暖かい
この温もりに本当にまた触れることが出来たなんて・・。

俺もキラを抱きしめ、少し身をかがめ肩口に顔をうずめた。
キラの香りがする。
甘くて、懐かしい。
そして、たまらなく愛しい。

「俺の方がせっかちだったみたいだな。お前より2年も先に生まれてしまった。」
「そっか・・・。アスラン年上なんだ。」
「うん。」
「いつ、記憶が?」
「お前と同じドラマを見たんだよ。偶然にもね。」
「ほんとに?」
お互いに抱きしめあったまま、クスクスと笑う。

「けど、きっとお前に聞いてたからだと思うんだ。普段ドラマなんか見ないのに、そのドラマは妙に気にかかってて。」
「うん・・。」
さっきまで笑っていたキラの体が小刻みに震え出す。
短く返した返事さえ、かすかに震えていた。

「アスラン、アスラン。」
「キラ、もう絶対離さない。ずっとずっと一緒に居よう?」
少し体を離して見つめたキラの大きな瞳からは、綺麗な涙が惜しげもなく零れ落ちていた。

「あの日お前に逢えて、本当に前を向いて歩こうと思えたんだ。お前に守られた命を大事にしようって。」
「うん・・うん・・。」
「止まっていた俺の時計を、動かしてくれてありがとう、キラ。」
「アスラン・・。」

こぼれる涙を指先で拭って、唇にそっと俺の唇を重ねる。
少しだけしょっぱいキスは、最期のキスを髣髴とさせてちょっとだけ切なかった。
でも、この温もりは今ここに存在する証。

もう、二度と離さない。

「一緒に生きていこう、キラ。」
「うん・・・アスラン・・。ずっと一緒に・・。もう離れたりしないよね?」
「あぁ。ずっと一緒だ。」
「良かった・・・。」

心から安心したように俺に体を預けるキラ。
俺もまた、その温もりに懐かしい安らぎと愛しさを感じる。

始めよう、今この場所から。
あの日、別々に刻み始めた時をもう一度重ねよう。

「キラ。」
「アスラン。」
手を取り合い、硬く繋ぐ。
悲しい別れを知った俺達だから、再び繋いだ絆はきっと前よりも強い。

だから・・・

互いの温もりを隣に感じながら、一歩ずつ歩いてこう。
二人で創る、光差す明日へ。

Fin

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